91-売り物。
文化祭まであと11日。
「そんなわけでどんどん決めていかないといけないんだよね」
「ハードスケジュールすぎて先輩からお給料貰いたいですよ」
「頭くらいなら撫でてあげてもいいよ」
何で上からなんですかね?
「それは損なんで遠慮しますね」
「はいはいー。それじゃまず決めてこうか」
いつの間にかスルースキルを身につけてる。
「何決めるんですか」
「まずなに作るかだよね」
「なにがいいんですかね?」
「原価安くて儲かって沢山売れて美味しいけど生クリームが少な目のやつ」
「要項多過ぎませんかね」
「そんなものだよ」
「どう売るんですか?個装して売るんですか?ケーキ屋みたいに箱に詰めたり?それとももう皿で出す感じ
ですか?」
「何も決めてないよ」
「……。品数は?」
「これから」
「やめますか」
「もー後輩くんに丸投げします!!」
諦めたな……。
「はぁ。仕方ないですね……。本気で売りに行くなら販売するものと持ち帰り出来るやつ2つ用意して生クリームが極力ない奴に」
「ほうほう?」
「値段設定は?相場いくらなんですか。文化祭の出店の」
「しらなーい。多分500円とかじゃないの?」
去年なにしてたんだよ本当に……。
ここから一歩も出なかったの?
「じゃあ500円で出しますか?」
「そのほーが楽だからそうしよっか」
「後はケーキをなににするかですけど……」
正直なんでもいいよね。めんどくなってきた。
「わたしタルト食べたいな〜」
「じゃそれで」
「え?!珍しく素直だね?!」
「めんどくさいので……」
「ちょっとー!せっかくなんだから楽しもーよ!」
「人に丸投げしといて?」
「それは信頼の証ですよ」
「何とも都合のいい信頼ですね」
「まあまぁ細かいことは気にしないで決めてこーよ?」
有耶無耶にしようとしてるの分かり易すぎる。
「タルトでいいですか?」
「何のタルト?」
「なにがいいんですか」
「んー。何でも好きだからなぁ。見た目が映える奴のがいいんじゃないの?インスタ映え?みたいなの」
わたしはやってないから知らないけど。
って。よくわからないのに乗ろうとするのね……。
でも確かに見た目がいいと女の子にうけるかもしれない。
「ホールカットにしますか?それとも小さい丸とかで焼いて盛ります?」
「どっちが楽?」
「ホールのが楽ですよ1作れば8出来ますからね。でも見た目が綺麗なのは丸で焼く方ですよ多分」
「後輩くんならホールでも綺麗に出来ない?」
「最低限のは作れますけど……」
「めんどくさいの嫌だしホールにしよっか!!」
めんどくさいって先輩は何もしないでしょうが。
強いて言うなら味見という名のティータイムでしょう?
「ならホールにしましょうか?なに載せますか?」
「メロン!」
「安くての部分をいきなり無視ですか」
「うぅ……。なら同じ色でマスカット?」
「使うならシャインマスカットですから意外としますよ」
「いくらくらいなの?」
「一房2000円もしないくらいですかね?」
だいたい一房でタルト2個って考えたらマスカットだけで1つ1000円を8カット125円前後?意外とそうでもなかった。タルトで75円だとしても200円で300円の利益。
原価率が4割かぁ……。って学生の文化祭でそんなの気にしなくてもいいか。
「あれってそんなにするんだ……」
「まぁ500円で売れますよ?」
「儲かる?」
「設ける必要はあるんですか」
「どうせやるなら稼がねば!!」
「本当に思い出作りはおまけなんですね?」
「違うよ!!それがメインだからね?!わたしの悲しい黒歴史を上書きしたいの!」
「はい。なら儲けそんなにいりませんねぇー。次行きましょーか」
「後輩くんのけち〜!」
けちじゃないでしょう?
けちだったらこんなことに付き合ってませんよ?
「次は何個売るかです」
「とりあえず全校生徒分ででしょー?」
「はいストップ」
「なーに〜」
なーに〜じゃない。全校生徒何人いると思ってるんだろう……。
「全校生徒何人いるか知ってます?」
「もちろんっ!1000ちょいだよ〜」
「って事はタルト何個だと思ってます?」
「なんと125台!……多いね」
「焼くの1人ですからね?」
「うーん。でも狙うならそれくらいないとなぁ……。一般来場もあるし」
「だからって125台焼けと?」
「わたしも手伝うよ?」
「それは辞めてください」
余計に時間がかかるだけだ。
強いて言うなら洗い物くらいだよね。
「洗い物できるよ??」
「結局変わらないですよ」
「えー。なら何台焼くならいけるの〜?」
1回10台で12.3回か。寝かせる時間とか考えると結構時間かかるな……。
当日は盛り付けとカットだけにしたとしても125台分?
あれ?前日とかに仕込めるし大会と比べると数も少ないし余裕じゃ……。
「第1に125台だとしてマスカット63房で2000円なら12万5000円ですけど。学校から出たりするんですか」
「出るわけないでしょ?」
「ならどうする気ですか。初期資産」
「まぁそんくらいならわたしが出すよ」
そんくらい……?12万ってそんな扱いできる金額なのか……。
「お金持ちですね」
「だってどうせ戻ってくるんだから出すよ」
「それでもよくパッと出せますね?」
「後輩くんを信じてるからね!」
満面の笑みをこちらに向けてそう言う先輩。
そういう事を言ったんじゃないんだけどなぁ。
「先輩ってお金持ってそうですね」
「あれっ?!スルー?!まぁ、多少は持ってるけど……。あげないよ?」
「なんで集ってるみたいに言うんですか」
「あれ?違った?ごめんねぇ〜。まぁ優勝出来なくても後輩くんくらいならテーマパークに連れてってあげよう」
凄い先輩ヅラしてるけど、そんなに先輩は先輩の威厳が欲しいのか。
「それはデートのお誘いですか」
「デっ?!なんでそうなるのさ!!先輩ぽいところ見せてあげようとしてるのにっ!」
「なんだ。残念ですねせっかく可愛い女の子に誘われたと思ったんですけど」
「真顔でそんな事言われて浮かれるほど馬鹿じゃないよ?」
ちっ。もう少しいじり方変えないとあしらわれてきてるぞ。
「じゃあ125台でいいんですか?」
「いいよ〜」
「型と材料買っといてくださいね」
「え、なに買えばいいかわからないよ」
「ちっ」
「あっ!!今『ちっ」って言ったよね?!舌打ちした!!」
「なんのことですか?」
「はぁ〜。もっと先輩に優しくしてよ〜。先輩というより女の子に!」
「何を言ってるんですか?こんなにもスイート対応してるじゃないですか」
「もーいいよ!明日放課後真っ直ぐ街に買い物ね!!」
「行ってらっしゃい」
「後輩くんもだよ!!さりげなく逃げようとするなぁ」
えぇー。だって試作したい。
「しょうがないですね。先輩のわがままに付き合ってあげますか」
「わがままって……。とりあえず明日放課後すぐここに集合ね?厳守だよ!!!」
厳守って遅刻するなら先輩の方でしょう?
「わかりましたよ。それじゃまた明日ですね」
「ちゃんと集合するんだよ〜!!」
しつこいなぁ。
「先輩こそ来てくださいよ」
「わたしは大丈夫だよー!」
その自信はどこからくるんだろうか?
まぁ来なきゃ帰ればいいし別にいいか。




