117-基準。
「何の話ー?」
綿あめを食べ終わってこちらの会話に参加してきた。
先輩とは何かという哲学です。って言っても伝わらないよね。
「なんでもないですよ」
なので黙ってたこ焼きを先輩の口に突っ込む。
「え、ちょっ! むぐ……」
「あーあ。喋るから口がソースまみれじゃないですか」
「それは」
もぐもぐ。
「後輩くんの」
もぐもぐ、ごっくん。
「せいでしょうが!」
先輩が怒った。ちっとも怖くない。だって口がソースまみれで台無しだし。
なんか小さい子供みたいで可愛いし。
「全く。わたし先輩なんだけど……。もうちょっと扱いを……」
「善処します」
「2人とも完全に夫婦漫才ですよね〜。みてて安心します」
「夫婦になる予定はないけどね」
「後輩くんに勝手に振られた。ショック」
「だって先輩なんかと結婚したら毎日ご飯作らないといけないじゃないですか。それかコンビニの弁当とか」
流石に結婚とかして2人してお弁当をレンジで温めて食べる生活は嫌だ。
「待って……。もしかしてわたしの価値って後輩くんの中の基準で料理なの?」
「あはははは。それはおねぇちゃんはいつまでたっても最低ランクですねっ。でも作ったり買ったりって今の小鳥遊さんとあんまり変わらないんじゃないですか?」
楽しそうに笑う蘭ちゃん。先輩のことになると凄い元気になる。甘いものを手にした先輩みたいに。
「確かに変わらないけど結婚してまでお弁当とか嫌でしょ……?」
「わたしもう少し料理頑張ろうかな……」
「頑張りますね」
「このままだと永遠に後輩くんの評価が上がらないもん」
料理以外は軒並み高いんですけどね。
「他は高いから安心してくださいよ」
「それじゃあ今ないの〜! 因みに何が高いの?」
「音楽とか、行動力とか可愛さとか?」
「わたしって後輩くんに可愛いと思われてたんだ……」
え、なんですかその意外そうな顔。何回か言ってる気もするけど……。
「なんでですか?」
「だって全然照れたり、デレたりしないし」
「甘えですねそれは」
「おねぇちゃんは初めて自分が通じない人に出会ってしまったわけですねー」
そんなに酷い扱いしてないと思うけど、どんだけゆるい人生を送ってたんだろうか。
これはとことん現実を味わってもらうしかない。こちらは甘くないんです。甘いのはケーキだけ。
「料理頑張るもん……。後輩くんにお弁当も作らないといけないからね」
「まだそれ覚えてたんですか?」
完全に忘れてた。先輩の焦げ弁当を食べるのがあった。
「もちろん! これで絶対後輩くんの胃袋を掴んであげる」
「期待しないで待っておきます。それより今日はこの後どうするんですか? 蘭ちゃんもせっかく来たのにこんなところで勿体ないでしょ」
「私は楽しいから問題ないですよ?」
「まだ行ってないし、クラスの展示でも行ってみる?」
クラスかぁ。あっちなんも準備手伝ってないし昨日今日と何やってるのかさっぱりわからないけど、大丈夫かなぁ。
「やることもないですし、そうしますか」
「決定ー! 食べ終わったらいこっ。全部まわろーね」
出来れば捕まりそうだから自分のクラスは避けたい。
とりあえずまずは先輩が買ってきてくれたものを食べちゃおうか。
でもやっぱり、飲み物は買ってきてくれないあたり、ちょっと抜けてるよね。




