74-相談。
「こっちはおまけなんですけどね」
だされたケーキはホールケーキではなく、円柱型の小さなケーキだった。
濃い緑色をしていて蛍光灯や外の光が反射して光沢を帯びている。
「ピスタチオですかね?」
「よく分かりましたね。ピスタチオとホワイトチョコを混ぜて上にかけた奴ですよ」
「こんな手の込んだもの出すんですね」
ここの班だけレベル高くないか?元々の班の人になんか申し訳ないな。
「いやーこれは小鳥遊さんだからついでですよ」
僕だからついでってどういう事だろう?
自分の中で予想を出すより早く和西さんが答えを言う。
「これ俺のコンテストの試作ですよ。昨日作ったやつなんですけど」
「え、そんなの見せていいんですか?!」
「別に同じ物を作るわけじゃないしいいんじゃないですかねー」
そんなもんなの?まぁ見たからってパクるわけじゃないが……。
むしろパクったら2人とも勝てないしね?
そして続けて小声でそっと。
「正直勝てる気しませんからね。全国のレベルなんて。半分越せばいいかなって思ってるぐらいですよ?まぁ、先生には言えませんけどね」
確かに先生が聞いたら怒られそうな言葉だ。だから小声で言ったんだな。
「それは僕もですよ。とりあえずちゃんと回せるようにだけはしないと」
途中でぐだって終わるのだけは何としても回避しないとね。最下位でもいいからやりきるのが目標だ。
レベルの低い目標だけども。
「何言ってんのさ。狙うは優勝。高級ケーキだよ?始まる前からそんなんじゃ勝てないぞ〜」
何だかんだで話を地味に聞いていた先輩が横槍を入れる。
「現実的に考えてくださいよ」
「現実的に考えてるよ!!北海道で上位2つを牛耳らないと」
全く考えてないじゃないか。ただ高級ケーキの為に言ってるだけじゃない?
「北海道でねー。小鳥遊さんの彼女はこう言ってますけど、当人達より意識が高いですね」
「まず彼女じゃないです。しかもこの意欲は物に釣られてるだけですよ」
遂に彼女扱いされ始めたか……。
先輩を見ると「彼女だって〜」っと1人にやけてる。
誤解が広まるからその反応はやめてほしい。
「物ですか?あ、もしかして高級ケーキ?」
「そうですよ。なんか優勝したら先生が東京の高級ケーキを買ってくれるらしいんですよ」
当人の知らない間に決まってた事だけどね。
「小鳥遊さんのコンテストなのに音羽さんが貰えるんですか?」
「あ、先輩がサーブ役ですよ。調理よりも心配なんですけどね……」
「こんな可愛い売り子を持ってくるんですかー。それだけでも売れそうですね」
「後輩くん聞いた?可愛いだってさー!もー後輩君だけだよそんなこと言ってるの!私が売り子するんだから絶対売れるもんね!!」
自意識過剰ですよ。確かに黙ってたら死ぬほど可愛いのは認めるけどね?でも黙ってたら売り子はできないんですよ知ってました?
「絶対何かやらかしますもん。そんな未来が見えますよ」
何で誰もわかってくれないんだろうか?
ケーキをフォークで切って口に運ぶ。
「少しはわたしを信用してもいいんじゃないの?!」
「このケーキ美味しいですね」
「わたしの話を聞け〜!!」
うるさいなぁ。
「でも、どこにでもある平凡なケーキなんですよねこれだと」
結構ガチでつくってるじゃないか。半分くらいでって全然その気ないでしょ。
「これでも納得いかないんですか。流石ですね」
「小鳥遊さんだってこんなんじゃないでしょう?」
「いやまだ全然進んでませんよ?蜜柑使おうと思ってはいますがね」
「蜜柑ですかー。難しそうなところ行きますね?」
「何と合わせるのがいいのかさっぱりですね」
桜と合わせてやってみたいんだけどマリアージュがクソという神の声がね?
やってみたら美味しいかもしれないのに……。
「蜜柑とですか……。まぁチョコとかはやっぱり合うでしょうね」
「チョコは王道ですよね。でもそれだと普通すぎて……」
「わたしを置いて難しい話しないでくれる?」
「うるさいですよ。今日は和西さんと話しに来たんですからおまけの先輩は黙ってケーキ食べててくださいよ。好きでしょう?ケーキ」
「好きだけど!!そうじゃない!なんか違うでしょ〜!」
「まぁまぁ、試作で申し訳ないですけど食べてくださいよ」
ナイスカバー。流石和西さんですね。先輩なんて甘いもの出しとけばいいんだ。
最近先輩の扱いが雑だって?気にしない気にしない。先輩が自由すぎるからそれに合わせないとね?
「むぅ……。いただきます」
なんか納得いかなさそうな顔してるけどケーキをひとかけ口に入れると「美味しっ」と機嫌直してケーキを貪り食べ始めた。
やっぱりちょろいなぁ……。でも黙って食べてる時は可愛い。何も知らなかったら好意も抱きそうなものだな。
「まぁ、考えられないけどね」
「ん?なんか言いましたか?」
「あ、なんでもないです」
危ない、声に出てた。先輩は……うん。ケーキに夢中だな。
「生地ももう冷めたので食べ終わったら準備しましょうか」
「そうですね」
先輩の死刑宣告が告知されたな。幸せな時間は終わりですね。




