113-文化祭2日目2。
「先輩と恋バナとかするんだ」
「別にしてるわけじゃないけど成り行きで先輩がさらっと暴露してるだけだけどね」
「出たよ。天然」
「天然というかバカの域かも」
天才とバカはなんとやらというからね。先輩の為にある言葉なのかもしれない。
片付けを進めながらタルトが焼きあがるのを待つ。
そーいえばマスカット少し余っちゃったのどうしようかな。またなんか作ってみようかな勿体無いし。マスカットのレシピばっかりになっちゃうけど……。
「俺も先輩みたいな可愛い彼女欲しいなぁ」
「先輩に告白してみたら? 案外ちょろあかも」
「あほか。それで付き合えてたら高嶺の花になってないわ」
でも先輩って告白されたことないんじゃないの?
割と大穴だと思うけど……。
「まぁ、中谷じゃ無理か」
「なんで俺ならなんだよ! お前以外の男はみんな無理だろ」
僕だけってのは聞かなかったとことにして。
「だってせっかくの高嶺の花との間接キスをチキる小心者じゃん?」
「流石にいきなりはハードル高いだろ」
「その時点で諦めるべきだね」
焼けて冷ましたタルトをカットしながら次々とオーブンから取り出しては冷ましてカットしてを繰り返す。
昨日は何故か売り切ってしまったけどね今日は大丈夫なのかな。
一応土曜日だから来客も増えそうだけどただのアップルパイだし、今日よりどうしても見劣りしてしまう。
中谷の言うことじゃないが見た目は寂しいしね。味は普通だけど……。
「そーいやコンクールの事前の地獄の作り込みどうなったの?」
「あーあれか。暇人を募って犠牲者増やすしかないだろ。報酬にケーキつけて」
前に言ったのとなんも変わってないな。
「なんとかしないと昨日今日のなんて甘く感じるほどの事態が待ってるよ……」
せっかく先輩に可愛いイラストまで描いてもらったんだしもう変更するわけにはいかない。
ホームルームを済ませて残りのアップルパイをカットして昨日と同じように出店まで運ぶ。
出店では既に先輩がセッティングを済ませて雑談していた。
「自分はのんびりお話ですか」
「あ?後輩くんやっときたー」
「小鳥遊さん! 手伝いますよ!」
先輩と一緒に中に居た蘭ちゃんが中から駆け出してこちらに向かってくる。
先輩と違って気が利く子だ。申し訳ないから持たせるわけにいかないけどね。
「ありがとう。大丈夫だよ。先輩なら持たせたけど蘭ちゃんはきにしないで」
「大丈夫ですか?」
「別にそんなな重くないから。そんなことよりもう来てたの? 早いね」
「本当は昨日から来たかったんですけど……平日でしたからね。小鳥遊さんのケーキ食べたかったです……」
買い置きとかした癖に妹の分は用意してあげなかったんだね先輩。薄情な。
「今日ので良かったら食べていってね。アップルパイだけど……。先輩の財布から払わせてね」
「なんでわたしが払うのさ!」
「手伝ってくれる可愛い妹にワンコインのケーキすらあってあげないケチな姉」
「その言い方はずるい……」
「別に勝手に食べても損するのは先輩なんです特に気にしませんけどね」
「後輩くんもなかなか最低なこと言ってるからね? 自覚ある?」
先輩には敵わないので大丈夫。ていうか先輩にしか言いませんし。
「今日は先輩1人で頑張ってください。眠いんで」
「昨日の状況を見てなんでそのセリフが出てくるのか頑張ってわたしにはわからない……」
「先輩が大変でもこっ地は痛くも痒くもないですからね」
「もう少し先輩を労わる方がいいと思う」
「昨日十分付き合いましたしね……」
それこそ朝から晩まで。
普通に寝不足だよ。
「えー。小鳥遊さん抜けるんですか? せっかく私も手伝おうとしてたのにー。おねぇちゃんだけなら私もいいや」
「え、流石にそれは死ぬから蘭! 捨てないで!」
妹にまで捨てられて可哀想に。
「眠さには勝てませんもん」
「なら私ちょっと眼が覚める飲み物買ってくるから! 頼んだよ!」
財布を手に玄関へ向かって走り出した先輩。元気だなぁ。
「どうせサボる気ない癖に良く言いますねぇ。小鳥遊さんも」
「そう? いいって言われたら直ぐにでも寝に行きたいんだけど……?」
「そんなに忙し買ったんですか? 文化祭の準備って」
「いやこの出店のケーキしか作ってないよ。他には一切関わってない。朝一から昨日は夜までずっと先輩のお守り」
「それは大変ですね〜。おねぇちゃんは何してたんですか?」
「朝はここの設営して売って、なんか律さんと旋さん呼んでステージでライブしてその後は色々幼気な後輩を夜まで連れ回してたよ」
「おねぇちゃんライブなんてしたんですか? ちょっと見たかったなぁ……。でもバイオリン以外の楽器できるのかな、ボーカルとか?」
「普通にバイオリンでしてたよ? 天才3人がいればなんでもできるみたい」
学祭で浪費するような才能じゃないけどね。3人でコンサートでも開いたら儲かりそうなくらい。
「昨日学校さぼって来ればよかった……」
「それは流石にダメでしょ」
「私真面目だからサボれないんですけどねぇ」
「まぁ今日楽しんでけばいいんじゃない? 何あるかわからないけど……。きっとクラス展示とかも楽しいよ」
多分。回ってないからわからないけど。
「おねぇちゃんと小鳥遊さんは出店終わるまで売るんですよね?」
「多分ね。その後の予定は知らないかな。こっちとしては寝たいけど」
「じゃあ早く売り切って回りましょう! 食べ歩きましょう!」
何故か1番やる気を出して意気込む蘭ちゃん。
寝たいんだけど……? 話聞いてた?
それなら今先に少し寝させてくれないかな?まぁ、無理だろうけど……。
「早く売れるといいね」
最悪先輩をまたメイドにして前に立たせればいいや。
可愛いし一石二鳥だね。




