44-試奏。
「後輩くんこっちこっち」
行くところがなくて迷った末に先輩が選んだのは楽器屋だった。
楽器弾けないんだけどなぁ……。
先輩が向かったのは弦楽器のコーナー。
バイオリンだろうなぁ。
「待ってくださいよ」
「ほらほら!見てこれ欲しいなぁ」
指差された先を見るとそこにはやはりバイオリンがあった。
ガラスケースに入ってるんだけどこれお高い奴じゃない?
値段をみると思っていた金額より桁が1つ多い。
「こんな高いの持ってても怖くて使えないですよ」
お値段なんとバイオリン1つに弓までお付けして本体価格120万円でご提供させていただいております。
こういうのってオーダーメイドで作るような金額じゃないのか……。
専門店でもないしせいぜい2.30万くらいだと思ってた。
「そう?弾いてみたいなぁ」
「流石にこれは無理じゃないですかね?」
「うぅ。絶対いい音しそうなのにぃ」
「学生の手には追えないですね。あっちので我慢しましょう」
壁に掛けられているバイオリンの山を指差す。
「宝くじ当たったら絶対に買ってやる……」
名残惜しそうにバイオリンを見つける先輩を連れて移動する。
「先輩宝くじなんて買ってるんですか?」
「いや?買ったことないよ」
「じゃあそもそも当たらないじゃないですか……」
取らぬ狸のなんとやらだ。
「いつか買うもん」
「ならあのバイオリンもいつかですね」
「しょうがないから今日はこっちで我慢してあげるよ」
「はいはい。賢明ですね」
いちいち突っ込んでたらキリがないね。
「先輩の持ってるのはいくらくらいなんですか?」
「んー15位じゃないかなぁ?」
十分高い。
「高いですね……」
「後輩くんもどう?楽しいよバイオリン」
「いやそんな理由でそんなにお金はかけられませんよ」
「安いものあるよ?」
「因みにいくらくらいです?」
どうせそれでも数万くらいはするだろう。
「んーあ、すごく安いのあるよ?あそこに」
「本当だ……。これで新品……?」
5000円でセットで売ってる。
「ぽいね。安すぎて逆に怖いなぁ曰く付きかな〜?」
「やめときましょう。それより先輩試奏しないんですか?あの5000円のとかおすすめですよ?」
「なんであれなのさ!もっといいのあるじゃないの!」
「じゃあどれ弾くんですか?」
辺りを見回して悩む先輩。
「んー一番高いしあれにしようかな」
「高けりゃいいんですか……」
「だって高いの弾く機会がないんだもん!」
まぁ本人がいいならいいけどさ。
「すいませんーこれ試奏したいんですけど」
店員さんを呼んで壁から取ってもらい隣のブースに移動する。
「終わりましたらまた声を掛けてください」
え?店員さんは見てなくていいの?
これ凄い高い楽器ですよ?
こんなもんなのかな?




