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93-ぷにる。


「はいどうぞ」


「なんか久々に食べる気がするね」


 数日しか空いてないのに。


「そんなことないですよ。これが初日のタルトです」


「へぇー。なに入ってるの」


「マスカットにエルダーベリーのジャムとカスタード」


「知らない名前が出てきたや」


「美容にいいらしいですよ?女子に受けそうですね」


「ほぇー。たくさん食べないと!」


「食べすぎると体に悪いですよ」


「どっちなのさ……」


「適度な量ってものがあるじゃないですか」


「難しいことは分からないよ〜。そんなことよりこれどこで売ってるの?聞いたことないんだけど……」


「どこで売ってるんですかね?見たことないですけどネットで買えるんじゃないんですか?」


「え?ならこれどこで手に入れたの?!」


「摘んできましたよ?」


「どうやって」


「普通に森に入って」


「こんなの生えてるんだ」


「先輩の沐浴エリアにも生えてますよ?」


「沐浴って前回裸じゃないし……」


 前回?


「別になんか着てても沐浴になるんじゃないですか?先輩は裸の方が映えそうですけどねー」


「ちょ!それどういう意味?!わたしが露出狂みたいにー!!」


「露出狂かはのちのちとして。綺麗だから何も羽織って無い方が森に住む野生児みたいで……」


 だめだ言ってて笑いが止まらない。

先輩が頬を膨らませて此方を睨んでいる。


「馬鹿にしてるなぁ……。こんな万能な野生児が居てたまりますか!本当にもう」


自分で万能言ってるし。


「万能の『ば』の字が料理な無いんですけどね?」


「それは管轄外なんですよ〜。わたしの担当が決まっててね」


「都合がいいですね?」


「煩いなぁ!料理は後輩くんがやるからできなくていいの!!いただきます!!」


 今はいいかもしれないけど将来結婚したら困るでしょうに。料理できる旦那様みたければいいだけだけど。先輩なら選り取り見取りだろう。


「高校生活のうちだけですよそんなこと言えるのは」


「いいのいいの!今がよければそれでね。わたしは幸せだよっ〜!美味しいっ」


「呑気なものですね」


「別に独身でもお母さんが作ってくれるし!」


 自由気ままなに生きてるなぁ。


「ずっと実家ですか?音大とか行かないんですか」


「行ったらご飯たべれないからなぁー」


「まさかそんな理由で?」


「結構大事でしょ?!入っても続かなきゃ意味ないんだよ?」


「まぁそれは確かにそうですけど……」


「将来のことなんてその時考えればいいんだよ!大事なのは今!このタルトが美味しいことが全てだよ」


「ならそれでいいですか?」


「飾り付けもこれでいくの?」


「もう少しやりますけど大体こんな感じですよ」


「じゃオッケーでしょ。美味しいし売れるよ」


「本当にこれでいいんですか?」


「なんで?」


「いえ……ただの確認ですけど」


「このサイズで出来るの?」


「そーですよ」


「りょーかい!!楽しみだなぁ」


 当日のことを考えてにやにやし出す先輩。


「持ち帰りのほうはシフォン焼きますけど袋とか止め紐とか買っといてくださいよ?」


「可愛いの買ってあるから安心してよ〜」


「包装も全部先輩の仕事ですよ?」


「蘭と頑張りまーすっ!」


「これはなんこ作るんですか?」


「一個でどれくらいとれるの?」


「大きさにもよりますけど。同じく8等分するかそれを横に切って小さくするかですね。どっちにしろ500円は取りすぎですよ」


「なら16等分して100円で売る?16等分だとどれくらいの大きさ?」


「2.3口の大きさですかね?大きい型で焼けばもっと大きくなりますけど……」


「じゃそれでいこか」


「もう一つ大きくしますか」


「そーしよ〜!」


「味はどうします?」


「てきとうに3つくらいね。プレーンと抹茶とかで」


「それぞれ300ずつで作っときますよ。2日前にやるんで前日に詰めといてください」


「はいさ〜。明日土曜だから全部買っちゃうよ?」


「お願いします。マスカットもお願いしますね?」


「お店で買えるのかな……。この量を」


「ネットか卸業者から直接じゃないですかね」


「63房であってるよね?」


「はい。エルダーベリーはやっとくのでほかお願いしますね。あ、あとこれも追加で」


 紙に欲しいものを書いて先輩に手渡す。


「桜パウダーと花びら?どこで買えるのこれ……」


「前に行った製菓の専門店あるじゃないですか。あそこで買えますよ」


「あー!あそこかー!ついでにおやつ買ってこっと」


 やっぱりあの時のやつはおやつになってたのか……。


「ナッツたくさん食べるとその綺麗な肌にニキビできちゃいますよ」


 手を伸ばして前に座る先輩の頬をつつく。

ぷにぷにしてて気持ちいいね。


「ふにゅ。なにすふのさー!私ニキビできたことないから大丈夫だよ」


 ぷにっ。そんなところまでは完璧なのかこの先輩は。

ちょっとムカつくな。ぷにぷにっ。


「だからこんなにいい肌してるんですね」


 ぷにぷにぷにぷにっぷにぷにぷっ。


「いつまで突くつもりなの後輩くん?!」


 手ではたかれて、つついていた手が落とされる。

至福の時間が終わってしまった。


「気持ちよくてつい」


「ついじゃないよ!!デリカシーはどこへ!」


「先輩からデリカシーって単語が出るとは思いませんでした」


「……じゃあ好きなだけつつけばいいじゃない!!ほら!」


 そう言って顔を突き出してくる。


「あ、もう飽きたんでいいです」


「うぅ……。後輩くんがいじめる」


「そんなつもりは無いんですけど」


「最初は私がからかうの面白そうで絡んだのにっ!!」


「驚きの新事実です」


「気付いたら逆転してるよねー。まぁいいけど」


 いいのか。


「緩いですね」


「お菓子があればなんでもいいの〜」


「それじゃそれで全部頑張ってください」


「任せときない!先輩のいいところ見せてあげるよ!!」


期待しないで待っておこう。どうせ作るのは自分だからね。




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