4-お財布。
授業中はだいたいレシピを考える。
前回はロールケーキだったからタルトなんてどうだろうか?
そう決めてレシピをノートに書きだそうとすると授業の終わりを告げるチャイムが響く。
そのままHRもつつがなく終える。
「小鳥遊〜!今日これから暇?」
話かけていたのは友達の中谷だ。
いつも絡んでる仲がいい友達。
「いいけどなにするの?」
「行きたいところがあるんだけど学校から10分くらい」
「割と近いね。どこ行くの?」
「まぁまぁ一つ奢るからいこー」
どうやら奢ってくれるらしい。
「予定もないしいこっか」
決して奢りに釣られたわけじゃないよ?
「ついたよ」
住宅街の一角にある小さなケーキ屋さん。
「へーこんな場所にケーキ屋さんなんてあったんだ。よく見つけたね」
家の方向とは違うため普段は来ることがないから知らなかった。
「出来たばっからしいよ。小鳥遊の作ったものよく貰ってるうちにスイーツに目覚めちゃってケーキ屋さん調べてるんだ」
「へぇーなるほど。太っても知らんぞ?」
「食べ過ぎないようにするよ。入ろうか」
「いらっしゃいませ〜」
中のショーケースには沢山のケーキが並べられ建物の中は甘い匂いに包まれている。
「沢山あるねーどれにしようかな〜」
中谷はそう言ってショーケースの中を覗きに行く。
店内を見て回るとケーキ以外にもいろいろあった。
クッキーにチョコレートにラスクと結構種類がある。
意外と本格的なお店なんだなぁ。
お、木苺のクッキーとかいいな。おやつに買って帰ろうかな。
レジに向かうと何やら前の中学生が慌ててる。
財布でも忘れたのかな?
「どうしたんですか?」
店員さんの方を見るともう既に箱詰めが終わっていてキャンセルできる雰囲気じゃなさそうだ。
「ちょっとお財布が見当たらなくて……」
可哀想だし払ってあげよう。
そんなに高いわけでもないし、あいつに奢ってもらえるからチャラだし。
「すいませんこれも一緒に」
「ありがとうございます。袋はお分けいたしますか?」
「あ、お願いします」
流石はプロだ。何事もなかったかのように対応してくれる。
お会計を済ませ袋を受け取り、困惑する学生さんに差し出す。
「はいこれ。次からはお財布忘れないようにね」
「え?あ、はい。すいません……」
「それじゃ友達待ってるから。気をつけてね」
袋を手渡しどのケーキにしようかとショーケースに向かう。
「あの!お金お返しするので連絡先を…」
携帯を取り出してこちらに歩いて来る。
「別に気にしなくていいよ。これくらい」
「そういうわけにはいきません!!」
そう言ってQRコードを差し出してくる。
結局根負けし、連絡先を交換した。
「それじゃあ今日……。いえ明日にお返しに伺いますね!失礼します」
一瞬ちらっと友達の方を見て言い直した。
しっかりした子だなぁ。財布忘れてたけど。
「小鳥遊〜早く決めろよー」
おっとそうだった。
「じゃあイチゴのタルトにしようかな?そっちはなににするの?」
「俺?モンブランかなー」
モンブランも捨てがたいなー。
タルトじゃなくてモンブラン作ろうかな。
「はい、タルト」
「ありがとう。お返しにまた作ったら持ってくな」
「明日休みだしなんか作るん?」
そーだなぁ……。せっかくの祝日だし。
「モンブラン作ろうかな」
「えぇ、今日買っちゃったじゃん」
「仕方ないなぁ、普通のモンブランじゃないの考えてみるよ」
「結局モンブランかい。でもまぁモンブラン美味しいからいいか」
「貰えるだけ感謝しやがれ」
「へいへい〜そんじゃ早くこれ食べたいから帰るわ」
箱を持ち上げて颯爽と駆けていく。
元気だなぁ……。
モンブランの材料買って帰ろ。
そーいやあの子誰かに似てたなぁ?誰だっけ?