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121-弱点。

少しずつ再開をば……


「それでは合図とともにこちらの懐中電灯を手に中へお入りください」


 係員から受け取った懐中電灯を手に合図を待つ。

 ここは教室ではなくて、大きな多目的室を使っているのでそこそことでかい。

 直ぐにゴールすることはなさそう。


「楽しみですね」


「クリアできるといいけど」


 すぐに、合図の音が耳に響く。扉が開かれ、懐中電灯を灯す。

 中に入ると、部屋は真っ暗で懐中電灯の僅かな光しかない。

 結構本格的だな。なんて考えていると服の裾が引かれる感覚があった。


「真っ暗だね」


「そ、そうですね……」


「楽しみって言ってた割にはテンション低くない?」


「そ、そんなことないですよ! 怖くなんてないですよ?」


「ならこの掴んでる手は?」


「暗いから逸れたら困るじゃないですかー」


 感情がこもっていないせりふについ頰が緩む。なぜ怖いのにここに並んだんだろうか……。

 反応が面白くてつい、懐中電灯の光を消けしてみた。


「え⁉︎ 何で消すんですか! 小鳥遊さん⁉︎」


「なんか接触が悪いみたいなんだよねー」


「絶対嘘ですよね! 声が笑ってますし! いいから早く進みましょうお客さんは他にもいるんですよ!」


 怖いとは言わずに、それっぽい正論を投げてくるところが蘭ちゃんぽい。

 先ほど渡した人形を抱き締めて歩く姿を想像しながら懐中電灯を付け直して前へ進む。


「これは迷路なのか、お化け屋敷なのかどっちなんだろうね?」


「少なくとも私はただの迷路だと思ってましたよ! なのにこの仕打ち……」


 うぅ……。と声を上げて幼気な女の子を演じているがここに入ろうとしたのは蘭ちゃん自身なのに……。これじゃあどっちが悪いのかわからなくなってしまう。


「でも入ろうっていったの蘭ちゃんだよ?」


「それは何かの手違いでした。なので早急に出ましょう。さぁ」


 裾を掴んだまま先に1人で歩き出す。

 そんな姿に頬を緩めながら後を追いかける。懐中電灯も持たないで先に行ったら危ないじゃないか。


「先に行くなら懐中電灯持ちなよ」


「そんなのなくても余裕ですよーだ! 小鳥遊さんは私のこと子供扱いしすぎですー」


 子供扱いというかこれこういうゲームだから……ね? 懐中電灯なんのために配られてるんだかわからなくなったちゃうよ。

 会話で油断したのか、暗いせいなのか分からないが突然蘭ちゃんが可愛い叫び声を上げて後ろに倒れこむ。


「え、大丈夫? なにかあった?」


「な、なんかぬるっとしたものが顔に……」


 涙声になりながら前方を指差す。

 なんだろうか? 蘭ちゃんが示す方へ光を向けると、小刻みに揺れる紐にぶら下がる物体が目に入った。


「こんにゃく? だね」


「こ、こんにゃくですか…… こんにゃく?」


 まぁお化け屋敷ではよくある仕上げだ。触感が生々しいので暗がりでは最高のスパイスになるアイテムだろう。

 これは懐中電灯があっても回避できないかもしれない。吊るされただけなら躱せるけど多分タイミングに合わせて降ってくるんだろうね。


「ほら、立てる?」


「立てますよ」


 完全に足が震えてるけど……。

 立ち上がると蘭ちゃんが後ろに回り込んで、今度は裾ではなくがっちりと腕にしがみついてきた。


「蘭ちゃん?」


「……?」


「おーい」


「早く行きましょう?」


 一応腕を引いてみるがビクともしない。離す気はないようだ。これは諦めるしかなさそう。


「それじゃ早く行こっか。次も控えてることだし」


 先程のセリフを軽く皮肉を込めて言ってみが、特に反応がない。これは本当に怖いのがダメみたいだ。蘭ちゃんの意外な一面に少し驚く。気が強いイメージだったからこういうのが苦手だとは思わなかったね。


「先輩のことの時だけなのかな」


 もしかしたらここに先輩がいたら、蘭ちゃんはいじる側に回ったのかもしれない。


「……何か言いました?」


 零した言葉が聞こえたのか不思議そうな声で訪ねてくる。


「なんでもないよ」


 気にしないで。と通路の先へと歩き出す。

 ふと気になって後ろを振り返ると闇に慣れてきた目が、こんにゃくに霧吹きで水をかけ、次の人にむけてセッティングしている姿を捉える。

 なるほど、毎回ああやって鮮度を保っているんだ。なんて思いながら見てはいけない裏側を見てしまったようで申し訳なくなって、すぐに前を向いて注意を払う。


 先輩も蘭ちゃんやこの仕掛けのように単純なら扱いが楽なのにな、なんて。



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