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125-コンポート。

125


「いやー、昨日のケーキは流石に食べすぎた……。また太っちゃう」


「前も言ってましたねそれ」


「女の子はいつだってデブと戦ってるんですー」


 その言い方だとなんか、デブの人と争ってるみたいに聞こえますけど。


「わかってるから買うの控えたらどうですか? 昨日だってあんなに買って」


「後輩くんがたくさん買うから負けてられないと思って……」


 人のせいですか。だいたいこっちは3個で先輩は8個だったはずだ。

 倍とかの話じゃない。ただ単に欲望に負けただけなのでは?


「しかも昨日あれ全部食べたってことですよね。そりゃ太りますよ」


「昨日全部食べたわけじゃないから! 今日の朝に残りの2つ食べたし……」


「食べ切ってる時点でアウトですよ全く」


 先輩の食い意地には抜け目がない。本当にダイエットか何かする気があるのだろうか?

 まぁ、演奏って体力使うってよく聞くしそれだけでも十分だったりして。

 だから大会終わっても弾いてるとか……?


「うぅ……。わかってはいるんだけど、ケーキ達がわたしに食べられたいって語りかけて……」


「来るはずないじゃないですか」


「わたしくらいになるとケーキと対話できるの! 知らなかった?」


「はいはい。そういうことにしておきますよ。でも残念ながら今回はケーキじゃないんで会話できないですね」


 今日はただのコンポート達。スポンジやクリームとかはありません。


「わたしも流石にケーキはちょっと……。出てきたら喜んで食べるけど」


「そこで食べるからダメなんじゃないですか」


「うるさいなぁ。それより今日はなに?」


「ただのコンポートです」


「コンポート? なんか聞いたことあるような、ないような……?」


 あれ? 前にも言わなかったっけ。まぁ面倒だからいいや。


「今回は色々持ってきましたよ」


「え、華麗にスルーされた……」


「食べればわかりますから」


 机の上に瓶に入れたコンポートを並べていく。


「すごい種類あるね」


「左から桃、金柑、林檎、梨にマスカット、枇杷、栗です」


「多すぎない?」


「試作の残骸ですから」


「なるほどねー。てことは家にはこれが大量にあるわけだ」


「ですね」


 たくさんあってもお菓子に使えばいいし、そんなに困ってはいないけど。


「ってどうしました?」


 突然腕を組んで黙り込む先輩。まさか全部もってこいとか言いださないよね……?


「うーん……。まあまいいや! とりあえず食べよっか」


「そうですか? ここで食べなくてもいいんですけど食べてきますか」


「もちろん! これってこのまま食べるものじゃないの?」


「このままでもいいですけど、お菓子に入れたりヨーグルトとか、変わったのだと紅茶に入れたりします」


「へぇーいろんな食べ方あるんだね」


「ジャムと似たようなものですから」


 ジャムより食感があって日持ちしないから使う目処をたてて作らないといけないんだけどね。


「ほー! そっかそっかなるほど」


「本当にわかってるんですか」


「つまり美味しいってことだよね」


「ということでお好きにどうぞー」


 反応せずに華麗にスルーしてあげよう。たべればわかるしね?


「むぅー。いただきます」


 用意しておいた爪楊枝で瓶の中から器用に果物を取り出して口へと運ぶ。

 むすっとしていた顔からコンポートの甘さに釣られて、頬を緩めていく。

 この学校中が目を惹く反則的な表情を、こんないとも簡単に引き出せるのは少し複雑だ。


「ん〜! 当然だけど美味しい」


 先輩に夢中な人達からすれば夢のような環境だろうなぁ。


「ねぇ、後輩くん」


「どうしました?」


「これたくさんあるんだよね」


 並べられた瓶の中に入っているコンポート達を指差して何やら真剣な顔で問いかけてくる先輩。


「そうですね。これの何倍かはあると思いますよ」


「そっか」


 そう言って今度は突然黙り込む。今日の先輩はなんだか気持ち悪い。変なものでも食べたとか……?


「……よし! 後輩くんあした全部それ持ってきてくれない?」


「全部ですか?」


「そ。全部!」


 人の話を聞いてなかったのだろうか。それとも全部食べ尽くすつもりとか?


「どうするんですか?」


「ちょっと面白いこと思いついちゃったー」


 行儀悪く椅子の上にしゃがみこんで、器用に取り出したマスカットを爪楊枝に刺したままこちらを指して、不敵な笑みを浮かべる。

 先輩は悪役というよりは悪どいヒロインの様に見える。自分がどう思ってやっているのかはさておき。

 でもロクでもない事なことは確かに感じる。そこを考えると悪役としては成功なのかもしれない。


「そうですか。せいぜい頑張ってください」


 これから起きるであろう被害の先払い報酬として、目の前に突き出されたマスカットをパクリと頬張る。

 うーん。美味しいけどやっぱりコンポートにするにはシャインマスカットは勿体無い。


「あっー! ちょっと食べたいなら自分で取ってよね〜」


「先輩から差し出してくれたんじゃないですか」


「もー、屁理屈ばっかり。明日忘れないでよ?」


「はいはい。わかってますって」


 先輩が何をする気かはわからないけど、頼まれたら仕方ない。

 先生とかに怒られないことを祈るしかない。

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