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124-油断。


 放課後、ヴァイオリンが聞こえる廊下をケーキを持って歩く。

 少し前までのドタバタしたのが嘘のような静かな放課後。まぁこの後うるさくなるんだろうけど。


「先輩が何もないのに弾いてる」


 それが普通な気もするんだけど感覚が麻痺してるのかもしれない。もしかしたらまた大会とかがあるのかもしれないもんね。

 いつものドアを開けて、演奏中の先輩を無視して中へ入る。


「おかまいなくー」


 聞こえない声で呟いて、音色を片手にティータイムのセッティングを始める。

 相変わらず知らない曲。この時間に聴くと眠くなる曲だね。仮面の先輩ぽい? 上品な感じ。

 お湯を沸かしている間にケーキを取り出してお皿に乗せる。


「まだかかりそうかな」


 先輩は一向にこちらに気付かない。大好物のケーキがあるというのにチャンスを逃すタイプだ。

 紅茶を淹れて席に着き、先輩の反応があるまでゆったりと拝聴していよう。すぐに匂いで気付いて演奏をやめるだろうし。



 目を開けると、いつのまにか演奏は終っていて、目の前には先輩が座っていた。

 うとうとして軽く寝ちゃってたみたいだ。


「あ、起きた? おはよう後輩くん」


「おはようございます。いつのまに」


「弾き終ってから10分くらい経つんだけど……」


「そんなもんでしたか」


 体感、結構安眠できた感じがする。


「弾き終ったらなんか一式用意されててびっくりしたよ。もう後輩くんがサイレントで入ってくるのは慣れたけど」


「あぁ、先輩鈍感ですもんね」


「後輩くんには言われたくないんだけどねー」


 何故かジト目で睨まれてしまった。


「こんなに敏感で気がきく後輩とかいませんよ」


「ごめんちょっと何言ってるかわからないや」


 頭の上にはてなを浮かべて、本当にわかって無いようなそんな顔をされる。


「……もういいですよ。そう言うことにしましょう」


 自分で本当に思って言ってるわけじゃ無いから、こういう反応だと少し恥ずかしいからやめていただきたい。


「そう? 後輩くんがいいならいいんだけど」


 先輩に合わせていたらこちらが疲れるだけだからここら辺で諦めるのが大事。

 そう心の中で考えてから寝てしまう前に淹れた、冷めてしまったであろう紅茶へと手を伸ばす。


「冷たいのじゃなくて淹れた直したら?」


「いいですよ別に。もったいので」


 ケーキを食べる時にでも新しいのを淹れなおそう。


「そーいえば今日のケーキはどんなチョイスだったの?」


「まぁ色々と考えた結果ですよ。今まで通り先輩は気にしないで食べるだけでいいですよ」


「後輩くん冷たい」


「冷たいのは紅茶だけですよ」


 いつもと変わらない態度です。優しくされたいならそれなりの扱いをしてもらわないとね。


「ところでケーキ知りません? 置いておいたんですけど」


「食べたよ」


「いや先輩の分じゃなくて。それは分かり切ったことなので」


「だから食べたよ?」


「会話成立してますこれ?」


「うん。食べました」


 ……?


「えーとつまり」


「食べた」


 先輩が食べたボットになってしまった。


「2つとも?」


「美味しかった」


 これはケーキというものを先輩のいるところに野ざらしにした自分が悪いか……。


「……先輩ですもんね」


「へ?」


「なんでもないですよ。それじゃ帰りますか」


 別にここで食べなくたって家にもまだあるから別にいいんだけど。

 反応を見る限りは不味くはなかったみたいだし参考にしよう。


「え、もう帰るの?」


「別にまだいる理由もないですしね」


「そんなこと言わずに先輩とお話しようよ」


「いつでもできるじゃないですか」


「後輩くん……怒ってます?」


「いや、別に怒ってはないですけど……」


「いやこれは怒ってるね! しょうがないなぁー。ここは先輩がケーキでも奢ってあげようかな」


 そもそも先輩のせいなのでは……?

 そもそも先輩の勘違いなのだけど。先輩的には怒ってるか怒ってないかはなんかどうでも良さそうだし。

 ほら!るんるんで準備始めてるもの。


「よし! 行くよ」


「誰も行くとは……」


 先輩に腕を掴んでひきづられ強制的に連行されて最後まで言い終えることは許されなかった。

 こうなったら死ぬほど頼んで困らせてやろう。そう、細やかな抵抗を胸に誓った。

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