40-黒。
スポンジに洗剤をつけて物凄い勢いで洗い始める。
料理できないのに洗い物はこんなに神業なんだ……。
作れないけど洗い物だけをし続けたからかな?
いや、目の前のスイーツに対しての欲望が可能にしてるのだろう……。たぶん。
「後輩くん終わったよー食べよー」
「早いですね」
「早く食べたいからねー。いただきますー」
「美味しいと良いですけどね」
「美味しいでしょ。どんな味か全く想像できないけど」
ほうじ茶と栗って合うってテレビで見たから大丈夫だと思うけど。
「うんやっぱり美味しい。けどほうじ茶少し口に残る気がする」
「そーですか?」
一口フォークですくって食べてみる。
たしかに少し残るけどこんなもんじゃないのかなぁ?
「少しだけね?これでもちゃんと食べられるから問題はないよー」
最後にふるいにかけるべきだったかな?
「直しておきますね」
「良いのに別に。下の酸っぱいやつのところにくると味が変わって別の食べてるみたいで美味しい〜」
好評みたいでよかった。
先輩に全部食べられる前に回収して箱に詰める。
「今日はそれで終わりですよ」
「えーまだそんなにあるじゃない」
「持って帰るんですだめですよ」
「けちんぼー!」
けちんぼって死語では……?
自分用と先輩の家用に詰め分ける。
「最近スイーツが足りないよー」
「スイートポテトあんなに食べたじゃないですか」
「ケーキがたくさん食べたいの!!」
「ケーキバイキングとかいったらどうですか?」
「ケーキバイキング……。ありかも」
「だから今日は我慢ですよ。どうしてもたべたいというなら」
「いうなら?」
「レシピ渡すんで自分で作ってください。手順も見てたでしょう?」
「無理に決まってるじゃん!!」
ですよねー。目玉焼き焦がしますもんね?
成長したのかな?
玄関に向けて歩きながら先輩をおちょくる。
「料理できないですもんね。なら諦めましょうか」
「今度あっと言わせてやる……」
「なんか言いました?」
「ううん?べっつにー。スイーツがないならわたしはもう行くよ練習しないと」
「頑張ってください。あ、聴きに行って良いですか?」
「よくありませーん!!」
振られてしまった残念。
「じゃあ僕は帰りますね。バイオリン聴かせる約束そろそろ果たしてくださいよ」
「いつかね。ケーキありがとね!美味しかったよ」
「それじゃまた今度」
「ばいばーい」
「あ、先輩」
教室に行こうとする先輩を手招きして呼び戻す。
「ん?どーしたの?」
「耳貸してください」
先輩の耳元に顔を近づけて
「先輩ってあんな大人っぽい黒いの履くんですね」
小さな声で呟く。
そしてそのまま真っ赤になった先輩を放置して靴を履き替えて学校をあとにした。




