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14 混戦

 ◆レオナルドサイド

「誰です!?」

 背後から不意されたレオナルドは、<マジック・ブレイカー>でなんとか攻撃をはじく。


「おいおい、つれねぇなぁ。あのとき、直接戦っていなかったとはいえ。ラインと、女王様は元気か?」

「あなたは、クロウ!」

「覚えてもらえていて光栄だ、レオナルド総大将」

 嬉しそうに好戦的な表情を浮かべる相手に、レオナルドは焦りを感じた。


「レオナルドさん、こいつは一体?」

「……以前報告した、ガスタークで遭遇した<マーヤー>の一味です。マヒロ殿、リハク様を早く安全な場所へ」

「わかりました、後は頼みます。リハク様、こちらへ」

「レオナルド殿――」

「大丈夫ですよ、リハク様。私は先ほどの戦いには参加していませんので。お早く」

 レオナルドはクロウと対峙しながら、リハクとマヒロを退避するのを見送った。



「見逃していいのですか? この国のトップはあの方ですよ?」

「あ~、構わねーよ。つまらん相手と戦っても何も嬉しくないしな。それに俺たちが相手する必要もないしな」

「!? (狙いは私たち、ということでしょうか)」

『(でしょうね、あの岩石フィールドが邪魔なんでしょう)』

 やれやれといった仕草を見せるシャナルに一瞬頬が緩んだが、すぐに気を引き締めた。

 なにせレオナルドとシャナルはさきほどは戦いには参加していないが、岩石フィールドを維持するためにずっとマナを使い続けているのだ。

 ナターシャのおかげで負担はかなり減っているものの、レオナルドはシャナルを現界させつつ、フィールドを維持しなければならないため負荷が半端ない。


「(短期決戦です!)<轟嵐散破槍ごうらんさんはそう>!」

 槍による突きを高速で連続して繰り出す。反撃の機会を与えず、最初の一手で仕留めるつもりだったが――

「外れた!?」

「おっと、危ない危ない。さすがにまともに直撃したらただですまないな」

 攻撃が当たる寸前で回避されてしまい、再びを間をあけられてしまった。


『レオナルド、考えている時間はないわ。次の攻撃行くわよ! < 岩砕牙グランバスター >」

「<疾風迅雷しっぷうじんらい>」

 シャナルの岩石を生み出し敵に向かって解き放つ近・中距離攻撃魔法に便乗して、氣で足を強化して素早さを一気に高め瞬足による攻撃で一気に仕留めようとするが――



「甘いな。ついでに今度はこいつを受け取りな!」

「なっ!」『そんな!』

 二人の渾身の一撃を、クロウはなんと刀一本で防いでみせたのである。

 さらに、はじいた刀を再度構え直し、反撃とばかりに連撃を繰り出しきた。


「クッ!」

『レオナルド!』

 すべて弾こうと試みたが半分以上捌けず、レオナルドはけっして浅くはない傷を負った。


「まさか俺の創った結界内でここまで動けるとはな、正直見くびってたぜ」

「結界?」

『レオナルド……あいつを中心に周囲の空間が歪んでいるわ。あれが原因かも』

 レオナルドも目を凝らして視てみると、確かにクロウの周囲が歪んでいて、マナの流れが滞っているのを感じた。


「まさか!? これが狙いですか」

「あれ、もう気付いたのか? 優秀すぎるだろ、お前ら。だがな、もう遅い!」

 クロウは目の前の空間を刀で斬った瞬間、レオナルドとシャナルを繋いでいたパスが一瞬途切れ――パリンッという音を立てて、岩石フィールドが粉々に砕け散って消滅した。






 ◆マヒロサイド


「リハク様、早くこちらへ!」

 マヒロはリハクの避難を急ぐが、途中また別の集団に襲われてなかなか先に進めずにいる。

 けっして油断はしていなかった。

 危険性も考慮していたし、対策も考えていた。

 だが、一番気が緩む絶妙の瞬間をつかれてしまい、完全に後手に回ってしまっている。


「お姉ちゃん、ここは私に任せて」

「チヒロ!」

 前線の指揮を執っていた妹のチヒロが応援に駆けつけてくれた。

 敵は20名近くいるが全員鬼人族ではないし、チヒロが遅れをとるとは思えない。


「わかったわ!」

 ここは彼女に任せて、マヒロは自分の役割を果たすことを優先した。

 連合軍にとってもちろんマヒロやレオナルドは要であるが、帝国の実質トップであるリハクを失ったらすべてが終わる。

 なんとしてでも守り通す!

 それだけを胸に秘めて、マヒロは安全な地帯へと急ぐ。


 とそのとき!

 上空でパリンッという音が聞こえたと思ったら、岩石フィールドが消失してしまったのを確認した。


「(まさか! レオナルドさんの身に何か起きたの?) !?」

 彼の身を案じたいのは山々だが、最悪の事態がやってきた。


「我の名前は、鬼人族夜叉。リンドバーク帝国現宰相リハク・マッケンとお見受けする。早速で申し訳ないが、あなたには死んでもらう」

 上空からやってきた夜叉と名乗る鬼人族の他に、もう3体の鬼がマヒロとリハクを取り囲んだのである。

 マヒロは瞬時にリハクを護衛する態勢をとり、いつでも魔法を放つことのできる準備を整える。


「それは困りましたね。明日は楽しみにしていたチヒロの料理を食べる日なのですが」

「えっ!?」

 マヒロはかなり切羽詰まっていたのに、守護する対象のリハクは普段と変わらない様子に驚いた。

 現在進行形で鬼に命を狙われているのにもかかわらず。

 と同時に、リハクを頼もしく思い、ますます気合が入った。



「下等な人間の分際で、我を前にしていい度胸だ。お前たち、その女は任せた」

「「「はっ、夜叉様」」」

「くっ! リハクさまーーー!」

 夜叉の命令によって3体同時に攻められ、流石のマヒロも対処しきれずにリハクの傍から引き離されてしまった。


 引き離されたことによって、リハクだけ取り残される形になり、夜叉と対峙している。


「このー、邪魔よ! <雷光閃らいこうせん>」

雷光閃らいこうせん

 雷を帯電させた光の刃を複数出現させ、相手を串刺しにする電撃魔法。

 普通光の刃を出現させるだけでも難しいが、それを複数出現させ、さらに解き放つためには相当なマナ量と集中が必要になる。


 3体の足を止めるだけでもよかったのだが、<雷光閃らいこうせん>の攻撃に対して1体が残り2体の身代わりになって負傷したが、残り2体は無傷だ。


「よくも――」

「やったな!」

 2体は仲間が負傷したのに怒り、マヒロに猛攻撃をしかけてきた。


「くっ、このままでは!」

 当たったらシャレにならない一撃ではあるが、そこまで速くないためなんとか避けきるマヒロ。

 だが、反撃に転じることもできず、リハクの元に戻ることもできず。

 ますます状況が悪化していることに焦りを覚えるのであった。






 ◆リハクサイド


「(まさか、ここまでとは)」

 移り変わる事態の中で常に冷静なリハクであったが、初めて目の前で見る鬼人族の実力に内心圧倒されていた。

 腹心のマヒロも決して弱くはないはずだが、流石に3体の鬼人族相手に苦戦している。

 当然だが、マヒロでも苦戦するような相手を、リハクが相手にできるわけもなく。

 夜叉と名乗る鬼人族が、殺気を漂わせながらゆっくりと近づいてくる。


「なにか遺言はあるか?」

「きいてくれるのか?」

「まさか、言ってみただけだ。お前たち人間は敵将に情けをかけるようだが、我はそんなことはせぬ」

「そうだろうな」

 死が刻一刻と近づいてきている。

 だというのに、全く怖れを感じないことに、逆にリハクは戸惑っている。

 が、最期のそのときまで冷静でいることをモットーにしているリハクは、そっと目を閉じる。


「じゃあな、これで人間たちも終わりだ!」

 夜叉がリハクに向かって、刃を一気に振り下ろす――


「……」

 全然刃が自分に届かないのを不思議に思っていると、カランカランッという音が聞こえてきた。

 何事だと思って目を開けてみると、先ほどまで夜叉が持っていた刃が地面に転がっているではないか。

 夜叉の手を見てみると、刃を握っていた手から血が出ている。



「おい、そんなにあんたが簡単に生きるのを諦めてどうする?」

「何者だ!?」

「なるほど、だから怖れを全く感じなかったんだ」とリハクは納得する一方、夜叉は突然現れた相手に動揺して、警戒を強めた。


「お前たちに名乗る名などない!」

 颯爽と現れた彼は、そう大声で宣言した。




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