122-進展。
「おねぇちゃんには内緒にしておいてくださいね……?」
ぬいぐるみを抱きかかえながら訴える蘭ちゃん。
「別に言ったりしないよ」
「絶対ですからね⁉︎」
そんなに強く念を押さなくても大丈夫だって。
言っても先輩信じてくれない気がするし。
それにしても蘭ちゃんはお化け屋敷には行かないほうがよさそうだ。その気がなくても勘違いする人が出そうなくらいの女子力でした。
「それじゃあ、私はそろそろ帰りますね」
「あ、もう帰っちゃうの?」
「だって今日この後、生徒が集合してなんか終わりですよー。みたいな会するんじゃないですか?」
「そこらへんはなんも知らないけど……。まぁ多分するとは思うよ?」
「それまでおねぇちゃん待つのは面倒なので小鳥遊さんにお預けしますよー」
「預けるって……」
「あ、返さなくてもいいですよ?」
「返さないって?」
人を物みたいに言っちゃって。本人が聞いたらまた怒りそうだ。
「お持ち帰りしてもいいってことですよー! お母さんたちには私がうまく言っとくので!」
「断固拒否します。絶対に返すから」
「はぁ、学校祭でも進展なしですか……」
「いや流石にそれは進展しすぎじゃない? いや振り幅の問題じゃないんだけど……」
「既成事実を作っちゃえば確実ですよー?」
「いやまだ高校生なんだけど……」
「子供の是非はともかく、一回お試ししたらどうです? 大丈夫ですってみんなしてますよ」
ニヤニヤしながらこちらを囃し立てる蘭ちゃん。
「その、みんなで渡れば怖くない理論は許されません」
「ちぇっ〜。それでも男の子ですか!」
「何でこっちが責められてるんだろう……」
「まぁ、どうせ無駄なのわかってるんで今日はここまでにしておきますか。それじゃ私は帰るんでおねぇちゃんによろしくです」
「無駄ってわかってるならやらないでよ……。了解ー。それじゃ気をつけてね」
全く……毎度のことながら蘭ちゃんの先輩押しは凄いな。今度会った時は逆に乗ったふりをして反応でも見てるみるのもありかもしれない。
「いざ思い通りに頷かれたら慌てたりでもするのかな」
先程のお化け屋敷もどき? の蘭ちゃんの姿が思い浮かんだ。
あれじゃあ先輩は蘭ちゃんに先越されちゃうのも時間の問題だね。
遠ざかる少女の後ろ姿を眺めながら言われたことを考える。
――進展なし。先輩との進展なんかはさておき……。
「先輩も進路を決めたし」
あんな自由な性格でもきちんと先輩なんだぁ、と。
それに最近はなんだか急に掴みづらいというか、謎感が増した。
「みんな変わっていくんだなぁ……。ちゃんと進路考えないと」
大雑把な予定だけじゃなくてきちんと、ね。
ただそれだけなのに、遠くに行ってしまうようで、なにか胸の中でモヤモヤしたものが小さく現れて消えていった。




