07 凱旋と訓練
負傷者の救助も終わり、連合国軍は首都カルストロに凱旋した。
オディールの一件があった以降、国民は不安でしかなかったが、鬼人族の侵略を防いだ知らせは彼らを安心させるには十分な内容だった。
だが、しかし――
マヒロは帰還してから、すぐにリハクに面会を求め、今回の遠征の報告をしている。
「数を揃えただけでは役に立たない――ということか……」
「はい、リハク様。仮に倍の兵士がただ増えただけでは、こちらの被害が増えるだけです。現に、帝国軍でまともにやりあえたのはチヒロのみ。あとは王国軍のレオナルド殿と……一部の人間のみであります」
一部という言葉に含みがあることがリハクにはわかっており、苦笑いする。
「彼らの実力は認識しているつもりだが、そんなに我が兵と差があるのですか?」
「――恥ずかしながら……その通りでございます」
「そこまでか……。そういえば、君の妹チヒロと我が帝国の精鋭部隊は、そこまで実力差はなかったはずではないのか?」
帝国では定期的に各部隊の交流戦を実施しており、当然リハクも何度か視察している。
毎度上位に食い込むのはマヒロ・チヒロ以外にもいて、その中には二人以外の人物が優勝したことも何度かある。
それでも、彼らでさえ鬼人族の一兵士に苦戦した事実がある。
「一年前ではそうでした。が、チヒロはある日を境にどんどん強くなり、私でも――歯が立ちません」
常にリハクの役に立ちたいと思っているマヒロにとって、自分の弱みを晒すことは苦痛でしかなく、悔しさのあまり俯く。
「マヒロ」
「はい――」
そんなマヒロに対して、リハクが優しく話しかけられると、マヒロはゆっくり顔を上げた。
「そなたの忠義にはいつも感謝している。事実を受け止め、次に活かそう。チヒロをここに」
「――はい」
マヒロは気を引き締め直して、リハクの指示通りチヒロをリハクの自室に連れてきた。
「チヒロ、入ります」
チヒロはマヒロに誘導され、リハクと面会することとなったのである。
*
「単刀直入に訊こう。君は今後我が国はどうすればいいと考える?」
「はっ! 我が国は対鬼人族対策を一刻も早く講じる必要があると愚考します」
チヒロは今回の戦いを振り返って、その理由をテキパキと説明する。
「なるほど……な。今回まともに鬼人族とやりあえたのは、王国軍の――しかも、一斗殿に縁があるものだった。彼らは、強い個と対峙するための用意があったからこそ、立ち向かえた、と?」
「はい、それは間違いございません。現に、全く実戦経験のない新兵たちが、6人がかりとはいえ鬼人族1人とまともにやりあっております。それに対して――」
チヒロはその先のことを口にしていいか、一瞬躊躇った。
事実を伝えれば、国の尊厳に関わると思ったから。
「よい、正直に申してみよ」
「はっ! それに対して、我が帝国兵は複数であたればよかったのものの、プライドや名誉に拘って1人で挑んだため、尽く敗北しております」
兵たちの間では、今回の遠征で大きな手柄を立てれば、報酬として爵位およびオディールの統治権を得ることができるという噂が出回っていた。
戦いの後、その事実を知ったマヒロが調査したところ、その噂の出元を突き止めることができた。
出所は帝国の軍団長の一人で、負傷し病院に搬送されていた者であることが判明。
早速マヒロ自ら病院に出向き、事実を確認しようとしたのだが――負傷した傷が急に悪化して、搬送後すぐに死亡が確認されたとのことであった。
そのため、結局事実確認ができないままである。
「結局、軍人でもない者たちの方が、よほど今回の遠征の目的が理解できていたと推測いたします」
「目的……」
『目的をはき違えるな! 今回の作戦、俺らは勝つことが目的ではないだろ?』
チヒロの発言で、出陣直前に一斗に言われたことがマヒロの脳裏をよぎる。
何も情報を取得できていなかったマヒロに対して、一斗はユーイをはじめとした偵察部隊によって数々の情報を手に入れいて、それを踏まえての発言だということで渋々一斗の作戦を承諾した。
とはいえ、マヒロをはじめとしてレオナルド・チヒロを除いた軍団長たちは正直納得していなかった。
オディールとの境界線を突破されれば、自国の安全が脅かされることになる。
今後の憂いを断ち切るために、鬼人族を撃破することが必要不可欠だと考えていた。
それなのに、敵の撃退は考慮されておらず、時間稼ぎすることを優先する――その意味を皆疑ったのである。
「ふぅ、どの話も耳が痛い話ですね。それで――彼が独立行動する日はいつでしたでしょうか?」
今回は式典に参加する名目で一斗はメンバーに強制的に加えられた。ただし、条件として式典が終わり次第、一斗の都合で離れてもいいというものであったが――、
「リハク様の提案により――後20日後だったかと」
リハクは鬼人族との戦い後、負傷者の治療を引き受けた一斗に、疲れを癒やしてから出立してはどうかと提案したのだ。
もともと負傷者の治療は、一斗がすすんで引き受けたこともあり、その申し出を受けることにしたのである。
「そうですか――マヒロ、チヒロ」
「「はっ!」」
「彼を含め、鬼人族と戦ったメンバーから、指導を受ける機会を直ちに設定してください。引き受けてもらえれば、金銭面・物資面を可能な限り最大限支援する、と」
鬼人族対策=国の存続という認識ができたため、やるべきことはシンプルだと認識がリハクにはできた。
『わからないことは知っている者にきく』
当たり前に聞こえるかもしれないが、立場に関係なく実行できる者はどれくらいいるだろうか?
上の立場の人間なら、つい自分より下の立場の人間の話は軽視しがち。自分の方が相手より優れていると勘違いすれば、尚のことだ。
リハクは昔から人と接するスタンスがまったく変わっておらず、常に相手と同じ目線で接することを心掛けている。
そのため、身分関わらず人気は高いが、一部の特権階級を持つ者たちからは妬まれているのもまた事実である。
「では、私から一斗にその旨伝えます――失礼いたします」
「ちょっ――」
マヒロが制止しようとする前に、チヒロは一斗の下に行ってしまった。
「あっははは!」
「リ、リハク様!?」
その様子を見送ったリハクは、プライベートでも見せないような屈託のない笑い声を上げたので、マヒロは驚き、ついあたふたしてしまった。
「チヒロがあんなにも自分の意思を示すことなんかあったかい? いや〜、君ら姉妹の親代わりと思っている私としては本当に嬉しい変化だよ」
「親……代わり」
そう思ってもらえることが嬉しいような、悲しいような複雑な表情を示すマヒロであった。
「マヒロ」
「は、はい!」
「君は軍団長たちを集め、すぐに訓練の準備を始めるよう指示を。さて、面白くなってきましたよ」
こうして一斗の知らないところで話がまとまり、再び巻き込まれいくのであった。
***
日にちは経ち、帰還後から15日目の深夜――チヒロからリハクからの依頼を一斗が受けてから12日が経過し、日付が変わろうとしていた。
「な、なんで、こう、なった……」
バタンッと俺は疲労のあまり宿舎のベッドに倒れこむ。
この世界に来てから、体力はかなり向上した自信がある。氣を使えば、さらに身体能力を高めることだってできる。
けれど――
「さすがに――限度ってもんが、あるだろうが」
「あははは。一斗、人気者だからね」
ティスはベットに腰掛け、嬉しそうに話しかけてきた。
「うっせ〜」
もうただの屍になりかけている俺は、文句を言う気力すら残っていない。
ただ、こんな体調だからこそ、フカフカのベットの柔らかさが異様に至福に感じる。
「それよりもどう? 一斗からみて、骨のある人はいそう?」
「う〜ん、そうだなぁ――」
俺はチヒロからリハクからの依頼を伝え聞いた後からのことを回想する。
………………
…………
……
チヒロからリハクの依頼を受けたとき、正直面倒としか思わなかった。
けれど、賢者カールを一刻も早く探し出し、マイを治す手掛かりを得たい。そのためには、カールに関する情報をできる限り入手することと、旅するための資金や物資なども用意する必要がある。
だから、上手く話が出来すぎてはいると思ったが、要求を飲むことにした。
もちろん条件付きではあるが――、
「え〜、初めに言っておくことがある。俺はあんたたちほど実戦経験はない。だが、鬼人族との戦いでは、まったく役立たない。だから――俺から教えられるのは生き延びる術。以上だ」
大勢の前でなぜか堂々と話せた自分を誉めてやりたい。
全兵士に向けて、俺は短い言葉で締めた。
ああだこうだ話すのは億劫だしな。
「そんなことで鬼人族に勝てるのか?」
「そもそも何であんな奴から教わらなきゃいけんだ?」
「どうせなら、あの隣に姉ちゃんから教わりたいぜ。手取り足取りな」
「おぉ、そりゃあいいや!」
ガヤガヤと不満を言う声が聞こえてくる。
わかってはいたが、こりゃあ荒療法が必要だな。
俺の右にはティス、左にはチヒロがいる。
俺はチヒロをチラッと見ると、彼女もこっちを見てくれたので、目配せした。
「とはいえ、軍人でもなく、上の立場でもない人に教わるのはあなたたちも嫌でしょう? だから、条件付きです。もしこちらの一斗に勝てたら、今回の訓練は免除とします。ルールは簡単。町の外で、一斗対その他全員で戦ってもらい、一斗を戦闘不能にすれば勝ちとします」
チヒロの宣言に、兵士たちが一斉に騒めく。
それも当然だ。
つまり、俺は一人で不服のある兵士たち全員を相手にしなければならないのだから。
本来なら無理ゲーでしかないが――果たしてどれくらい人が集まるのやら。
*
「で、集まったのはこれだけか?」
「これだけって――千人近くは残ってるわよ? 本当にいいの?」
珍しくチヒロと話していないのに、マヒロが話しかけてきた。
「心配してくれるのか、マヒロ?」
「なっ!? そ、そんなわけないでしょ! 誰があんたなんか――せいぜい間違っても死なないようにすることね!」
ツンツンに怒って、マヒロは俺の傍から離れていく。
――それから1時間後。
「本当にいいの、一斗?」
今度は妹のチヒロが近くに来た。
彼女の様子から本気で心配してくれているのが伝わっていくる。
「大丈夫だ、問題ない。それに――言うこと聞かない奴がその場にいても、ただ邪魔なだけだからな。せいぜい思い知ってもらうまでさ」
俺は100メートル近く離れたところにいる集団と向き合った。
今回の勝負では、兵士たちはどんな武器でも魔法でも使用しても良いことになっているからか、どいつも完全装備で挑んでいるのがわかる――中には殺気を隠すことなく撒き散らしている集団もいる。
やれやれ。
「それでは――勝負開始」
チヒロの号令とともに、指導を受けるかどうかの戦いが始まる。
まず開始の合図とともに、数を減らすために<氣神功>を一気に敵全体に向けて解き放つ。
瞬く間に9割以上の敵が、俺の氣をまともに受けてしまい気絶していく。
残ったのは、軍団長クラスや魔法使いだけ。
突然の出来事に動揺している敵に対して、さらに魔法使いを背後から襲撃。
敵の後方支援を断ち、次に敵防衛陣の要を<掌底破>で気絶させる。
最後まで残った騎士は正面から素手で撃退。
「「「……」」」
一方的な戦いになるとは思ったが、まさか想定とは逆の結果と思わなかったのか、辺りはしーんと静まりかえっている。
「この勝負、一斗の勝ちです」
「「「うぉー!!」」」
チヒロが堂々と宣言すると、静けさは一転して白熱ムードへとなる。
溢れんばかりの喝采が飛び交い、帰還後の一様に沈んでいた兵士たちの表情が晴れていく。
「ふ〜」
開始30秒で片付けた。
たいして時間がかからなかったし、いつもの朝練ほど疲れていなかったけれど、精神的に異様に疲れた。
必要でやったこととはいえ、注目を浴びて面倒を被ることは避けたいと、今さらながら思ってしまう自分がいる。
これからどうするかは全く決めてないが、とりあえず気絶してるやつらを起こすことからかな。
*
勝負が終わり、興奮冷め止まぬうちに早速訓練を開始した。
まずは、適性を見極めるために、自主志願制で大きく分けて三つ(攻撃・支援・守備)のグループに分けることにした。
その後、簡単ではあるが精霊との相性を計測。どの属性の魔法が使えるのかを、各自で自覚してもらった。
自分は何が得意で、何が不得意か。
その上で、どんな場面でなら自分を活かすことができるのか意識付けを徹底して起こった。
結局武力としての強さは一つの指標でしかなく、相性の悪い相手では立場が逆転することなんて少なくない。
例えば、地上ではライオンのような強い生き物の天下であるが、海中では強さを発揮するどころか生き残ることすら不可能であろう。
また、下手にチームプレーに拘るとお互いの強さを出せないまま、足を引っ張りあうことも多々ある。
これはチームプレーが苦手なのではなく、自分を抑制しているからただ本領発揮ができないだけだと、俺は考えている。
分けたグループも、実際やってみたら上手くいかもしれないし、全然思うようにいかないかもしれない。
それもやってみてからのお楽しみだ。
そして、いざ実際訓練を始めてみて、意外に感じたことが3つあった。
1つはあれだけ反発の意思を示していた兵士たちの大半は、逆に物凄く熱意を持って訓練に励んでくれていること。
その意識の高さは半端なく、逆になあなあで訓練に参加しているメンバーよりも比べると明らかなくらい意欲的だ。
2つ目は、王国から一緒に来た新兵たちが他の兵士たちの模範になっていることだ。
もちろん実戦経験もなければ、単純な戦闘力も低い。だが、連携プレーになると、熟練兵士たちと対応に戦うのだ。
当然熟練兵士たちは簡単に勝てないことにイラついていたが、何度戦っても同じ結果になるうちに新兵たちにアドバイスを求めるようになったのである。
「どうやって相手をフォローしているのか?」
「何を考えているのか?」
「何か意識していることはあるのか?」
そんな風な態度をとると思わず戸惑った新兵たちであったが、相手の本気度が伝わり、彼らなりの言葉で伝えることを試しだした。
その代わりに、彼らからは技術的なスキルなどを指導を受けるようになり、思わぬ相乗効果を発揮し始めた。
それから3つ目は――
「一斗、私も氣を学びたいわ。どこかで時間を作ってちょうだい」
「一斗、旅に出る資金や物資はどのくらい必要なの? ――えっ!? よくわからないって!? じゃあ私が見繕ってあげるわ」
という感じで、いつも俺に対して険悪ムード満々のはずのマヒロが、素直に俺に教えを請いに来たり、すすんで話しかけてきたりしていることだ。
「姉妹だから、まさかとは思ったけれど……」
「そうよね」
「お姉ちゃんは――敵だ」
と、その度にムスッとしているティス・シーナ・チヒロの3人がいるが、なぜ機嫌が悪くなるのかよくわからない。
怒られなくて済むし、素直に話を聞いてくれるようになったし、俺としては有難い限りなのだが。
ともかく今回の訓練で、それぞれが鬼人族たちと戦う目的を見つけてもらえれば、それだけでやった価値があるってもんだ。
……
…………
………………
「――やっぱりマヒロはチヒロの姉妹だけあって筋が良いな。特に、精霊との相性が良いし、魔法を行使するマナ保有量もあるから魔法使いとして主戦力になるだろうな」
マヒロはチヒロと同様で精霊との相性が良いが、あまり武器などとの相性はあまり良くないらしい。その分、マナの保有量が多く、マナを魔法という形で行使する才能はあることがわかった。
魔法のことを俺はよくわからないから、シャナルやナターシャに任せてある。
他にもシェムルが二人から指導を受けているが、二人ともメキメキ力をつけていると報告を受けている。
「それに、帝国兵の中でもあの3人は見込みがある――というか、しつこいというか……」
今のこの疲れを生み出した張本人――エルク・カティア・セシルのことを思い出す。
この3人を一言で表すなら、無邪気だ。
エルクの背格好はティスティと同じくらいであまり背が高くなく、男の割には体格は細身。髪は青紫色の短髪。
カティアはエルクと同じくらいの身長で、クールビューティーという言葉がしっくりくるような神秘的な少女だ。髪はロングにしており、俺やマイと同じく黒髪。
セシルはカティアより若干身長が高く、年齢的には幼い割にはくびれる所とふくらむ所がはっきりした体つきをしている。黄金色の髪が白の軍服の肩に掛かり映えている。
年齢的にはロイドより少し下だが、普段の振る舞いや言動からはもっと年下に見える。
無邪気と表現するのには、理由がある。
この3人組は、自分たちは前大戦の勇者の生まれ変わりだと信じている――否。頑なに信じ込んでいるのだ。
アレッサンドロ・マイ・シャナルの三人パーティーから英雄伝ははじまっている。
何の因果かわからないが、俺は3人と面識があるため、「そんなわけないだろ」と言いたいところではある。
しかし、証明するには色々と面倒なことが多い。シャナルのことは無人島に同席したメンバーか、限られた人にしか伝えていない。
アレッサンドロは死んだことになっているのに、会ったことがあると言っても説得力はないだろう。それに――マイは現在意識不明だ。余計な詮索は入れられたくない。
まぁ、生まれ変わりだと信じるかどうか本人たちの勝手だから、口出しするのは野暮だよな。
とはいえ、生まれ変わりだからといって、図に乗って勝負を挑んできたから、ぐうの音も出ないくらいコテンパンにしてやったら――
「「「一斗師匠、俺(私)たちを弟子にしてください!!」」」
と即嘆願してきたので、もちろん――
「断る!!」
と言って一刀両断したのだが――それから事あるごとに現れ、弟子入りを迫ってくるようになったのである。それこそ、俺の宿舎だけではなく、散歩している最中にも……。
面倒なことは避けたから断固拒否をしたのだが、ティスやシェムルから「こっちにいるときだけでも指導してあげだら?」と提案され、渋々弟子入りを受け入れたのだ。
日中は合同訓練があるため、いつもの朝練と、合同訓練後の居残り訓練に付き合うようになった。
ただし、1日中付き合うからには条件を彼らに提示した。
その条件は、「朝練前に往復40キロの早朝ランニングを欠かさず参加すること」とした。
あいつらは自分たちが勇者の生まれ変わりだからと言って、訓練を怠っている節がある。
「そもそも基礎体力がなければ、たとえどんなに才能があっても活かすことはできない。活かすつもりがないなら弟子入りの件は却下だ」
そう伝えたのだが、俺は正直あいつらが俺の言う通りに実践するとは思っていなかった。
ところが――蓋を開けてみれば、無邪気に自分たちのことを勇者パーティーの生まれ変わりだと信じているくらい素直だからか、俺の言うことを何でも信じて実践した。
当然早朝ランニングもそうだが、最大限パフォーマンスを発揮するための食事法や、空き時間の使い方まで――それこそ俺の近くでいつも観察して、見様見真似で実践しようとする姿勢は見習いたいくらいだ。
「それによ、あの3人組の勢いに続くかのように、ロイドやククリまで加わるようになっただろ?」
「確かに。あの大人しそうなククリちゃんもだいぶ積極的になって――ロイドくんは気付いていないようだけど」
「そうだよな。ロイドのやつ、ククリがあんなにアプローチしているのに、気付いていないもんな――って何でそんな目で見てくるんだ、ティス?」
賛同したはずなのに、なぜか疑うような目線をティスティが向けてくる。
「……じと〜。まぁ、一斗はそれでいいんだけどね」
「どう言うこと――」
「それより! 賢者カールさんを探す手立ては見つかったの?」
聞き返そうとしたところをはぐらかされた。
「ユーイやチヒロにそれらしい情報がないか調査してもらってるが――今のところは有益な情報はないな」
シャナルの話では、賢者カールは神出鬼没の上に、相手の自分に関する記憶を曖昧にする術を持っている、とのこと。
確かに、ティスも記憶が不確かだったことから、その情報は間違いない。
間違いがないからこそ、彼に関する記録が残っていないため探しようがない、とも言える。
「まだ7日ある――もちろん情報がなくても思い当たるところを、片っ端から探すまでだ」
そうだ。
ここで止まっているわけにはいかない。
色々遠回りしちゃったが、早くマイを取り戻さないとな。
「うん――そうだね! 私も早くまたマイと話したい!」
俺の決意が伝わったのか、ティスも決意を新たにした。
「それより――お前はいつまで俺と一緒の部屋で寝るんだ?」
「えっ!?」
自然に俺の部屋で寝る支度をしているティスに問いかけた。
「だって……あの子たちが――」
「――それ以上言うな。あいつらの素直っぷりは、い・じょ・う・だ!」
「「……はぁ~」」
お互いそれ以上言葉を紡ぐことができず、深いため息が漏れた。
なぜそれ以上言うなって?
それは、あいつらが俺のすべてを真似するため、「寝食を共にする」と言い出したことが災難のきっかけだ。
別に同じ部屋で寝るくらいなら構わないと思ったのだが、ティスとシーナが猛反発。
理由は「規律をしっかり守るため」と最もな理由を二人が主張して、俺は納得していたのだが――
その日の夜――ちょうど昨夜のことである。
俺が熟睡している間に、いつの間にかカティアとセシルが俺の布団に潜り込んでおり、突然の出来事に絶叫。
すると、ティスとシーナが間髪入れず部屋に突入してきて――その後の女同士のやりとりは怖すぎて思い出したくもない。
結局、ティスとシーナが日替わりで俺の部屋に泊まり、警護(?)することになったようである。
ところが、そんな一件があった割には女同士に険悪ムードはなく、むしろ以前よりも仲が良くなったように感じる。
疑問に感じ、そのことをロイドとエルクに尋ねたところ、
「一斗さん……世の中には知らないでいた方が、幸せなこともあります」
と同じまったく返答が返ってきた。
さらに追及しようかとも思ったが、二人とも青ざめた顔をしていたのが不気味で、これ以上その件に関わることをやめた。
まぁ、ティスとはずっと一緒に旅してきたし、シーナは律儀な性格だ。
間違いが起こることもないだろう――男がこんなことを考えなくてはいけない事態は可笑しいとは思うが。
気にしないですぐに寝るに限るな。
そう信じ込むことにして一斗は布団に入り込み、即熟睡モードへと切り換えるのであった。




