127-粉糖。
お久しぶりです
廊下を出てそのまま調理室へと向かう。まさか先輩がふるいの存在を知らないとは……。
どこから持ってきたんだろうか? 家で使ってたものなら一回くらい見たこといると思うんだけど、先輩はそんなの気にしてない気がするし、完成されたものだけ食べられればオッケーなんだろうな。
棚に仕舞ってあるふるいを拝借して先輩のところへと戻る。
するとドアの近くで先生に話しかけられた。
「お、小鳥遊」
「はい? どうしました?」
「なんかあそこから凄い甘い匂いがするけど」
「え」
「今日もなんか作ったのか。大会近いもんな〜。頑張れよ」
「はぁ、ありがとうござます」
なんかよくわからないけど勘違いしてくれみたいだ。
先輩はこういう事を考えないでやりだすから、バレたらどうするんだろうか……。
学校という場所に自分のスペースを確保して楽器を演奏したり、ケーキを食べたりホットケーキを焼いたり本当に規格外だ。
「住む世界が違う……。自由すぎる意味でも」
初めて見たときに感じた感想はどこにいったのやら。
あの時は静かな先輩が絵になってたのに、今じゃだまってる先輩の方が違和感でしかない。どっちの先輩も中身はポンコツなのだ。
「みんな知らないんだなぁ。なんでバレないんだろうか……」
少なくとも何度も見ている中谷はそろそろ気づいてもいいんじゃないかな?
まぁ、こんなくだらないことを考えるなら大会のレシピを詰めるべきだ。中に詰めるもの解決してないんだし……。
バナナ生地をベースにチョコ。問題は中身のムースとそこに入れる果物だ。ムースはバニラが良いと思うんだけど……。
ただこれだと見た目が普通すぎて、先輩に描いてもらったあれがあっても大会に出していいものか。
まあ気にしたら負けと思って、作りきれるものを作ればいいか。まだ学生だし誰も期待してないさ。
「戻りましたよー」
「あ、後輩くん! 遅いよ〜。冷めちゃうじゃん」
「先輩の準備を不足のせいですよ」
「準備は完璧だもん……。ただ知らないだけで」
「なら知識のなさのせいですね」
意地を張る先輩をあしらいながら、冷めたそホットケーキに粉糖を……。
「あれ? なんか冷めた感じしないんですけど……」
手を当てて確かめてみると、普通に暖かい。
「そりゃさっき出来たやつだからね〜」
「ということは先輩は何枚食べたんですか?」
「3枚くらいかな? 後輩くんのコンポート美味しいから粉糖なんか無くても美味しく食べられるよこれ」
「……」
「どうしたの? はやく食べようよ。冷めちゃうよー」
取りに行った意味がないじゃん……。洗って返すのも面倒だしそのまま戻してきた方がいい。
「じゃ戻してきますね」
使われる前に先輩に伝えていま来た道をまた戻ろうとすると腕を掴まれる。
「せっかくあるなら使おうよ」
「なしでも食べられるなら洗い物増やさなくてもいいじゃないですか」
誰が洗うと思ってるんだ……。
「そのまま借りとくというのは……?」
名案とばかりにドヤ顔をしてくる先輩。
「なくなってるのバレたら全部先輩のせいにしますよ」
「それでいいから早く貸してー。食べよ食べよ」
先にもう食べてるじゃないですか、ご丁寧に紅茶までお代わりして。
先輩は知らないみたいだけど学校の調理器具はナンバリングされててすぐになくなってるのがバレるんだよなぁ。
「はいはい。わかりましたよ」
先生に怒られる先輩を想像しながら先輩の焦げたホットケーキをいだこうかな。




