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73- ほっぺ。


「帰りたい……。甘いものは食べるだけいいや……」隣でぶつぶつ言ってるの怖いんだけど。


 本当になんで来たんだよ……。先輩の行動原理がさっぱりわからない。何も考えずに思いついた事だけで動いてるんじゃない?


「帰ったらどうですか?別にここに入るつもりもないんでしょう?」

「そうだとしても人として駄目でしょー」


 お、それくらいの常識は持ち合わせてたか。


「まぁ、後飾り付けだけですしおわったら帰れますよ」


「果物乗せるくらいなら私にも出来そう……」


 すっかり疲れ果てた様子の先輩だが、残念ながら果物乗せる前に生クリームを塗る作業が残ってるんです。

可哀想だから言わないけどね。


「小鳥遊さん、音羽さん。生地が焼けて冷めるまでは在校生と話する時間になってるんでこれ食べながらゆっくり待ちましょうか」


 トレーにケーキと紅茶を載せて和西さんが戻ってくる。


「ケーキと紅茶まで用意してあるんですね」


「手伝いの生徒が自由になにか作らされるんですよ。だから美味しくなかったらすいません」


 辺りを見回すと、ガトーショコラやマフィン、ミルクレープなど班それぞれに違うケーキが用意されていた。


「これ手作りですか。うちだけ2つなんですね」


 他のところはケーキひとつなのにここだけ2種類もある。1つはケーキではないけど。


「こっちがメインですよ。みんなケーキだから少し趣向を変えてみようかなって」


 差し出されたそれはおしゃれなカクテルグラスに茶色のフレークとジュレが注がれた2層のデザートだった。


 上にはミントやライムの皮に金箔まで飾られている。


「かなり豪華ですね……?オープンキャンパスで出すようなレベルじゃない気がしますけど。それにこの中に入ってるのって……トマト?」


 もしかしデザートじゃないのか?でも甘い匂いがちゃんとするし見た目も高級なレストランとかに出て来そうなデザートだ。

偏見だから本当に出てくるのかはわからないけど。


「トマトですよ。先生にも製菓の学校なんだからお菓子を作れって怒られましたよー」


 笑いながらそう答える和西さん。

てことはこれはお菓子じゃないのか。当たりなんだかハズレなんだかわからないね。


「まぁ確かにケーキとかと比べたらお菓子。って感じはしませんね」


「でも食べれば分かりますよ?俺はデザートとして作ったんですけどね」


 和西さんくらいの人が作ったんだから不味くはないと思うけどどんな味か気になる。

てゆうかお菓子が出てきてるのに先輩が一切反応しないな、どうしたんだ?

気になって横を見てみると、虚空を見つめ放心状態の先輩が座っていた。


 そんなにダメージでかかったか?!

このままだと先輩が可哀想なことになりそうだな……。


「先輩?おやつタイムですよー?2つもありますよ」

放心状態の先輩の肩を揺すって呼びかける。甘いもので釣るのも忘れない。


「おやつ……?もう作りたくないよ?」


「作るんじゃなくて食べるんですよー大丈夫ですかー?」


 和西さんが苦笑いしてるよ。

仕方ない。こうなったら最終手段に出よう。

先輩後ろに立ち、両手で頬を掴んで伸ばす。

うわ、先輩のほっぺ凄い柔らかいな。なんか背徳感が……。まぁ日頃の仕返しだ、やましい事はなんもない。


「なにすふのほうはいふんー。やめへよ〜」


「あ、現実に戻ってきました?」


 手を離して椅子に戻る。


「なんの話?!突然なにするのさ……」


 頬をさすりながら不満を口にする。

反応しない先輩が悪いんですよ。


「先輩がいつまでたっても人の話聞かないからですよ?すいません和西さんくだらない事して」



 苦笑いしていた和西さんに一応謝っておく。


「いえ、大丈夫ですよ。仲良いんですね?」


「仲良いんですかねこれは……」


 中谷にしろ和西さんにしろなぜ仲がいい関係だと思われんだろうか?謎だ……。


「普通に呼んでよ全く……」


「普通に呼びましたよ。いいから早くいただきましょうよ、せっかく和西さんが使ってくれたんですから」


 漸く目の前のグラスに気付いたのか、目を輝かせてグラスの覗き込みはじめた。

「わー!なにこれ綺麗!ゼリー?美味しそー!……あれ?でもこれトマト入ってない?」


 うん。やっぱり同じ反応だよね?


「赤と黄色のミニトマトが入ってますよ」


 とりあえず食べてみよう。いただきます。

まずはスプーンでジュレの部分だけを掬って口に運ぶ。

シロップをゼラチンで固めて崩して作ったのか、結構甘みが強い。

なのに後から柑橘系の爽やかな酸味がきて甘さを中和してくどくない。ライムとスダチかな?


 次はトマトだ。ちょっと抵抗があるけど……。決心して食べると、柔らかくてすぐに口の中で溶けてジュレと一緒になった。


 しかも凄く甘い。トマトのあの酸味と味を想像していだけど全然違った。

仄かにトマトの風味を感じるけどこれはもう完全にスイーツだ。


「確かにスイーツとして出せますね。正直こんな味とは思いませんでした」


「よかった。音羽さんはどうですか?」


「美味しいです。ケーキとは違った美味しさですね」


 あれ?先輩がやけにお淑やかだな。もしかして口に合わなかったのかな?


「これどうやって作ってるんですか?」


 今後の参考のために一応聞いておこう。

「ミニトマトを湯むきして皮をむいて砂糖を多めのシロップを作ってミニトマトをつけて柑橘系の果汁をシロップに加えて数日寝かせたらシロップをゼラチンで固めで崩して、後は盛り付けるだけですよ。簡単でしょう?」


「結構お手軽ですね。今度作ってみます」


「ぜひ試してください。それじゃケーキも食べちゃいますか」


 トレーからケーキを取って差し出してくれた。




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