表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/116

11 捻じ曲げられた事実

 ◆聖なる花園 離宮前


 ●ラインvsユーイ

 いきなりユーイに先制攻撃を仕掛けたラインは、息をつく間もなくユーイを槍で攻め立てる。一方、ラインの槍の突きを双剣で紙一重でさばきながら、ユーイは余裕の表情を浮かべている。


「なるほどねぇ。シェムルに勝てるわけだわ」

 十数回刃を交えたあと、ユーイは関心したような、それでいてどうでも良さそうな曖昧な感じでラインの耳元で囁いた。


「うるせー!!」

「おっと」

 ラインはユーイに向かって槍を乱暴に振り払ったが、ユーイを華麗にヒラリとかわし、二人は間合いをとった。

 現在、ラインとユーイの両名は離宮から離れて、攻防を繰り広げている。20メートル近くある木々が数多く生育しているが、林床には背丈のある草花は生えていない。

 二人はそういった木の枝やら地面やらを絶え間なく転々と移動していく。


「妾は野蛮なだけな男は嫌いだが、強い男は好きだぞ」

「ケッ! おれはあんたみたいな女は大っ嫌いだよ」

 蠱惑的な笑みを浮かべ話しかけてきたユーイに対して、ラインは怪訝そうな顔で槍を一度地面に突き立て、堂々と言い放った。


「それは残念だな」

(ちっ、やる気が削がれるぜ)

 見た目は本当に残念そうに答えるユーイの態度は、ラインを惑わせる。


 少なくとも相手はフィダーイーの隊長を任されるほどの実力者。前回はなすすべもなく退却を余儀なくされた出来事は、ラインの記憶に新しい。

 あのときはナイフ一本だけ。

 今回は二本の短剣。

 以前よりは本気にさせたにちがいないが、掴み所がなくてとてもやりにくい。


「ライン、そなたに一つ提案があるのだが――」

「断る!」

 にべもなく断るラインの対応に、一瞬キョトンっとしたユーイ。しかし、すぐに表情を取り戻していく。


「そんなこと言うな。そなたにとっても魅力的な提案だぞ?」

「聞く耳もたん! お前に無惨に殺された仲間たちのためにも」

 アクト・シャフトを構え直し、再度ユーイに対して突進する。


 そうだ。

 こいつはおれたち決起隊にとって宿敵、許すことのできない敵だ。

 キールを惑わし、一方的な平和を押し付けてくるような輩をおれは信じるわけにはいかないんだ。


 度重なるラインの猛攻でも、やはりユーイによってすべて完全にさばかれる。

「そんな態度で、そなたは本当にいいのか?」

「どういうことだ?」

「相手の真意を見抜かず、聞く耳を持たず切り捨てるというその態度こそ、平和の乱れに繋がるとは思わぬか?」

 刃を交えながら、ユーイはラインに語りかける。しかし、ラインはそれを無視して攻撃を続けるが、ユーイにはどうしても今一歩及ばない。


(バカな。今のおれの方が力もスピードもこいつより上回っているはず……なのに)

 殺意のある攻撃を繰り広げているはずだが、まったく当たりもしない。それどころか、無意識下で先ほどのユーイの言葉が気になっており、ラインはだんだんと集中できなくなっていく。



(そう、そなたは戦闘を開始してから(・・・・・・・・・)、すでに妾の手の内だ。どれだけ足掻こうが、この双剣がある限りはな)


 ユーイの愛剣である双剣・大喬(だいきょう)小喬(しょうきょう)は、双剣で舞いながら戦うことで、剣を交えた相手を支配下に置くことができる女専用誘惑の魔剣。また、所持しているだけでも持ち主をより魅力的に見せる作用もあり、異性を虜にすることができる。


 一撃でも受けたら致命傷になる攻撃を難なくその双剣でさばきながら、ユーイは艶めいた笑みを浮かべ続けた。





 ●マイvsナターシャ

 次々に場所を転々としながらラインとユーイは離宮の周りにある林の中へと姿は消えていき、完全に出遅れたマイとナターシャがその場に取り残された。


「さてと、マイたちはのんびりしていようか、ナターシャちゃん?」

 マイは戦闘の意思がないことを示すために、両手を上に掲げた。


「……あなた、何か企んでる」

「なんでそう思うの?」

「杖を手放そうとしないから」

「あ〜、なるほどね」

 マイは自分の右手に持っている杖を見ながら苦笑した。


「これはマイの一部のような大事な存在だから、ついね。あなたのその弓矢もそうではないかしら、精人(エルフ)族の末裔さん?」

「!?」

「あら、やっぱり図星だったのね」

 相手の気配はまったく変化しないかと思いきや、マイの言葉で表情はよく見えないが動揺しているようだ。


「ラインにもまったく感じさせないで、正確にラインの心臓を射抜こうとしていた弓の技量。そして、その弓は多連装式でしょ? それにあの女が持っていた双剣……古代道具(エレディウム)にも匹敵するような素材でできている武器よね。

 そんな稀少な武器を発掘したわけじゃないとしたら……答えは一つよ。それらの武器は、あなたが創ったのでしょ?」

「……」

 持論を展開したところ、ナターシャは肯定も否定もしなかった。


「なぜ、わかった?」

 数秒沈黙が続いたあと、振り絞るような声で今度はナターシャがマイに尋ねた。


「それは一緒に戦ったことがあるか――キャ! いきなり何するのよ!」

 答えている最中に突然弓を放たれ、辛うじてマイは回避し抗議した。


「しらばっくれても無駄。一族に仇なすもの、すべて排除する」

 抗議を受け入れる間もなく、ナターシャは弓を連射で放ち続け、マイを殺す気で襲いかかる。


「ちょ、ちょっと。最後まで話をききなさいよ!」

 木の影に隠れたり、地面に転がったりしながら、マイはなんとか弓を避け続ける。


「聴く余地はない。あなたも、バスカル様が言っていた一族を根絶やしにしようとする悪魔の一味。野放しにはできない」

(またバスカル……事実を捻じ曲げたまま信じこませるとは、なんて外道な!)

 この場にいないバスカルにマイは毒を吐きながら弓をひらすら避け続ける。


 休む間もなく弓を放ち続ける相手に、マイは必死にこの場を打開する策を考えてみる。

(近づこうにも弓の雨で相手に近づけない。すぐにハチの巣にされるわ。かと言って、遠距離攻撃がほとんど使えない今では、有効となる手立てはなさそうね。さて、どうする?)



(なんで当たらないの!)

 いつになくナターシャは苛ついていた。絶望や怒りを感じることはこれまで幾度となくあったが、彼女がここまで感情が剥き出しになるくらい苛ついたのは生まれて初めてかもしれない。


 その苛立ちの原因は、紛れもなく目の前の女性なのは間違いない。

 なにせ一族に仇なす存在。今ここで仕留める必要がある。それなのに、自慢の弓がまったく当たらないのだ。しかも、まぐれでも偶然でもなく見切っている。

 それに、一目で武器の特性を見抜かれたことも。武器職人でもない相手に精人エルフ族が誇る技術の結晶が簡単に見破られたこと――そのことが、無性に腹立だしい。


(一旦、落ち着こう)

 ナターシャは弓を放つのを止めた。


 フ~ッと息を吐き、落ち着いてみるとわかったことがある。

 それは、相手は警戒はしているものの逃げようとしないこと。さらに、弓を放つを止めたら「ふ〜、やって雨が止んだわ」と言いながら、のこのこと姿を現した。

 普通、殺す気で危害を加えようとしている相手の前に堂々と姿を見せるなんて、どうかしてる。だが、だからこそ興味が湧いた。


「あなたの名前は?」

「マイだよ。あなたの名前はナターシャでいいのよね?」


 ナターシャは、マイの問いに素直に頷く自分にビックリした。

(もしかしたら……マイは一族について本当に何か知っているのかもしれない)

 そう思ったときには、再び弓を引いて構えをとっていた。なのに、マイは避けようとする気配がない。


「(それに何かが変わったような……)なぜ、避けようとしない」

「それは、ナターシャがまだ何かマイに聴きたいことがあると思ったからよ。ちがう?」

 微笑みながら即答するマイに、ナターシャはたじろいだ。


「さっきの続き。あなたはなぜ私の一族のことを知っているの?」

 なんとか気持ちを持ち直し、ナターシャはフードを上げながら再度質問した。

 銀色の髪に、長い耳。

 それだけで人間からは白い目で見られ迫害を受けていたことがあるナターシャは、目の前の相手も同じような態度を示すと思った。


「やっぱり精人(エルフ)族だったのね。生きていてくれて良かった〜」

「そ、それは私を生け捕りにしたいがためか!?」

 軽蔑どころか、ホッと安堵しているマイの存在が信じられず、つい動揺のあまり大声で怒鳴ってしまった。


「バカねぇ。戦友の……それにお世話になった種族の末裔を生け捕りにしてどうするのよ」

 呆れた顔で肩をすくめるマイに対して、ナターシャはますます混乱してきた。


(戦友……ここ300年は大きな戦争はないはず。別の大陸の話? それとも……)

 最後に頭の中に浮かんできた可能性を振り払い、再び照準を彼女に合わす。


「こんな血に満ちたことはもうやめなさいな。バスカルがあなたに何を言ったのかはわからないけど、あなたの一族はこの大陸(・・・・)にはいないわよ」

「う、うそだ! バスカル様は、王国のどこか安全な場所で匿ってくださっていると――」

「じゃあ、あなたはその場所に行ったことはある? 一族のみんなと再会したことは?」

「それは……」



 ======================


 今から300年以上前、ある森で迷子になっていたところをクレアシオン王国の兵士に保護され、私は王都に匿われることなる。


 他に保護している一族の安全を確保してもらうことを条件にして、私は城に留まることなり、指示されるままに黙々と製造し続けた。

 何に使うかは不明だったが、「平和のために必要だ」という一言を信じて。


 しかし、だんだんその頻度が少なり、ただ生きながらえていることに絶望を感じた頃――ちょうど今から十年前に、バスカル様の計らいで私は絶望から解放されたのだ。


 =======================



(あれ? 何か大事なことを忘れているような気が)

 これまでのことを振り返ろうとしても、頭の中がモヤモヤしていて思い出せない。何か大事なものを、大事な人を忘れているような喪失感。あるのにない(・・・・・・)という矛盾が、私の決意をぐらつかせている感覚に陥る。

「とにかく、あなたは私の敵! この一撃で今度こそ」


 強く睨みつけながら、ナターシャは愛弓・天之麻迦古弓(あめのまかこゆみ)を多連装から単装に切り換え、弓先にマナを集中させる。


(これでもまだ構えのない……なら、この一矢であなたの真意を見抜きます)

 そして、勢いよく弓を解き放つと、マナの塊はナターシャの背丈まで大きく膨れ上がり、マイの周囲にあった木々もろとも消し飛ばしていった。





年末連続投稿7日目(≧∇≦)b

それぞれの戦いで動きがあり、ついに次話で三つ目の封印が!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ