107-ダンス。
「それじゃあ踊りましょうかー」
付き合うとは言ったけど踊れと言われても流石に……。
「やったことないんですけど」
「なんとかなるよ〜。とりあえずてきとうにくるくるしてればいいと思うよ」
手を握り、向かい合わせになって人の波に合わせて踊ってみる。
「そーそー。みーぎひだり! そのまま回って」
難しいけど先輩がほとんど動かしてくれるので勝手に体が踊れてる。
「腰に手を当てて。ほらこうして」
掴んだ左手を自分の後ろに回して手を押し付ける。
「ここはお尻だ。後輩くんのえっち」
自分でやっておいて……?
位置を修正してゆっくりと踊る。
「あのこれってこういう場面で踊るダンスじゃなくないですかね」
「わたし社交ダンス擬きしか知らないもん」
オクラホマミキサー? みたいなのじゃない?
実際周りの人と全然違うし。そのせいで凄い注目を浴びる。
いや、先輩だから……か。
様になってるし。
「ん? どうかした?」
火に照らされて楽しそうに踊る姿は近くで見ていても引き込まれるものがある。
まぁ、メイド服だから全てが台無しなんだけど。
「いや、先輩が可愛いなと」
たまには素直に褒めてあげよう。
「ふぇ⁉︎ な、何突然」
「たまに言ってると思いますけどねー」
「そ、そうかもしれないけど……。今言うのはちょっとセコイというか狡いというか……」
「今も昔も変わらんでしょうに」
「変わります〜! 全くもう……⁉︎」
何に動揺してるのか足を踏み外してバランスを崩し後ろに倒れそうになる先輩。
反射的に手を伸ばして肩と腰を抱いて支える。
「何遊んでるんですか」
「べ、別に遊んでないもん……。ありがと」
体を起こして踊り直す。
やり直しても周りには合わせないんだ。
「後輩くんいまなんじー?」
「さぁ。時計見たらいいんじゃないですか」
「冷たっ! いいよもうー自分で見るから」
「最初からそうしてくださいよ」
手が塞がってるのにどうみろと。先輩もなんだけどね。
普通にダンスを中断して時間を確認する。
もう終わる時間かな。少し寝たとはいえ早く寝ちゃいたい。
「よし、そろそろ時間だ。後輩くんとの楽しい楽しいダンスはここまでー」
「解散ですか?」
「なわけないでしょ! ほら次」
「他人の意見を尊重することを覚えませんかね」
「なるほど。それもそうだね。それじゃあ高いのと暗いのどっちがいい?」
「訳がわからない……」
選択権じゃなくて決定権か自由権がほしいのです。
「わがままばっか言わないの〜。ほらいくよ?」
「わかりましたよ。どこにいくんですか?」
「とりあえず紅茶を淹れに。喉乾いちゃったし」
「とことん自由ですね」
「それを享受する後輩くんであった」
「享受はしてません。変なナレーション入れないでください」
「受け入れちゃいなよー。わたしの物となるのだっ! そうすれば全てが楽になるのです」
「新興宗教はよそで」
「ノリが悪いなぁ」
「いいから早く紅茶淹れてくださいよ」
「淹れても帰らせないからね?」
「わかってますよ」
もう帰るのは諦めてますよ。とっくにね。




