109-屋上。
「それでどこへ向かってるんですか?」
空き教室を出て廊下を渡り、階段を登りながら前を歩く先輩に問いかける。
「良いところー」
「答えになってないですよ」
「えー。言わなくても察して」
「先輩の思考は誰にも読めないです」
「褒めてる?」
「褒めてはいないですね」
「もー。上だよ上」
そう言って上を指差す。
上? 最上階は1年生の教室だけど……。
「1年の教室に何か用が?」
「教室? あー。違う違うもっと上!」
「その上ってもう屋上しかないんですけど……」
屋上は常時閉鎖されてるから入れない。物語の中のように屋上が出入り自由だったり、お昼休みに庭にご飯を食べに行けたりはしない。
「正解っ。後輩くん登ったことある?」
「あるわけないじゃないですか。閉鎖されてるのに」
「なら初体験だ。よかったね貴重な体験だし先輩に感謝してね!」
屋上に向かう階段の入り口に置いてある荷物の隙間を縫って上へと登っていく。
仕方なく後を追って先輩と同じ道を辿りながら物を避けていく。
完全に荷物置きになってるよ。予備の椅子に机とかダンボールが山積みだ。
「これ誰もいじらないで数年置きっ放しなんじゃないのか……?」
先輩はそんな場所をそんなことは我関せずといった様子ですいすいと登っていく。
折り返しの地点になると荷物も減ってきて空間にだいぶ余裕ができていた。
「後輩くん大丈夫ー?」
「先輩みたく細くないんで結構引っかかりますよ」
「皮肉を言う余裕があるなら大丈夫だね」
「別に皮肉じゃないですよ。それより先輩なんでそんなノンストップでこんなところ軽々と行けるんですか?」
「物の場所が変わってないからね。覚えちゃえば体が勝手に動くようになるよ」
覚えるほど来る機会なんてないと思うんだけど……。
登り切ると先には一枚の扉があった。これが屋上の入り口かな?当然だけど鍵かかってる。
「鍵かかってますよ?」
「当たり前でしょ! 開きっぱなしにしてたら誰かが勝手に入ろうとするでしょ?」
「その誰かっていうのが僕らなんですけど……。僕らというか先輩」
「そうそう。そういう人たちを通さない為には?」
「鍵をする」
「通路には」
「物を置く」
「よく出来ました」
ぱちぱちぱち。と拍手する先輩。
「馬鹿にしてますね」
「そんなことないよ。つまり鍵がかかってるのは自然だよ?」
「知ってますよそれくらい! なのになんできたんだろうって意味ですよ……」
どうして鍵がかかってるのかなんて意味で聞くはずがないでしょうに。
どっちかというと普段先輩をいじってる側だけど、こう逆に言われるとちょっとムカつくね。自分のことは棚に上げて飾っておくとして。
「あーそゆこと。大丈夫だよ鍵がかかってるなら開ければ良いんだもん」
「別になぞなぞをしてるわけじゃないんですけど」
「真面目に答えてるってほら」
ポケットに手を突っ込んで可愛らしいハートのキーホルダーのついた鍵を取り出す。
「つけすぎじゃないですか?」
見た感じ大小様々な鍵が10個程ついていた。
ハートのキーホルダーなんて少し意外だし。
「つけすぎじゃないでしょ。家の鍵に自転車の鍵、ロッカーの鍵に……」
1つ1つ丁寧に説明してくれる。
別に知りたいわけじゃないんですけど……。
「そしてこれがここの鍵ね」
そう言って扉の鍵穴に差し込んでくるりと回す。するとガチャリと音を立てて鍵が外れる音がした。
「一応聞きますけど職員室とかから盗んだわけじゃないですよね?」
「人聞きの悪い。そんなわけないでしょ?」
「ならなんで持ってるんですか」
「昔にあの今の場所を使う前に場所がなくてね。こっそりと……」
こっそりと取って使ったならそんなことあるじゃないですかね?
「盗んで使ったと」
「最初はピッキングして開けてたんだからね? すると先生にバレまして。そこからなんだかんだあったの!」
「1番大事なところを飛ばさないでくださいよ」
「もー。いーじゃん別になんでも。ここに鍵があって扉が空いた、それが全てだよっ」
後輩くんはいちいち細かいんだから〜。なんてぼやいている。
結構大事など思うんだけど……。
「それで入るの禁止なのに開けちゃってどうするんですか?」
「禁止じゃないよ閉まってただけ」
屁理屈をこねる先輩は言い終わるとドアノブに手をかけて扉を開ける。
「暗いから気をつけてね。ほらっ」
扉を開けたまま片手をこちらに差し出す。手を掴めと言うことだろうか?
「大丈夫ですよ。子供じゃないんですから」
「落ちたら大変だもん。後輩くん初めてでしょ? わたしが不安だから大人しく先輩のいうことを聞きなさい〜」
手を掴んでそのまま扉の奥へ進んでいく。
落ちるってフェンスとかないの? 流石にそれは危ないから行きたくないんだけど……。
それに今日はたくさん手を繋いでくるなぁ。暗いの怖いの?




