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13 強襲!首都カリストロ

 ◆ソロルの村 一斗サイド

「あ〜、スッキリした! こんなにスッキリしたのは久しぶりだわ」

「でしょでしょ? そういえば、むしゃくしゃしているときに、よくマイと一緒に遊んだなぁ」

「……妾もまたやりたい」

「だって、一斗! ユーイさんやシェムルにも気に入ってもらえて♪」

「……ぶす〜」

「ハハハッ。一斗くんも嬉しさのあまり声も出ないようなので、そこまでにしてあげてください。それでは、出発しましょう!」

「「「はい!(うむ!)」」」


 そう言うと、俺に構わず4人はさっさと出発してしまった。

 息が出来なくなるくらい笑い過ぎて、まじで死ぬかと思ったのに。加害者たちはとっても楽しそうだ。

 いつか仕返しやるぞ――って、いつまでも不貞腐れていて仕方ない、か。



 カールたちの後方を歩きながら、これからのことを考えてみよう。

 カールがついてきてくれることで、マイのことに関して心配することはなくなった。

 謎の組織<マーヤー>については、どのタイミングでまた介入してくるのかわからん。

 油断は禁物だろう。


 俺にかけられている封印の解除については、考えて何とかなる問題ではないはず。

 となると、現時点では鬼人族との戦いに専念することが得策だな。


「一斗、これからどうする?」

「カールと合流できたから、ここはもう無用だ。今日のところは一旦宿屋に戻り、一泊してからカリストロに戻ろうぜ」

「やったー、またお風呂に入れる♪ シェムル、今度は一緒に入りましょう」

「えぇ、いいわよ」

「ユーイさんも一緒にどうですか?」

「妾は――」

「(一斗が気に入っている浴衣がもう一着あります。どうですか?)」

「――一緒に入るぞ」

「ありがとうございます、ユーイさん♪」

 まさに蚊帳の外といった感じで話が終わった。

 それにしても、ユーイが任務中にお風呂に入るって言うなんて珍しいな。

 ティスが何か耳打ちしていたが、何かユーイは弱みでも握られているのか?


「一斗くん、それは違うと思いますよ」

「カール、お前も心を読めるのか?」

 そういえば、ラキューナにも俺が何を考えているのかバレバレだったな。


「いえ、誰でも読めるわけではなく――あなたは特別わかりやすいのです」

「そうなのか?」

 くそ~、クールに振舞っているはずなのに。


「それはそうと、あんたの荷物はそれだけでいいのか?」

 ほぼ手ぶらな状態のカールに気になったことを質問してみる。


「はい。最低限必要なものさえ身に付けていれば、問題ありません」

「とはいえ、着替えとか、薬とかもいいのか?」

「はい、特段持ち歩く必要はありません。いつでも家に帰れますから」

「いつでも? まさか、お前もマイと同じで時空間魔法で瞬間移動できるのか?」

「いえ、私には時空間魔法は使えません。ただ、ある方にいただいたこの秘宝があれば、私はいつでも家に戻れるのです」

 そういって、カールは懐から巻物を取り出した。

 一見すると、普通の巻物だ。何か特別な力も感じない。


「これは、巻物に刻まれた文字を唱えることで、発動する特殊な巻物なのです」

「俺が唱えても発動するのか?」

「いいえ、あくまで私が唱えないと発動しないように細工してあると聴いています」

「魔道具の一種だろうが、すごい技術だな」

「はい、私もそう思います」

 う~ん。

 巻物をカールから受け取って実際に触ってみても、別にそんなすごい技術が施されている巻物とは思えない。

 ナターシャのやつに見せたら、絶対に解明しようと躍起なるだろうなぁ。

 そんなことを考えていたら、突如ユーイの傍に一人の女性が現れた。


「ユーイ様、こちらを」

「なんじゃ? ――これは!?」

 女性から紙切れを受け取ったユーイは、書かれている内容を見て驚愕している。


「どうした、ユーイ? 何かあったのか?」

「うむ……どうやら鬼人族が首都カリストロに強襲をかけているらしい」

「「「なんだって(なんですって)!?」」」

 どうやらのんびりと風呂に入っている場合じゃないらしい。


「それで、被害はどうなんだ?」

「死者・重傷者は出ていないものの軽症者は多数。ただ――レオナルドが言うには、総攻撃というよりも何かを待っている様子のようじゃ。なので、お互い主力同士はまだぶつかっていないらしい」

 よかったぁ、あいつらは無事か。

 だが、一刻も早く戻る必要がある。

 馬車で移動すると最速で二日かかるが、そんなに待っていられない!



「ユーイ! お前の部下に馬車でカリストロまでのカールの護送を頼んでもらえないか!」

「もちろんじゃ!」

「ティス、シェムル! 残念だが風呂はまた今度だ」

「もちろんわかってるわ、一斗!」

「えぇ、早く戻りましょう!」

「カール、今話した通りだ。俺たちはカリストロに先行する。あんたは後から来てくれ!」

「わかりました、一斗くん。ご武運を」

「おぅ! じゃあシェムル頼む!」

「わかったわ! みんな私の肩に掴まって!」

 俺たちがシェムルの肩に掴まると、ティスは懐からナターシャから譲り受けたあるものを取り出した。

 あるものとは、マイの魔法<時空間転移スペース・シフト>と同等の効力がある転移玉。

 ただ、発動にはまだ特定の条件が必要で、その条件を満たす人物は限られている。

 ある一定量のマナを流し込むのは問題ないが、さらに異なる2つ以上の属性のマナを同時に流し込まないと発動しないらしい。


 俺が知っている中でそんなことができるの人物は、ナターシャとシャナル、そして、シェムルの3名だけだ。

 ナターシャの大切な道具ではあるが、もしものためにということでシェムルに持たせてくれたのである。


 シェムルが転移玉にマナを流し込むと、玉から強い光が発して、光が俺たちを包んでいく。






 ◆首都カリストロ郊外 鬼人族サイド


 一斗たちがカールと再会する頃まで時間を遡る。


「くそー!!」

「夜叉様、先行部隊が押されつつあります!」

「くそくそー!!」

「夜叉様、撤退を!」

「仕方ない、一時広陵地帯まで撤収するぞ!」

「ハッ! 撤収ー、撤収ー」

「おのれ~、人間ごときが。今に見ておれよ」


 夜叉と呼ばれた鬼は、部下たちの報告を受けて仕方なく撤収することを決めたが、怒りを抑えきれないでいる。


 夜叉は鬼徹の弟で、前大戦時では常に奇襲攻撃で敵大将を仕留め、指揮系統が崩れた敵を一気に、最小戦力で速やかに殲滅することにこだわっている。

 つまり、真っ向勝負で敵をねじ伏せる鬼徹とは真逆の考えをしている。

 だが、夜叉はそれにより大きな戦果を挙げていて、連合軍の拠点の半数以上は彼によって占領されたといっても過言ではなかった。

 飛竜で上空から敵中枢を一気に攻めることを起点とする。それだけでほとんど決着をつけてきたが、今回は2つの想定外があり、奇襲攻撃が初めて失敗しまったのである。


 まず1つ目は、飛竜で首都カリストロに奇襲しようとしたが、なぜか首都全体が強固な岩石に覆われていて、いきなり侵入を妨げられてしまったこと。対人の奇襲攻撃に特化した部隊であったため、岩石を破壊する術を持ち合わしていなかったことも侵入失敗した要因としたある。

 2つ目に、奇襲を諦めて地上から白兵戦をしかけようとしたが、敵戦力の予想以上の抵抗を受けたこと。

 鬼は一騎当千の実力があると自負していたが、まさか鬼一人一人に対して集団で反撃を受け、撃退されるとは思ってもみなかったのである。

 兄の鬼徹の助言をもっとしっかり聞いていれば、こんな敗退をすることはなかったが、それは夜叉のプライドが許さなかった。



 ………………

 …………

 ……


「夜叉様、およしください!」

「黙れ、羽生! 我に意見するのか」

「いえ、そういうわけでは――鬼徹様の許可なく攻めるのはおよしいただきたい」

「ほう。我に対していい度胸だな、羽生」

「ぐっ!」

 夜叉は座ってお辞儀している羽生の頭を足でグリグリと踏みつける。


「辞めよ、夜叉」

「鬼徹様!」

 そんな中、鬼徹が彼らの前に姿を現す。


「兄上、止めても無駄ですぞ。2度も敗走するなど、鬼人族の恥でございます。人間共が調子に乗る前に叩き潰すのが定石でしょう」

「……いいだろう。お前の好きにしろ」

「はっ、有難き幸せ」

 夜叉は形だけ臣下の礼をとり、すぐに踵を返す。


「ただし、弱小の人間相手とはいえ油断はするなよ。油断ならない人間が少なくとも何人かいるからな」

「……」

 夜叉は詳細を鬼徹から訊くことなく、無言でその場から立ち去った。



「よろしいのですか、鬼徹様?」

「よい、好きにすれば。これで帝国が滅ぼすことができれば、それでよし。ただ――」

「一斗、ですな」

「うむ。あやつはまだまだ強くなる。それにその仲間たちも油断ならぬ」

「確かに。ブランチ島で出会って我らと対峙した二人は、先の戦いでは別人のように強くなっておりました」

 羽生が思い出すのは、レオナルドとチヒロのことだった。

 二人ともブランチ島での戦い後に、強くなれたのには理由がある。

 レオナルドの場合は、まだ島での戦いではシャナルとの連携がとれておらず、力を使いこなせていなかった。

 チヒロの場合は、一斗から氣の扱い方を短期間で習得できたことが大きいだろう。

 もちろんそんな状況を知らない鬼人族からすると、異常に感じるのも無理はない。


「……羽生、他の五鬼将を集めよ!」

「はっ、承知いたしました!」

 羽生はすぐさま他の五鬼将を探しにその場を離れ、鬼徹はじっと考え事をはじめるのであった。


 ……

 …………

 ………………



「このままおめおめと帰る訳にはいかぬし、援軍を待つ訳にも……」

「なにかお困りのようですね」

「何者だ!?」

 突如夜叉の後方から女性の声が聞こえ、振り向きざまに夜叉やその部下たちは武器を構え警戒する。


「誰でもよろしいかと。それよりも、あの岩石の壁を何とかしたくはありませんか?」

「……いいだろう、きかせろ」

 切羽詰まった夜叉は女の話を訊いてからでも遅くはないと思った。

 そんな夜叉に対して女は妖艶なほほえみを向け、夜叉にある提案をするのであった。





 ◆首都カリストロ 連合軍サイド


 夜叉の奇襲攻撃を退けた連合軍の兵士たちは相手の撤退する様子を見送って、カリストロ領内へと戻っていく。


「なんとか凌げましたね。これもレオナルド殿のおかげですな」

「いえ。ケインやシャナルの助言と助力あってのことであります、リハク様」

 二人は上空を覆っている岩石を見上げながら、事の顛末を思い返してみる。



 昨夜遅く、たまたま夜遅くまで訓練している部隊があるという知らせをリハクは受ける。

 一度視察してみたいというリハクの申し出を受け入れ、レオナルドは護衛兼案内役として訓練地に向かった。


「これはこれは、総大将に、リハク様。ようこそお越しになりました」

「ケイン殿、訓練の方はいかがかな?」

「はっ! 我々指揮官による訓練をすでに終わっていますが、なかなか終わってくれないやつらが――」


 苦笑しているケインが向いた先を、リハクとレオナルドも目線を向けてみる。

 すると、とても訓練とは言えないような激しい戦いが繰り広げられていて、リハクはちょっと顔が引きつった。


「なるほど。レイの班とエルクの班で戦っているのですね」

「はい……お互い負けず嫌いでして。どちらかが勝っても、負けた方がリベンジ――という繰り返しが永遠と続いておりまして。おっ、今回はエルクたちが勝ったようですね」

「素晴らしい意気込みです。彼らと話しはできますか?」

「もちろんです! 少々お待ちくださいませ。」

 ケインはリハクの要望を受けて、訓練を続けている新兵たちのところに駆け寄る。


「いやはや、訓練でここまで白熱した戦いを見たのは初めてです」

「それは、私やマヒロ殿だってリハク様と同意見です。


「リハク様、新兵たちを連れてまいりました」

「ご苦労様です。新兵のみなさんも」

「「「はっ!」」」


「あれだけの訓練をして、余裕のある様子。真面目に励んでいる姿に感動しました」

「いえ、真面目にやっているといいますか――なぁ、ククリ」

「真面目にやらないといけないといいますか――ねぇ、レイ君」

「……常に必死に取り組んでおります」

 リハクの砕けた様子に、レイ班は素直に返答した。

 というのも、本当に彼らは必死なのである。

 特に、三日間にわたる短時間連続戦闘で、何度も死にかけた。

 それでも、強くなるための訓練を一斗に懇願した手前、途中で投げ出すという選択肢もなく。

 さらに、レイ班に触発されるように、エルク・カティア・セシルたちエルク班も短時間連続戦闘を志願したことで、訓練場はすでに荒地とかしている。


「それは結構です。とはいえ、休息も大事です。ゆっくり休んでくださいね」

「「「はっ!」」」

「……」

「ケイン、どうしたのですか?」

 ケインが急にある方向の遠い空を凝視しているのを、レオナルドは怪訝に思って彼に尋ねてみた。


「……敵が来ます」

「「「!?」」」

「それはどのくらいの数ですか?」

 ケインの突然の警告に、レオナルドはすぐに警戒態勢をとる。


「敵の数は……10。ただ、ものすごい速度で上空を移動し、こちらに向かっております」

「わかりました。シャナル、お願いします」

『はいよ、任せな。<絶壁陣グランネール>展開』

 術者の周囲に岩礫を展開し、認識した敵の攻撃を自動的に防ぐ防御魔法で、一気にカリストロ全体を岩石で覆う。

『さらに、これはおまけよ』

 ナターシャ特製の杖を上空に掲げると、杖から岩石に向かって光が照射され、瞬く間に内側が金属でコーティングされていく。

 そして、ほんの10秒足らずで、岩石フィールドが完成したのである。


「シャナルとナターシャ殿が考案した岩石フィールド。あれがあれば2,3日は持ちこたえれるかと。リハク様、その間に対策を立てましょう」

「……わかりました。色々事態が飲み込めておりませんが、現場の指揮はレオナルド殿とマヒロに委ねます」

「はっ! では、こちらへ。マヒロ殿と合流いたします」

 レオナルドは先導してマヒロのところまでリハクを案内するために動き、シャナルは二人の後ろについていった。


「聞いたな、お前たち! ここは戦場になる。急ぎ緊急事態用の配置につけ」

「「「はい!」」」

「ケインさんはどうなさるんですか?」

「まずは、シーナと合流して隊をまとめる。お前たちだけ先に行っててくれ!」

「わかりました。ロイド・ククリ、行くぞ!」

「おぅ!」「わかったわ!」

 レイ・ロイド・ククリの3名は街はずれのあえて岩石が大荒れているエリアに向けて、移動を開始した。


「ケインさん、自分たちは?」

「エルク・カティア・セシルたちエルク班は直属の部下ではないが、今は緊急事態。レイ班のバックアップを頼めるか?」

「それくらい朝飯前だぜ!」

「その通りだわ」

「彼らのことは任せて」

 エルク・カティア・セシルは、ケインの指示通りレイ班の後を追った。


「ふぅ、まさか本当にこのタイミングで来るなんて。さすがシャナルさんだ」

 ケインはそう呟くと、気合を入れ直してシーナのところへと急行した。


 ケインが「さすがシャナルさんだ」と言ったのには訳がある。

 実は、一斗たちが旅立った後、上空からの奇襲を警戒するように進言したのがシャナルだった。

 どうやら前大戦時に、空からの奇襲によって連合軍の拠点が瞬く間に占領されたことがあったらしいのだ。


 なんで一斗たちが言ったタイミングでこの話をしたのか、ケインは気になって訊いたところ、

『奇襲の危険性があると知れば、あいつはきっとここを離れられないわ』と。

 シャナルの発言に対して、レオナルドやナターシャ、シーナといった王国側の人間だけはなく、リハクやマヒロ・チヒロといった帝国側の人間もシャナルの意見に大いに賛同した。

 その後、彼らの間で笑いが起きたのは言うまでもない。




 シャナルの進言により、事前に対策が立てることができたおかげで、岩石フィールドによって鬼人族の奇襲攻撃は未然に防ぐことができた。

 さらに、あえて完全封鎖しなかった場所から侵入しようとした鬼人族10名は、100名程度の戦力で一網打尽。

 見事相手を撤収させることに成功したのである。


 しかし、撃退の喜びに浸る間もなく、連合軍は第2の襲撃を受ける。

 それは、鬼人族によるものではなく、<マーヤー>によるものであった。

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