38-カラント。
「そろそろコンテストのレシピも考えないとなぁ」
予選の時とは違ってただ作ればいいわけじゃないっぽいし早く決めるに越したことは無いんだけ
ど……。
「課題が山積みだよなー」
いつものように調理室で準備をしながらそんな事を考える。
大雑把にでも考えて作っていって纏めないと2ヶ月あるとはいえ、大変なことになりそうだ。
「あっちで出来ないなんて恥ずかしいのだけは回避せねば」
その為にはちゃんと考え始めよう。
あとは売り子の問題もある。
「売り子かぁ」
「何の話?」
「コンテストに売り子が1人必要って話」
「へぇー面白そうだね。決まったの?」
「いや、全然どうしよかってとこ……ろ?」
え?誰と喋ってるんだ?
声のする方に目を向ける。
「え?先輩??なんでここに?」
「びっくりした?いつも後輩くんがやってることだよ!ぼーっとしてるから気づかないんだよ?」
「ちょっと考え事をしてて……。どうしてここに?練習しなくていいんですかーコンクール近いでしょう
に」
「いいのいいのー。休憩も大事!後輩くんの姿を見学しにね」
窓際の台に腰掛けて脚をぶらぶらさせながら答える。
「見て楽しいもんじゃないですよ」
「それを決めるのはわたしだからいいのよー。それより何作るの?早く食べたい」
先輩の後ろの窓は開いていて入ってくるそよ風に先輩の髪が揺れている。
その風はそのままこちらに流れ先輩の甘い匂いを運んでくる。
その香りにドキドキしながら打ち消そうと急いで作業に取り掛かる。
「な、なんでしょうね?見てるだけじゃ暇だろうし考えてみてくださいよ。正解したら食べていいですよ」
「えぇー分からなかったら食べれないの……」
「簡単ですからね」
まぁ、創作だから名前無いんだけど……。
少しくらい意地悪してもいいだろう。
フライパンを用意して火にかけ、茶葉を入れて煎る。
茶葉のいいにおいが部屋中に広がる。
これで大丈夫そうだ。
「何してるのこれ?」
「ほうじ茶を煎ってるんですよ。こうするとまぁ先輩でも分かりやすく言うと美味しくなります」
「なるほどねー。でも後輩くんわたしもう既にほうじ茶使うスイーツを知らないんだけど」
「それは残念ですねー。頑張ってください」
煎った茶葉をすり鉢に移して粉末になるまで擦り続ける。
容器に移して生地を作る。
「あ、これはわかるよ生地作ってるんだ」
「正解です」
天板に流してオープンに流し込む。
焼いてる間に板チョコを包丁で削る。
「チョコも使うの……?」
わからないー。と体を揺らしている。
普通に誰が見てもわからないと思うんだけどね……。
栗の渋皮煮を取り出してミキサーにかけて漉す。
「うるさっ!栗も使うのね……。チョコに栗にほうじ茶に?それは?」
こちらを指差して質問してくる。
「これはレットカラントですよ」
「聞いたことないー」
「んー。赤スグリとも言うらしいですけど。ベリーの一種ですよ。食べてみますか?」
凄く酸っぱいけど。
「知らないなー。いいの?食べる食べる!イチゴ見たいなのかなー」
一粒先輩に手渡す。
「ちっちゃくて可愛い〜。いただきます」
それを口に放り込んで咀嚼する。
「しゅっぱい……」
「ベリーなんだから酸っぱいに決まってるじゃないですか」
「こんなに酸っぱいとは思ってなかった」
知っててやりましたけどね。
つい笑みがこぼれる。
「あー後輩くん知っててやったでしょ!笑ってるもん」
「味知ってるに決まってるじゃないですか。使って作るんですから」
一粒つまんで口に入れる。
酸っぱいってよりえぐい気がするけど。
「うぅ……。反論できない」
生地が焼けたらオーブンから取り出して冷ます。




