42-麦わら帽子。
「量とスピードと味と見た目……全部を満たすって言われてもなぁ」
前回のは時間と量が圧倒的に不足してたからああいうのじゃ駄目だ。
例えば生地を作って焼いてる間に別の部分を作って冷ましてる間にまた生地を作って焼いてる間に組み立てて?
いやでも2回目の時にたくさん生地を焼いちゃえばもう組み立てて出すだけじゃない?
そういう問題じゃないのかな?
「オーブンの都合もあるのか」
組み立ててから冷ますような工程があるものは避けた方がいいのかな?
「難しいなぁ」
大きいの作ってカットして何個も作るのもありかなぁ……。
思考が泥沼にはまり始めたころ、インターホンが鳴り響く。
「ん?誰だろう?郵便かな」
こっちは忙しいのに。
「はいー?今行きますよ」
小走りで玄関に向かい鍵を開け扉を開く。
玄関を開けると鍔の大きな麦わら帽子をかぶった人が立っていた。
えーと顔が見えないんだけど……?
「あの……どなたですか?」
スニーカーを履き白いロングスカートに淡いピンクのノースリーブを着ている。
見るからに女の子だけど肝心の顔が隠れていてわからない。
「多分家間違えてますよ」
とりあえずなんか言ってくれない?
「……」
無言を貫く少女。
逃げないピンポンダッシュとか?新しいな。
「はぁ……。それじゃ忙しいんで迷子なら交番にでも行ってくださいね」
「……ふっ、ふふ。あははは」
突然笑い出す少女。
え?怖……。
いや、てゆうか今の声って……。
「わたしだよ。なんで気づかないかな〜」
そう言って麦わら帽子脱ぐ。
目には涙を浮かべている。
そんなに面白かったか?
「いや普通に顔隠れてたらわからないじゃないですか……。喋りもしないし」
「後輩くんの家に来る女の子なんて他にいないでしょ?あ、後は蘭くらい?」
確かにそんな縁のある人は居ないけどいらないお世話だ。
「そーですね。先輩みたいに暇じゃないでしょうし」
「わたしだって暇じゃないよ!!」
「ならどうしたんですか?」
「後輩くん暇?」
「暇ではないですけど……」
「えー何してるの?」
「レシピ考えてますよ」
「なら暇じゃない。街行こう?」
「人の話聞いてました?」
「まぁまぁーいいじゃないの。もう来ちゃったしね?」
わかってて押しかけてるな……。
てゆうか暇なんじゃん先輩。
「メールで聞けばいいじゃないですか」
「えー……だって絶対断るでしょ」
ほら確信犯だ。
「わかってるならなんで来たんですか……」
「いやー後輩くんなら押しかけたら来てくれるって思ってね」
「暇だったとしてもすぐになんて出れませんよ普通は」
「えーじゃあ待ってるからいこーよー!」
「他に行く人とか居なかったんですか?」
先輩もしかして友達居ないの?
「うーん。休みに出かけるような友達はいないかなぁ……。ずっとバイオリンばっかでみんな誘ってくれなかったのよねー」
なんでだろうー?と唸る先輩。
そりゃプロ?が練習してんのに遊びに誘うとかできなくない?




