46-イメージ像。
すると誰もが聞いたことのあるようなフレーズが鳴る。
先輩が手を動かしてるだけだけどなんかちゃんと音になるのって嬉しいものだ。
「どうわかった?」
「分からなくもないですけどとりあえず離れてもらってもいいですか……。色々と当たってるんで」
言われて自分の状態に気づいたのか慌てて離れいく。
「……後輩くんのえっち」
胸の前で手を交差させてガードしながら罵倒してくる。
「いい加減このくだり飽きたんですけど……。先輩がいつもセクハラしてきてるんじゃないですか」
「そ、そんなことないもん。わたし純粋な女の子だし?」
先輩の事を知らない人達は多分そう思ってるかも知れませんけどね。
学校にいる凄く可憐なバイオリンを嗜む楽聖少女。
でも実際はわがままで自由な甘いもの好きな天然なんだけどね。
「現実を知ったらみんな驚くだろうなぁ」
「なんの話?」
「先輩の学校での理想像と現実の乖離具合についてです」
「難しい言葉使わないで?」
「みんなが思ってる先輩のイメージと現実の残念さの差の話」
「残念ってなにさ!てゆうかどんなイメージ持たれてるのわたし?!」
当人が知らないのが幸いかもしれない。
「知らない方がいいこともありますよね」
先輩が弾いていたのを思い出して指を動かしてみる。
先程とは比べものにならない音がなってもはや曲にすらなってない。
やっぱ難しい。普通に無理だよね。
「へたっぴだね。てか本人なんだから知るべきでしょ!」
「初心者になにを求めてるんですか。クラスの人に聞いてみたらどうですか?」
「いやそれは恥ずかしいでしょ……」
学校でいきなりクラスメイトに
『わたしってみんなからどんな風にみられてるのかな?』
って聞かれたらちょっとおかしいかも知れない。
でも普段の先輩ならそれがしっくりくるようなキャラなんだけど……。
「一言でいうと可愛い音楽以外目に映らない女の子。ですかね」
「え?なにそれ……。どしたらそんなイメージになるの」
「さぁ?先輩ってもしかして一年生の時から教室では音楽の本とか楽譜読んで放課後はレッスンに行くかあの教室で演奏してたり、遊びに誘われても大会が近いからとか言って断ってたり。そんな感じだったんじゃないですか?」
想像できる。
それで仲良い友達がいないとか。
「ぜ、全部当たってるよ……。後輩くんのもしかしてみてたの??」
「んなわけないじゃないですか……先輩が一年生なら僕は中学生じゃないですか」
「でもそれだけじゃん!」
「いやーむしろ良かったんじゃないですか?先輩のこの残念さが広まるよりは」
てゆうか常に本を読んで放課後はすぐに教室から消えて付き合いも悪くて友達と会話もしないとか普通
に考えたら根暗とか可哀想なやつとか言われるまであり得るんだし美化してくれてよかったじゃないか。
「だから残念ってなんなの?!」
「そういうところですよ。そろそろこれ返しましょ」
問い詰める先輩を無視してブースを抜けて店員にバイオリンを返す。
「待ってよ後輩くん」
「行くところあるんじゃなかったんですか?急がないと言ってた時間過ぎちゃいますよ」
そろそろ12時になる。
「そうだけどさ!こっちの話も重要でしょ。わたしの学校生活がかかってるんだよ!」
んな大袈裟な。
「今まで通りにしてればいいんですよ。それよりほらはやく案内してくださいよ」
「納得いかないなぁ……。後できちんと聞くからね?」
残念なものは残念なのだ。




