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104-ピアノ。


「結局ここにくるんですね」


 片付けを軽くすませていつもの場所に移動した。


「わたし達の住処だもん」


「先輩のだけですけどね」


「後輩くんも既に十分こっち側の人間だからね?」


「できれば渡りたくないですね」


「手遅れだよね〜。わたしに捕まった時点で!」


 いつもの空き教室は文化祭で備品が使われているのか殆どのものが持ち出されていて、かなり広々としている。

 机と椅子が1つもないし。あるのはピアノくらい。


「これどこに座るんですか」


「壁にもたれかかって座ればいいんじゃない?」


「気にしない人なんですね。それでいいならいいですけど……」


 でも絶対汚いよね。ずっと物が置いてあったところなんだから埃とか酷そう。

 そう思ってしゃがんでみるときちんと掃除がされていた。


「ちゃんと掃除してるからね!」


「先輩がしてるわけじゃないでしょう」


「わたしだよ!!朝したからね」


「そんな暇あったんですか」


「なくてもやったんです〜!」


 舌を出してふてくされる先輩。

 忙しいのにやった先輩を褒めるべきか。忙しいと言いながら何だかんだ余裕があると思うべきか。


「まぁ綺麗ならいいですよなんでも」


「感謝くらいしてもいいのに」


「ありがとーございます。先輩はそのまま立っててもいいですよ」


「感謝どころか酷い仕打ち……」


「それで、ここに何しに来たんですか?」


「タルト食べに来た」


 当たり前でしょ? とお皿と紅茶の準備を始める。

 まぁ手に箱持ってだし想像はついてたけど……。


「商品泥棒ですか」


「きちんとお金払ったもん! どうせ返って来るけど」


「確信犯ですね」


「しょうがないでしょ。食べたかったんだもん」


 ケーキと紅茶を持って先輩が隣に座る。


「はいこれ。後輩くんの分ね」


「疲れて食欲無いんですけど」


「倒れたら困るでしょ! せっかく買ったんだから食べてよ。おごりだよ!」


 奢りも何も結果的には自分のものを無料で食べてるだけなんだけどなぁ。


「はいはい。いただきますよ」


 先輩からタルトを受け取って口に運ぶ。一回食べてるから味知ってるんだけどね。

 先輩は完成品を食べてないだろうけど。


「どう? 美味しい?」


「まぁ一回食べたんで……」


「え、ずるい。わたし食べてないのに」


「自分で作るんだから食べるに決まってるでしょう」


「私もらってないのに……」


「試作品あげたじゃないですか」


「あれとこれ全然違うじゃないの!」


「入ってる具材は同じです」


「そういう問題じゃない……」


「今食べるんだから結果オーライじゃないですか」


「結果論でしょ!」


「嫌なら食べなくていいですよ」


「食べますよーだ! わたしが買ったんだから」


 結局食べるなら文句言わずに食べればいいのに。


「美味しいですか?」


「うん。やっぱり後輩くんのケーキが1番だね」


「良かったですね」


「もっとたくさんどっとけばよかったな〜」


「毎回先輩からお金取ればすごい稼げそうです」


「そんな残酷なことしないでよ? 買うけど」


 買うんかい。

 タルトを食べながら先輩と雑談をしながら時間を過ごす。文化祭なのにどこも教室とか回ってないよね。思い出作るんじゃなかったのかな。


「ここは静かでいいねー。文化祭はちょっと賑やかすぎるからなぁー」


「先輩自体がうるさい側なので問題ないと思うんですけどね……」


「女子にうるさいって悪口じゃない?」


「なら活発で自由」


「うるさくてわがまま。わがままが増えただけじゃん……」


 紅茶を飲みながらいじける先輩。

 隣で壁にもたれながら足を伸ばして紙コップを両手で持ちながらちびちびと紅茶を啜る。

 開いた窓からは文化祭で開放的になった生徒達の元気な声やら喧噪が遠く聞こえる。

 高校最初の文化祭をこんな風に過ごすことになるなんて思ってもいなかったな。

 可愛い先輩と静かな教室で隣り合って座りながら紅茶を嗜むなんて普通は想像つかない。

 全部先輩のせいだけどね。おかげなのかせいなのかはわからないけども。


「それにしても文化祭は楽しいものだね!」


「楽しんでる行動範囲には見えないですけど」


「楽しいよ? 準備とか知り合い呼んだり、ステージしたりとか。こうやって後輩くんと過ごしたりとかね〜」


 立ち上がり少し歩いて、紙コップを手に、くるりと回ってこちらを覗き込みこむ。

 近い。最近少し距離感をマスターしたと思ってたのに全然そんなことはなかったみたいだ。学習しない先輩め。


「なのにクラスとか回らないんですかね」


「それは別にいいや。めんどくさいし? 最悪明日でも回れるから」


「文化祭で回るのがめんどくさいって絶対こういう行事向いてないですよ」


「うるさいなぁ! 楽しみ方は人それぞれでしょ!」


「そうですけどね」


 本人が楽しいならいいけど……。


「といっても、ここにいても暇だね」


 そう言って辺りをぷらぷらとしてから、ピアノの椅子に腰掛けて鍵盤の重い蓋を持ち上げる。


「ピアノ弾けるんでしたっけ?」


「もー。後輩くんわたしに興味なさすぎでしょ」


 前に弾いてた気がしないでもない……。

 別に興味がないってわけじゃないけど。


「何か弾くんですか?」


「何かリクエストあるー? 今なら特別になんでも弾いてあげるよ」


「猫踏んじゃった?」


「それはわたしがそのレベルって言いたいのか本当に聴きたいのかどっちなの?」


「ちょっと馬鹿にしました」


「だよね! わかってたよ!」


 そんなに怒らなくても。


「それじゃあ……。きらきら星で」


「……」


 そんな目で見られても……。だってピアノの曲とか全然知らないし。


「弾けないんですか?」


「弾けるよ! むしろ幼稚園生でも今時弾けるからねこんなの!」


 こんなのって。作曲者に失礼でしょう。


「ならそれでお願いしますよ」


「本当にこれなんだ……。まぁいいけどさぁ」


 文句を言いながら演奏を始める。

 昔からよく聴くメロディー。割と好きなんだよね。

 前奏が終わりAメロに入ると先輩が歌い出す。


「Twinkle, twinkle, little star, How I wonder what you are! 」


 日本語ですらなかった。

 ステージでも聴いてて思ったけど先輩本当に歌も上手い。

 先輩の綺麗な歌声がピアノの音とともにに教室を包み、そのまま窓の外へと溢れていく。

 きっと近くにいるみんなも聴いているだろう。この演奏を歌声を。

 短い曲はなので一瞬でおわったのが残念だ。


「英語版なんてあるんですね」


「わたし英語版のが好きなんだー。日本語の方の歌詞知らないし……」


「特殊ですね。先輩らしいというかなんというか」


「またそーやって馬鹿にして。きらきら星だって難しいんだからね!」


「さっきまで簡単なのとか言ってたくせに……」


「これはね。しょーがないなぁ……。ちゃんと聴いててよ?」


 もう一度ピアノを弾き始める先輩。

 またきらきら星じゃん。と思ったけど少しばかり音が違う気がする。

 今度は歌ってないし。途中から完全に知っているきらきら星ですらなくなってしまった。音はきらきら星ぽいのに……。しかも全然終わる気配はない。

 というかこれを聴いてると眠くなってくる。3分くらいが経過してもまだまだ鍵盤を打つ先輩の指は止まらない。

 楽しそうに体を揺らしながら引き続ける先輩。いつまでつづくのかな?

 目を瞑りながら終わるまで耳を傾ける事にした。



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