読書感想文・題『うどんおばあちゃん』
最初、図書館でこの本を目にした時は面白そうな本なんだと思った。
うどんのおばあちゃんがどこか冒険にでも出る話なのかなと思ったのだ。
けど、読んでみてその内容が全く違う事に驚いた。
おばあちゃんは香川県に住んでいて、うどん屋を一人でやっているのだが、体に負担がかかるうどん打ちに限界を感じて、息子に店を継いでくれないかと電話をする。
けど東京で仕事をしている息子は、仕事があるし、田舎で収入も少ないうどん屋を継ぐなんて興味が無いよと断ってしまう。
おばあちゃんのおばあちゃんの代からずっとやってきたうどん屋。
自分の代で看板を下ろしてしまう事に、おばあちゃんは失望してしまう。
だがその時期にお店の近くに大きなショッピングセンターが出来上がり、有名な飲食店が入る事を知った県民は、どんどんその店に行くようになり、おばあちゃんの店も経営がいよいよ危なくなってしまう。
そんな折、息子が一人実家に帰ってきた。
会社が経営悪化による早期退職者を募っていたので、それに従い仕事を辞めたのだと。
更に妻や孫にも香川に移住する事を言ったが、二人は田舎に住むことを拒み、離婚したという事実を聞かされた。
熟年離婚、中年リストラ。全ての不幸を身に背負ったような環境。
だが息子は、裸一貫で代々引き継いできたこの店をまた盛り返したいと、うどん打ちの勉強を始める。
だがそんな時、息子は数十年ぶりに地元の同窓会に出席し、当時意識していた女性と出会い、女性もまた地元へのリターン組で、子供を大学へと送り出した後に熟年離婚していた事を明かす。
お互いの傷を舐め合うように肌を重ねる二人。
心は遥か数十年前に遡り、あの日、二人で駆け落ちしていれば、また違った人生が待っていたのかもと思いあう。そして火照る体が冷めるよりも前に、二人はマリンライナーに乗り香川県から姿を消した。
息子に裏切られ、県民に裏切られ、おばあちゃんは最後にフェリーに乗って女木島へと旅立った。そこはかつて鬼が島とも呼ばれ、桃太郎が鬼退治に訪れた島とも言われている。
おばあちゃんは鬼が住み着いていたとされる洞窟から、岩場深くに埋め込まれた金棒を握り、心の奥深くにはびこんだどろりとした黒い憎悪を吐き出すと共にその重厚な金棒を引き抜き、肩へと担いだ。
「さて、鬼退治といこうじゃないか」
最後におばあちゃんがそう呟いて終わるのだが、果たして鬼はどちらなのか。
社会の歪み、人生とは思い通りに行かないという現実を痛烈に突きつけてくれる希少な一冊に出会えたと思える内容でした。