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106-変化。


「こんな暗いのにみんな外で騒ぐんですね」


 玄関を出てグラウンドに移動してきた。

 端の方の人気のない芝生の上に先輩と2人して座り込む。

 少し離れたところでは木を組み、燃やしてキャンプファイヤーをしている。その周りに座ったり踊ったり眺めるカップルや友達グループが多数いた。

 こちらと同じように少し離れて遠目からその集団を見る人たちも点在している。


「なんだか小説みたいな空間ですね。今時こんな文化祭してるところがあるなんて」


「凄いよねー。毎年やってるみたいだよ。去年は見てないけどね」


「引きこもりだからですね」


「学校つまらなかったし文化祭もぼっちだしね!」


 開き直った。


「それで? これを見たかったんですか?」


「うーん。なんか思ってたよりしょぼいというか……。あれの何が楽しいんだろうね」


「先輩の感性には響きませんでしたか」


「確かに暗いと綺麗だけどね」


「女の子なら綺麗なものとかノスタルジアなもの好きとか言っといた方が受けいいと思いますよ」


「後輩くんはそういう子がタイプなんだ?」


 体育座りをして膝に頰を付けこちらに顔を向けて覗き込んでくる。

 影になり暗くてあまりよく見えないけど少し微笑んでるように見える。静かな時やしおらしい時とかの先輩は天使みたいな可愛さだ。

 うん。可愛いだけね。ギャップが凄すぎて少しドキッとするけど。


「別に内面的なことにタイプとかは無いですけど……」


「そっかぁ。外面的なタイプは? あるの?」


「まぁ人並みには」


「どんなの?」


「え、言わないといけないんですか」


「減るもんじゃないし」


「恥ずかしいじゃないですか?」


「私は恥ずかしくないよ?」


「聞く側ですからね」


「言ってもいいよ? 楽しい人でしょー。料理が出来てーちゃんとわたしを見てくれる人がいいなぁ」


「意外とハードル低いですね」


 学内アイドルとは思えない敷居の低さだ。みんな先輩のこと見てるでしょ。目で追ってますよ。


「そう? わたしちょろい女だからね〜」


「学校の大半は先輩のこと見てますよ。タイプまみれですね」


「その目線はわたしを見てるんじゃなくてこの顔と体を見てるんでしょ。それもわたしの一部だけどねー。みんなは少し可愛い子がいるって見てるだけだよ」


「自分で可愛いと」


「可愛いでしょ? わたし」


 戯けた様子で笑う。


「それは否定しないですけどね」


「しないんだ。言ってて少し恥ずかしいからして欲しかったんだけどー」


「自分で言っといてなにを」


「まぁーね。それより次は後輩くんの番だよ」


 なんかこっちにきてから先輩の様子がいつもと違う気がするなぁ。


「タイプとか特に考えたこと無いんですけどねぇ」


「なら質問しよう。髪型は?」


「んー。どっちかって言ったら長い方が?」


「これくらい?」


 髪を指でくるくると巻きつけて遊ぶ。

 先輩はちょっと長めかなぁ。別に似合ってれば短くてもいいと思うけどね。


「もう少し短めですかね?」


「ふーん。そうなんだ。じゃあ……じゃあ……」


「じゃあ?」


「タイプの質問ってなに聞けばいいのかわからない……」


「なら終わりですかね」


「まだだよ! 巨乳派、貧乳派?」


「別にどっちでもいいですけど……」


「巨乳派ならここについてるものを揉ませてあげてもいいよ?」


「自分で巨乳発言ですか。今日は可愛いと言ったら巨乳と言ったり随分自信満々ですね」


「後輩くんは太もも派なのを知ってるから強気にでました!」


「その設定まだ続いてたんですか?」


「死ぬまで持ってくよ」


「ならさっさと死んでください」


「酷い……」


「てことでこの話はやめましょう」


「えー。しょうがないなぁ」


 話を打ち切り、2人で黙って火を眺める。

 あの周りで踊ってる人たちは熱くないのかな。そんなどうでもいいことを考える。

 隣では先輩がなにを考えているのか眩しそうに先を見つめている。


 先輩が口を開く。


「ねぇ、後輩くん」


「なんでしょう」


 目線はそのまま遠くを見ながら問いかける。


「後輩くんはお菓子の才能があって大会で勝てたりしてさ。楽しい? 才能があって良かったと思う?」


 突然の先輩からの質問。

 意図がわからないけど……。


「人並みより少しできるのは確かですけど才能なんてないですよ。って答えが欲しいわけじゃないですよね?」


「うん」


「正直わからないですよ。才能があるからやってるわけじゃないですし、やりたくてやってるものが少しばかり他より才能があったってだけです。だからやりたいことに才能があるのはまぁ、良かったんじゃないですかね? ラッキーって感じ」


「なるほどねー。ラッキーかぁ」


「先輩はどうなんですか?」


「わたしー? わたしも好きでバイオリンを始めてたまたま才能があっただけだよ。まぁ料理以外は大抵なんでもできるんだけどね!」


「その料理が壊滅的なんですけどね」


「うるさーい。 才能よって周りの評価が違うんだなーって思っただけです!」


 お菓子の才能があれば周りから今度作ってーと話しかけられたり友達には作って持って行ったり。

 バイオリンの才能があっても聴かせてーとはならないなぁ。むしろ近寄り難いというか練習に忙しかったりとか勝手なイメージはある。


「今までこうして文化祭を楽しむ相手とか居なかったからバイオリンじゃなくてわたしも同じとか絵とかそういう才能だったら人生違ってたりしたのかなってね」


 真っ直ぐ前を見つめる先輩の目は炎を反射してキラキラと輝き揺らめく。


「今の生活が不満なんですか」


「ぜんぜんー? そういうわけじゃないよ〜。ただ自分がお菓子作れたら食べ放題ってことだよ!」


 結局お菓子? よくわからないな。

 否定する割には哀しそうな顔をしているように見える。

 先輩でもこんな顔するんだ。


「ほぼ毎日僕のおかし食べてるじゃないですか」


「だからそれで十分だよ! これからもお菓子よろしくね。死ぬまで!」


「卒業したら会う機会もないでしょうに」


「えぇ〜。後輩くんは高校卒業したら働くの?」


「いえ、一応今の所は進学ですけど……」


「なら時間はたっぷりあるじゃん」


「先輩はニートでもする気ですか?」


「なんでそうなるの⁉︎ 進学するからねちゃんと!」


「就職してくださいよ。2人とも進学だと作らないといけなくなるじゃないですかー」


「絶対進学してやるー! お菓子のためにねっ!」


 進学と言っても家から通えるとは限らないんだけど……。言わないでおこう。言ったら進路を本気で変えそうだし先輩なら実現しそうだからね。


「頑張ってくださいね。その時作れたら作りますよ」


「毎日後輩くんの家に食べにピンポンするね」


「警察呼びますよ」


 さっきまでの雰囲気はどこやら。


 突然立ち上がってお尻の汚れを手で落としてこちらへ手を伸ばす。


「さて後輩くんや。思い出作りに行くよっ!」


「まだなんかするんですか?」


「勿論! 何のためにここにきたと思ってるのさ。ほら!」


 引っ張られて無理やり起こされ、そのまま火の方へ歩き出す。

 最近なんか引っ張りすぎじゃない? 強制事項が多すぎる。

 でもまぁ、仕方ない。今日くらいは先輩にとことん付き合ってあげよう。

 口元を少し緩めながら先輩の手を軽く握り返して足を揃える。


「今日だけですからねー」


「んー? 何か言った?」


「なんもいってませんよ」


 先輩の手の温もりを感じながら火の方へ向かっていった。




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