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12 マイを救う手がかり

 ◆カールの隠れ家


 しばらくカールの後をついていったら、少し先に古民家が見えてきた。


「なんというか、まさに隠れ家って言う感じだが……よく誰にも見つからないな」

「えぇ、そう簡単には見つかりませんよ」

 カールが見つからないと言ってるんだから、これまでも見つかったことはないのだろう。


 それに、あとをついていったとき、霧が濃くなったところがあった。

 あそこがキーポイントだと俺は睨んでいる。

 たが、今回は別に謎を探ることが目的ではない。ちょっとカールと再会できて浮かれてしまったが、目的を見誤るなんていう愚行は、もうしでかすつもりはないのだから。



「さぁ、みなさん。どうぞ中に入ってください」

「邪魔するぜ――これは!?」

 家の中に入ってみると、ごくごく普通の家だった。ただ、それは以前いた世界で見たことがある古民家と、内装が酷似していたのに驚いた。

 俺はともかく、ティスたちは見たことがない家の造りに興味津々で、周囲をキョロキョロしている。


「さて、気になることが多いかと思いますが」

 カールはいつの間にか人数分の飲み物を用意しており、木造の床に湯呑を並べ、正座で座った。


「そうだな、あんたに相談があるんだ」

 俺は用意された湯呑の前に座り、カールと正面で向き合う。

 ティスたちも俺たちに倣って、庵の周りに腰を下ろす。

 正座まで真似してるが、こいつら大丈夫か?


「ふむふむ、なるほど」

「?」

 何か納得している様子のカール。


「相談とは以前お会いしたマイ君のことかな?」

「「どうしてわかった(の)!?」」

 俺とティスは前のめりになって問いただした。


「わかりますとも。あれだけお互いのことを思い合っていた一斗くん、ティスティくん。そして、マイくん。そのうちの1人であるマイくんがいなくて、それだけ必死なあなた方を見れ場誰だってわかります」

 カールは穏やかな表情で語りかけてきてくれた。そして、短い付き合いだったのにも関わらず、自分たちのことをよく理解していてくれたことが、素直に嬉しいと思った。


「あぁ、そうだ。マイが1年以上目を覚まさないんだ! 氣功術でも魔法でも薬でも何ともならなくて。あんたなら——あんたなら何とかならないか!?」

 だからこそ、マイのことで何か有力な手がかりを得られると思うと、居ても立っても居られないんだ。


「ちょっと一斗、そんなに捲し立ててもカールさんが困るだけよ。すみません、カールさん」

「いいえ、あなたの想いは伝わっています。詳しく話を聴かせてください」




 まず俺は同行してくれているユーイと、シェムルを紹介した。あの事件の当事者でもあるから、先に紹介する必要があると思ったから。

 そして、カールと別れてからマイが意識不明になるまで起きた出来事について、一つずつ説明した。


 大戦時の英雄アーバストやシャナルとの戦い。

 そして、マイとバスカルとの戦い。


 バスカルが勇者アレッサンドロと融合を果たして不死の力を得たけれど、奴が目指した桃源郷は実現されることはなかったこと。

 マイが持っていた<マジック・ブレイカー>でバスカルの不死を無効化。バスカルを倒して一件落着かと思いきや、突然バスカラから黒い影が出現。

 その謎の黒い影が一斗に向けて発した黒い煙を、マイが庇って意識を失う。

 最後は、一斗にかけられていた4つ目の封印が解け、黒い影を瞬殺。

 それからかれこれ一年以上経つが、マイの意識が戻る兆しは今のところないこと。



「なるほど、興味深い話ばかりですね」

「あぁ。それで、何かわかったか?」

「そうですね……一つ疑問があります。マイくんはその黒い煙を避けるように、あなたに警告したのですよね?」

「……そうだ。警告と同時に俺を突き飛ばして身代わりに——」



 ………………

 …………

 ……


 影は一斗の発言は無視して、黒い煙を一斗目掛けて吐いた。


「そんなヒョロい攻撃通じるかよ!」

 一斗は右手に氣を纏い、煙を振り払おうとししたところ――


「ダメ、一斗! それに触れたら!」

 一斗が振り払おうとした瞬間、マイが一斗を突き飛ばした。


「マイーーーーー!!」

 一斗の代わりにマイが煙に包まれていく。

 慌てて一斗がマイに近付こうとしたが――


「来ちゃだめ、一斗! ……邪魔よ!」

 マイに制止させられ、当の本人は魔法で煙を一瞬にして消すことに成功した――が、そのままマイは倒れ込んでしまった。


「マイ! 大丈夫かよ、おい!?」

 マイに慌てて駆け寄り、体を抱きかかえた一斗は彼女の体を強く揺さぶる。


「あなたが無事でよかったわ……一斗」

「おい、マイ! 返事しろよ、おい! …………」

 息はあり外傷はないがなぜか気を失ってしまったマイを、一斗は呆然と抱きかかえることしかできないでいた。


 ……

 …………

 ………………



 あの瞬間を今でも夢で見ることがあり、夢でうなされることも少なくなかった。

 今でこそ夢で見ることはなくなってきたが。


「ふむ。そういうことです、か」

「!? 何かわかったのか?」

「はい、もちろん推測ですが、聞きますか?」

「「はい、もちろん(です)!」」

 まさか話を聞いただけでわかったのか!?

 さすがシャナルの師匠で、賢者と呼ばれているだけあるな。


「その黒い影が吐いた黒い煙は、恐らく相手のマテリアルを消滅させる禁術だったのでしょう」

「マテリアルを消滅? そんなことしたら、受けた相手は死んでしまうのではないでしょうか?」

「ティスティくんの仰る通り、もちろんマテリアルの消滅は死を意味します」

「だがよ、マイは意識がないだけでマテリアルは確かにあったぞ?」

 そうだ、マイのマテリアルは確かにあったんだ。

 それは俺だけでなくて、ティスもケインも確認している。


「はい。だから、私が導き出した結論は——その黒い煙を消し飛ばす際に使用したマイくん自身の魔法の副作用によって、意識が戻らないと推測します」

「「「「副作用?」」」」

「ええ、副作用です。禁術を防ぐにはそう簡単ではない。恐らくマイくんがその禁術の効力を打ち消すために繰り出した魔法は、奥の手だったと思います」

「奥の手……でも、そこまで推測できるあんたなら、何とかできないのかよ?」

「私では難しい……でしょうね。というより、今の時代ではマイくん以外無理でしょう」

「無理……だと。じゃあ、マイは、マイは助けられないのかよ!」

 俺はカールが言っていることを信じることができなくて、カールに詰め寄って胸ぐらを掴む。


「動揺するでない、一斗や」

 すると、俺の左隣にいたユーイが、俺の右手を優しく包み込む。


「そうよ、一斗。まずは、落ち着いて」

 そして、右隣にいたティスが俺の後ろから優しく抱擁する。背中から伝わるティスの鼓動のリズムが、動揺する俺を落ち着かせてくれるのがわかる。

 カールの胸ぐらを掴んでいた両手の力が抜けていき、手を離れていった。


「……どう落ち着いた、一斗?」

「あぁ。ありがとよ、ユーイにティス。それにすまなかった、カール」

 ダメだダメだ。

 カールに八つ当たりしても何も意味ないのに。


「大丈夫ですよ。あなたがどれだけマイくんを大事に思っているのか。それに、マイくんがどれだけあなたのことを大事に思っているのかがよくわかりましたから。彼女の意識を取り戻すきっかけは——一斗くん、あなたにあるのですよ」

「俺に? だって、さっき——」

「えぇ、もちろんあなたが治療できるわけではない。先ほど言いましたでしょう、『今の時代ではマイくん以外無理』とね。あくまで推測ですが、当時のマイくんではリスクの高い魔法を行使したと思われます。しかし、それでも行使したのは、一斗くんを守るためでもあり、一斗くんのその最後の封印が解けることを見越していたためではないでしょうか」

 俺の封印とマイに何か関係があるのか?

 そんな話はマイからはきいていなかったが。


「彼女からはあなたに伝えることができない何か制約があったのでしょう。ただ、それでも一斗くんからにかかっている封印からは、なぜかマイくんの気配を感じます。

 一つの可能性ではありますが、封印が解けるごとに一斗くんの能力が解放されていったのと同様の変化が、マイくんにも起きていたはずです。だから——」

「マイの意識を取り戻すためには、一斗にかかっている最後の封印を解く必要がある、と。そういうことでしょうか?」

「その通りです、ティスティくん。わかっていただけましたかな、一斗くんも」

「あ、あぁ」

 そういえば、以前俺の封印が解けた時にマイが『魔法が使えるようになった』みたいなことを言っていたことを思い出した。

 あの時は詮索するつもりがなかったから、そのまま聞き流したが——。



「ですが、一斗にかけられた封印を解くことができるのは、一斗自身であると聞いています」

「自分の意志では無理なのでしょう。話を聞く限り、何らかのきっかけが必要になるはず。とはいえ、私もマイくんの容態を見せていただくことにしましょうか」

「あんたが来てくれるのか!?」

「もちろんです。推測を伝えるだけというのは性に合いません。マイくんの症状を実際に確かめてみたい、という薬師としての興味もありますし。300年振りに弟子のシャナルと再会したい気持ちもあります」


 カールはスッと立ち上がったので、俺もつられて立ち上がる。


「ありがとう、カール。よろしく頼む!」

「こちらこそ」

 ガシッとカールと握手した。

 得体の知れない相手ではあるが、一緒についてきてもらえると思っただけで、とても心強く感じる。



「よし! 早速首都カリストロに戻るぞ――って、お前らどうしたんだ?」

 振り返ってみると、三人とも足をかかえながら蹲って動こうとしない。

 足をかかえて?

 はは〜ん、そういうことか。


「何、一斗!? 何でそんなに嬉しそうに近寄ってくるの?」

「嬉しそう? いやいや、正座で足が痺れて動けない君たちの足をほぐしてあげようと思ってな」

「や、やめるのじゃ、一斗!」「て、手つきが嫌らしいわ!」

「問答無用!」

「「「キャー!!」」」

 動けない彼女らの両足を、一人ずつ丁寧にほぐしてあげた。

 うん、俺ってなんて優しいんだ。






 ◆カールサイド


 今、私の家では一斗くんの悲鳴が続いている。


「や、やめろー! 俺は、こしょぐりが、アハハハッ、弱いって、知ってるだろー!」

「だからよ、一斗」

「先ほどの仕打ちに対する罰じゃ」

「覚悟しなさ〜い。こちょこちょこちょー♪」

「ギャー!!」


 一斗くんは目で私に助けを求めてきますが、むろん助力はしません。

 彼女たちに敵対するのは得策ではありませんから。

 それに、なんだかんだでやっている方もやられている方も楽しそうですしね。


 とにかく私は旅支度を先にすませる必要があります。遠出するのは、それこそ一斗くんたちと会って以来でしょうか。

 なるべく人との関わりを避けてきた私が、自らすすんで人と関わろうとする。

 考えてみれば不思議なことだ。

 これも一斗くんの魅力によるものでしょうか。


 どうやら彼の周りには、以前敵対していた相手がいたり、交流が途絶えていた他国同士が共に行動していたりするようだ。


 私たちが難しい、無理だと思っていたことを平気でやってのける。

 しかも、それは彼一人の力ではなく、その場にいた仲間たちと共に。


 彼が〈リクター〉かどうかという話はもう正直どうでもいい。

 ただ、彼がこれから何を仲間たちと成していくのかを近くで見届けみたい――そう強く思った。


 鬼人族との戦いもそうだが、〈マーヤー〉という組織も気になる。

 もし調査しているあれが実在しているとなると、種族間や人間同士の争いなんてやっている場合ではないのだから。

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