01 式典と舞踏会
ちょうど2年ぶりに投稿再開です!
スランプだったいうよりも、他に優先したいことを優先していまして。
それが、つい最近になって、「また書きたい」と思ったのがきっかけで。
この章は毎週更新するつもりで書いていきますので、
改めてよろしくお願いします!
無事にリンドバーク帝国領内に着いた俺たちを迎えに現れたのは、意外にもマヒロだった。
意外――というのは、なぜかマヒロにとことん嫌われているからだ。
無人島でチヒロを背負って現れてからというものの、目の敵にされている。
「よう、マヒロ! 元気にしてたか?」
「……」
「そういえば、チヒロのやつはここには来ていないのか?」
「こんな危険なところに連れてくるわけないでしょ!」
話し掛けても無視。
チヒロの話題になると応えてはくれるが、殺意付きで一蹴され、終了。
いつも通りだ。
しょうがないから、レオナルドたちとの会話に耳を傾けることにする。
どうやら帝国領土内でひと悶着あり、外交担当でもあるチヒロはその対応に追われているようだ。
それでも、式典のある五日後には間に合うらしい。
両軍の幹部たちの挨拶も簡単に終え、リンドバーク帝国首都カルストロに移動することになった。
港町と首都は歩いても六時間くらいあれば着くらしく、今日は久しぶりにゆっくり休めそうで安心した。
それにしても、歩いて六時間だなんて、元の世界のときのことを思うと信じられない時間だが、今はたったの六時間っという感じだ。
「う〜ん、慣れって恐ろしいなぁ」
「何に慣れたの、一斗?」
ボソッと呟いたことを、ティスは何でも必ず拾ってくれる。
「ティスと出会うまでは、一日に歩く時間なんて一時間もなかった。ところが、今では平気で一日でも歩けちゃう自分に気が付いてな」
「そんなに歩いてなくて、移動はどうしてたんですか?」
すかさず、シーナは目を輝かせて問い掛けてくる。
こんなに興味津々に話し掛けてくれるやつはこれまでいなかったから、免疫はないが、悪い気はしない。
まぁ、シーナはティスのように何でも俺から吸収しようとする姿勢が強いから、無下にはできないというのもある。
「電車や自動車っていう、自動で動く機械文明が発達しててな。お金さえ払えば、たいていどこへでも歩くことなく行けたんだ」
「へぇ〜、一斗さんのいたところは文明が発達してたんですね」
「……まぁな」
元の世界のことを思い出すことは、ここ最近ほとんどなかった。
もともと良い思い出もなかったが、時間が経ってみると懐かしいという感情に変わっている。
そんな感じで物思いに耽っているうちに、目指していたカルストロ城下町に辿り着く。
特に襲撃もなく、拍子抜けではあったが。
城下町を囲っている城壁は、言っちゃ悪いがフィレッセル城の比じゃないくらい立派である。
それは、つまり『それだけ戦に対する備えがある』=『争いが絶えない』の裏返しなのかもしれない。
実際、中国にある万里の長城も、北からの侵略を防ぐために造られたものだと、歴史の授業で聞いたことがある。
――一瞬、一斗の脳裏に学校生活のイメージがよぎる。
(ん? なんで今歴史の授業で聞いたことがあるって思ったんだ? 何か思い出せそうな――)
「一斗!」
「わぁ!? なんだいきなり大声で。ビックリするだろ?」
「いきなりじゃないよ! さっきから何度も声掛けてたわ」
我に返ると、ティスが怒った表情でこっちを睨みつけている。
「そ、そうなのか? それは悪かったな」
チェッ、もう少しで何か思い出せそうだったのに。
「大丈夫なの、一斗?」
怒った表情から一転して、心配そうな表情を浮かべるティス。
「大丈夫だって! ほらほら」
身体を素早く動かしてみるが、問題はなさそうだ。
氣の滞りもなさそうだしな。
「身体じゃなくて……ほら、一斗が素直に謝るから、何かの予兆じゃないかって」
おい、普段から俺のことをどう思ってるんだ!?
というか、なんでみんなウンウン頷いているんだ!?
……ケインのやつは、後でしばいてやる。
ケインは俺の表情を読み取ったのか、青ざめた顔をした。
◆リンドバーク帝国 カルストロ城
リンドバーク帝国の王に謁見後、軍団長たちと一緒に帝国側のトップたちと話し合いをした。
当然向こう側の取りまとめは宰相であるリハク。
そして、側近であるマヒロ。
チヒロはまだ忙しいらしく、こちらと同様に軍団長が出席している。
今回は顔合わせがメインではあったが、結局ある一つの話題に議論が集中した。
話題の焦点は、「もちろんどうやって鬼に対抗するのか?」についてだ。
当然だけど、鬼と戦ったことがある人物は誰もいない。
まぁ、正確には勇者アレッサンドロと共に戦ったシャナルがいるわけだが。
いつ、どこから、どのように攻めてくるのか?
それは、どのくらいの規模なのか?
すべて憶測でしかないから、話がまとまるわけもなく……。
「ふぅ、どうやらこれ以上話しても有益な話はできそうにありませんね。明日は式典です。式典が終わった後、作戦会議を開くことにしましょう。レオナルド殿、それでよろしいかな?」
「ええ。もちろんでございます、リハク様」
さすが、レオナルド。
相手が実質この国のトップだろうと、まったく動揺していない。
むしろ、余裕を感じる。
美男子・博識で、腕も立つ。
気さくと言うわけではないが、いつの間にか懐に入っていて、人脈もある。
非の打ち所のない、とはこいつのことを言うんだと思う。
「そういえば、式典の後に舞踏会を開くことになりまして。よければ、王国の皆さまも参加されませんか?」
「こんな非常時に、舞踏会か?」
俺の不躾な問いに、リハクは困った表情を。マヒロはキッと睨みつけてきた。
「一斗殿の言わんとしていることはわかります。が、こんな非常時だからこその舞踏会なのです。恥ずかしながら、我が国では未だ内戦があり、貴族たちの力に頼らざるを得ないのが現状なのです」
「なるほどな。だから、舞踏会を開いてごまをすっておこうって話なわけだ。なら、俺はパスだ」
陰謀の匂いがプンプンする場に、誰が好き好んで行くもんか。
俺はスカスカとその場を退室した。
「断りもなく退室するなんて、無礼な!」
マヒロはリハクもいることを忘れ、怒鳴り声を上げて立ち上がる。
「やはや、一斗殿はあいかわらず気難しいですな」
「一斗殿はきっぱりしてますからね」
そんなマヒロとは対照的に、リハクとレオナルドは和やかモードである。
「とはいえ、困りました。一斗殿には明日の舞踏会に出席していただかなければ、私の立つ瀬がありません。レオナルド殿、何か良い方法はございませんか?」
「それでしたら、とっておきの方法がございます。とっておきの」
「ほほう」
護衛のため近くで待機していたユーイは、レオナルドの微笑みに何かを感じ、そっと溜め息をついた。
(どこにいても巻き込まれる体質全開じゃの、お主は)
ユーイはその場にいなかったことを後悔する一斗がイメージでき、苦笑いをするのであった。
◆リンドバーク帝国 リハク邸
これまで立派な豪邸を見てきた。
規模や造り、どれも一流のものを。
身分が高い者の豪邸ならばなおさらだ。
しかし、この国で最も権力を持っているリハクの豪邸は、豪邸というよりもただ敷地がバカ広いだけて、家自体は城下町内の住宅と大差ない。
たた、敷地の中央にある施設は、交流の場として造られているだけあって、大きくて豪華な造りになっている。
前にチヒロに聴いた話だと、普段はリハク邸内は一般向けに開放されており、厳守な警戒の中で商売ができるため、商人にとっても、購入者にとっても憩いの場になっているらしい。
そんな背景もあり、リハクは特に庶民からの人気が絶大だそうだ。
もちろん、今夜のような貴族たちが集まる舞踏会に庶民は参加できないが、それでも敷居の低さは感じてリハクに対して好感を抱いた――が。
「なんで俺が、舞踏会に参加しなくちゃいけないんだー!!」
俺の魂の叫びが、豪邸周辺に響き渡った。
そう、俺はなぜかそのリハク邸の門前まで来ている。
一人ではなく――
「ちょっと一斗、静かにして! ここは住宅街にも近いんだから」
怒ってはいるが、ウキウキしている感じ全開のティスティ。
縦にストーンを繊細に散りばめられていて、スタイリッシュで炎のような色で仕立てたドレスを着ている。
ドレスは女性らしいラインをより一層強調されていて、ストーンを繊細に散りばめられていて華やかさもあり、ティスティに良く似合う。
「仕方ないわよ。美女二人に囲まれて、恥ずかしがってるんだから」
いつも通り落ち着いてはいるものの、この場を明らかに楽しんでいるシェムル。
こちらはティスティとは違って、落ち着いたデザインで白を貴重としたドレスを着ている。
普段からどこか気品を感じさせるシェムルだが、正装を装うとより一層強く実感する。
「――って、そもそもなんで俺もこんな格好をしなきゃいけないんだ! 舞踏会にはお前たちだけ――」
ちなみに、俺は黒を基調としたタキシードのような衣装を着せられている。
「レオナルド、恥をかかせてもいいの?」
「うっ!?」
ティスティの問いに息を詰まらせる。
なぜそもそもこんな展開になっているのかというと、三時間前に遡る。
………………
…………
……
「……もう一度言ってもらえるか、レオナルド?」
「はい。ですから、一斗殿にも舞踏会に来ていただきたく――」
「だーかーら、言ったろ? 俺はそんな集まりに参加したくないんだって!」
誰が好き好んで馴れ合いの場に行くかよ。
「それが……どうしても一斗殿に来ていただかないと、私が参加できないのです」
「ん? なんでそんなことになるんだ?」
「実は、今夜の舞踏会には男女ペアで参加が必須とのことでして。そして、そのどちらかは舞踏会の心得が求められるようなのです。当然私には心得なんてものは知りませんので、シェムル殿を誘ったところ――」
「ティスも参加するならいいわよ」
シェムルはさも当然かのように、レオナルドに続く。
「ということになり、ティスティ殿を誘うとなると相方である男性が必要になります」
「なら、ケインのやつはどうだ? あいつならきっと喜んで参加すると思うぞ?」
名案だ。
あいつはティスティが参加するなら、狂喜乱舞するにちがいない。
「ところが、ケイン殿は新人たちの教官なので、現在最終訓練の指導を任されておりまして」
「なに!?」
じゃあ、他にはいるのか?
一緒にこっちに来たメンバーを思い浮かべてみる。
(俺に、ティスティ・シーナ・ユーイ・ケイン・ナターシャ・シェムル……俺以外の男子はケインだけか!?)
今更だが、俺が誘ったメンバーは女性ばかりだった。
狙ったつもりはないが、ハルクの親方は復興には欠かせない存在だし、城の防衛となると守りに長けているヴィクスの存在は必須だ。
それに、マイのこともある。
「一斗、私と一緒は嫌だの?」
俺の斜め下の方から、涙目で見上げるように懇願するティスティ。
ケインだったらイチコロなくらいの破壊力があるポーズだ。
「うっ!? そ、そんなことは……ないぞ。ただな――」
くそ~、反則的な可愛さで動じる俺ではないが……。
ティスにはいつも世話になってるし、シェムルにはユジン・ゼツ・リンカの面倒を看ててくれたり、ティスの旅をサポートしてくれたりしたみたいでしな。
それに、レオナルドには今回の遠征で色々無理を通してもらってる手前、恥をかかせるわけには……。
「はぁ、わーったよ! 行けばいいんだろ、行けば!」
「やったー!」
俺の落ち込み具合と反比例して、ティスはもの凄く嬉しそうにはしゃいでいる。
「ありがとうございます、一斗殿」
律儀にお辞儀をして、謝辞を伝えてきた。
「お前には借りがあるし、俺たちの大将を恥かかせるわけにはいかないだろ? ちなみに、舞踏会用の服装は用意してくれるんだろうな?」
「はい。リハク様の話では、私以外のみなさん用の服装を現在こちらに届けてくださっているようです」
「りょーかい。じゃあ、服装が届いたら教えてくれ」
俺はそれだけ言うと、その場を退室することにした。
レオナルド・ティスティ・シェムルの三名は気だるそうに退室していった一斗を見送った後、顔を合わせてほくそ笑むのであった。
……
…………
………………
道中なんだかんだ言い訳をしてもすべて二人に却下され、結局舞踏会会場までたどり着いてしまった。
建物に入る前に、門番からすでに舞踏会は始まっていると言われた。
それなら、このままUターンして逃げてしまえば――と思った瞬間、
「「どこに行くの(行くのですか)?」」
と、二人に両腕を瞬時にホールドされてしまい、有無を言わさずそのまま会場へと連行される。
会場内に入ってみると、音楽が流れてはいるが、まだ踊っているやつは誰もいなかった。
それぞれが社交辞令を言い合いながら、交流を深めているところのようだ。
俺にとっては、こういう時間が一番嫌な時間だ。
「これから私たちはどうする?」
「メインはまだ始まっていないようだから、のんびりしてればいいんじゃいか?」
「えー」
俺の返答が気に入らなかったようで、ムスッとする。
「せっかくお招きしたのに、それで終わってしまっては困りますよ、一斗殿」
「あんたは――」
振り返ってみると、二人の人物が目に留まった。
「「リハク宰相」」
ティスティとシェムルは、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたままリハクに挨拶をする。
「リハクに、レオナルドか。もともとここに来るつもりはなかったからな」
「はははっ。相変わらず手厳しいな、一斗殿は。それよりそちらのお美しい方々は、ティスティ殿とシェムル殿ですね。」
「「はい!」」
俺の邪険な態度をさらっと受け流し、二人に声を掛けるリハク。
こいつは本当に隙がない。
レオナルドも隙はないと思うが、リハクの場合はどんな状況だろうと柔軟に対応できてしまう気がする。
「まぁ、レオナルドにシェムルを託す依頼をこなしたから、俺れらは俺れらで好きにやらせてもらうさ」
「こら、一斗! ごめんなさい!」
俺とティスティはその場を離れることにした。
周りからの異様な視線も気になるしな。
毎回デジャブのように、一斗を見送る三人だけが残った。
「やれやれ、一斗殿はあいかわらずですね。でも、ここまで連れてきてくださりありがとうございます、シェムル殿」
「構わないわよ、レオナルド。ティスが喜ぶことは私はしたまでよ」
シェムルはレオナルドの隣へと移動し、一歩下がる。
そして、二人はリハクに会釈して、その場を離れていく。
「まぁ、一斗殿がここへ来てくれただけで私の役目は果たしたかな」
リハクはとりあえず今この状況に安堵するのであった。
しばらくの時間をティスティと二人で過ごしていると、演奏が切り換わり、舞踏会が本格的にスタートした。
俺は踊る気なんて全くなかったが、ティスティに懇願されて、仕方なく一緒に踊るハメに。
最初はティスティに合わせる感じでやっていたが、うまくできなくってムシャクシャしていた。
そんなとき、ふとある言葉が脳裏を過る。
『合わせるじゃなくて、表現することを意識せよ』
誰かは未だにわからないが、以前ティスティを賭けてレオナルドと決闘したときに聞こえた声と同じだった。
流れている音楽のリズムを、全身を使って表現する。
(思っていたより、普段しないステップを踏めるのは楽しいかも)
意識しだしてからは、勝手にティスティとリズムが合っていたようだ。
踊り終えてから、そのことが分かった。
「一斗、本当に踊りは初めてなの?」
「あぁ、初めて……のはずだ」
記憶が喪失している時代に習っていなければ、という補足は付くが。
自分がダンサーだった、というイメージは全く合わないしな。
「あの〜」
その後は、ティスティは他の貴族と踊り始めたが、俺はパートナーがいなくて途方に暮れていると、見知らぬ女性から声が掛かった。
「もし……ペアがいないようでしたら……踊っていただけませんか?」
声を掛けてくれたのは、黒髪で腰辺りまでストレートに伸ばしている女性だった。
オロオロしている感じはナターシャにそっくりだが、背丈はティスティより少し低いくらいで、箱入り娘っていう第一印象を受けた。
「俺で良ければ」
まぁ、せっかくの誘いを無下するわけにもいけないしな。
踊り始めてしばらくしてからわかったことがある。それは、相手がいるはずなのに、相手の存在を感じないことだ。
確かに目の前にはいるし、触れ合ってもいるから存在がないわけではないはずなのに、だ。
存在を感じないというよりも、俺自身と一体化している、という方が適切かもしれない。
踊り終えた後、テラスで涼まないかと誘いを受けた。
俺は踊り最中に感じた違和感を解消するべく、誘いを受けることにした。
「う〜ん、やっぱり外は気持ち良いですね」
「そうだな」
会場は熱気で満たされていたから、さすがに汗をかいた。
「とはいえ、お前はダンサーなのか?」
「ずいぶん……不躾な質問ですね。私は、ただの貴族の娘ですわ」
「いや、違うな」
「!?」
即座に否定すると、目の前の女は息を飲んだ。
「あの動き……素人の俺でも、お前が達人の域にいることくらいわかるさ。才能の一言で片付けてもいいが」
「……さすがですね、一斗様」
「!?」
(一斗様だと!? 俺はまだ自己紹介はしていないぞ)
俺は即座にその場から後退する。
「そんなに警戒なさらなくても結構です。私があなたに襲いかかることはありません。それに、あなたと私は初対面ではないのですよ」
「初対面ではない……だと?」
「はい」
女はにっこりと笑って答えた。
口調が変わってから、突如目の前の女を纏う雰囲気がガラっと変わった気がする。
別に相手から殺意があるわけではないが、「絶対に油断してはいけない」という警報が頭の中で鳴り響いている。
この感覚どこかで――
「……なるほどな。このタイミングで大将の自ら登場かよ。マーヤーを統べる存在、ラキューナ」
俺の発言に女は嬉しそうにクスッと笑う。
そして、纏っていたマナを解放すると、髪の色が黒から白銀へと変化し、目つきも気弱そうな感じから柔和な感じへと変わった。
「ごきげんよう、一斗様」
久しぶりに書こうと思った時に、これまで書いていた視点を変えて一人称でも書くことにしました。
書く気持ちを切り替えたかったのもありますが、
これからの章は一人称の方がいいと感じましたので。




