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08 この人のようになりたい

 ◆聖なる花園 


 イカエルと別れた後俺たちはもう一度話し合い、ひとまず先ほどまでいた部屋に戻ることにした。

 鍵はマイがイカエルから受け取っていたから、ひとまずの逃げ先を確保できた。

 となると、次に考えることはアルクエードの秘密を探ることか、マーティカの村人を救出することだ。


「そ、そういえば……」

 影を潜めながらこれからのことを話していたら、一度も発言していなかったゼツがオロオロとしながら手をあげた。


「どうした、ゼツ?」

「その〜、一斗さんがお話していた村人ですが、もしかしたら今朝集団で連れてこられていた方々なのかもしれない、かなっと」

「本当か、ゼツ!?」


 詳しく話を聴くと、どうやら連れてこられた人たちというのは十人ほどだったようだ。

 ミレイから聴いていた人数よりもだいぶ少ないが、ボロボロの服装だったいうことからすると十中八九マーティカの村人だろう。


「……よし。じゃあ、その場所まで案内してくれるか、ゼツ?」

 突然まさか自分に案内を振られるとは夢にも思わなかったゼツは、一斗の言葉で完全に硬直状態だ。


「本気なの、一斗?」

「あぁ。本気だとも、ティス。そして、村人の救出は俺とゼツの二人に任せてもらいたい」

 一斗はゼツの肩を抱き、すでに決定事項だと主張しているかのような態度である。


「そんな!? じゃあリンカたちは?」

 リンカは自分がまた見捨てられるんじゃないかと思い、狼狽えながら一斗にしがみついた。ユジンもリンカほどではないか、困惑した表情を浮かべている。


「リンカ、ユジン。お前たちには、マイとティスを守ってもらいたい。これはお前たちにしか頼めないことだ。引き受けてくれるか?」


「……そういうことなら。うん、リンカに任せて」

「わかりました。一斗さん、ゼツのことをよろしくお願いします」


「おぅ、任せておけ!」

 不安や恐怖を必死にこらえながらも笑顔で引き受けてくれたリンカとゼツに、一斗は不敵な笑みを浮かべて答えた。


「一斗さん……僕が力になれるなら行きます!」

「お、よういったな! それでこそ男だ」

 ゼツは何かを決心した表情で一斗に自分の意志を伝えた。その決意が一斗にも伝わった気がして、ゼツは心嬉しく感じた。



「一斗……」

 一連のやりとりを見届けていたマイが向ける真摯な眼差しに、俺は自分の決意を試されている感覚がした。


「マイ……すまねぇ、下手したらさっきみたいに戦闘する可能性のある場所に、みんなではいけねぇ」


 マイやティスには心配ばっかさせてしまうが、今やるしかない。

 戦闘以外のリスクよりも、人数が多いことで見つかりやすくなるリスクと、いざとなったときの離脱するスピードの低下は致命的になりかねないだろうと一斗は感じている。


「わかったわ。気を付けて」


「あぁ、行ってくるぜ! ゼツ案内してくれ」

「は、はい! こちらです」

 俺たちはゼツの案内する先を頼りに、慎重に歩き始めた。




 ◆聖なる花園 建物内中庭


「一斗さん」

「ん。どうした、ゼツ?」

 建物に再度潜入して目的地へと目指しているが、今のところ見張りに見つかることなく順調に進んでいる。


「な、なぜ僕の話を、信じてくれたんですか?」

 ゼツにとってはそのことが納得できずにいる。悪い意味で、というよりももちろん良い意味で。

 これまでここに強制収容されてからは、人間以下の扱いしか受けてこなかった。ただただ惰性で生き長らえてきたようなものだ。ユジンたちがいなかったら、その生きる気力すらなかっただろう。

 それなのに、今日会ったばかり一斗は確証もない自分の話を丸ごと信じてくれている。


(なぜ? なぜ?)

 頭の中にはさっきからずっとそのフレーズだけが響いている。


「なぜ? そりゃあ当然だろ。お前たちの覚悟を聴いたあとだしな」

 覚悟。

 そうだ。ユジン・リンカ、そしてゼツのことは、イカエルに任せるつもりだった。

 しかし、どうしても俺たちから離れない、っていうからついてくる覚悟を試したのだ。


 ………………


「俺たちが進む道にはさっきのような出来事に何度も遭遇するかもしれん。命を落とす可能性だって高くなる。

 下手したら、今の王国と敵対して反逆者になるかもしれん。それでも、ついてくるか?」


 脅しではなく真面目な話だと三人とも察してくれたか?

 俺のことをじっと見つめる瞳。

 すると、ユジンが落ち着いた口調で一言言い放った。

「それでも、僕たちは一斗さんたちについていきます」


 ユジンが言った言葉に賛同するかのように、リンカとゼツは顔を合わせて大きく頷き、改めて俺に向き合った。


 …………………



 あのときは不思議な感覚がした。

 前にいた世界では、なんとかして自分の考えや行動を会社の同僚に分からせようと企ててきた。それこそ必死になって。

 嫌そうな顔されながらも表向きはついてきてくれたが、明らかに心はバラバラだった。

 そんな相手に対して、さらに追い討ちをかけるように俺は見下し、脅し、罵倒していった結果があっけない解雇。

 誰も引き止めもしてくれない。

 むしろ手放しに喜んでいる奴らもいた。


 ところが、こっちの世界にやってきた俺は地位も名誉もお金も何にもないはずなのに……。

 マイやティスは、明日はどうなるか分からない未知な旅についてきてくれた。

 ハルク親方は、素性がわからない俺を雇ってくれ、色々と便宜を図ってくれた。

 ラインやレオナルドは決起隊の立ち直しよりも、俺のことを優先してサポートしてくれた。

 弟子のケインは”一斗師匠の弟子に恥じない男でありたい"と言って、あれこれ弱音を吐きながらも今は街の復興に力を注いでいる。


 そして、今目の前にいるこいつらはどうだろう。

 俺には想像できない過酷な環境で生活し、大切な仲間を目の前で無残に殺されたのにも関わらず、危険がつきまとう俺たちについていくと言うのだ。

 決して言わされているのではなく。



「それはな、ゼツ。最初にお前らが俺のことを信じてくれたからだ。たとえ間違った情報だったとしても、何も問題はないんだよ」

 ゼツは一斗が言っている意味が分からなかった。間違った情報を伝えたとしたら、それは裏切りになるのではないか?

 けれど、目の前の青年は"何も問題はない”と言う。

 中庭の様子を警戒している背中を見つめながら、ふつふつと湧き上がってくる想いに嬉しくなり、ゼツはくすりっと笑った。

『この人のようになりたい』という想いを持てたことが、誇らしく思う。


「ゼツ、あの扉でいいんだよな? って、なんでそんな喜んでるんだ?」

「いえ。何でもありません、一斗さん。はい、あの扉の先に連れて行かれたのを見ました」

「そ、そうか」

 さっきまで緊張のあまり硬直し続けていたのに、突然肩の荷が下りたようにスッキリした表情を浮かべているゼツのことを、不思議そうに一斗は見返した。


「ふ〜……よし! ああだこうだ考えても仕方ねぇ。一気に突入するぞ、ゼツ!」

「エッ!? さっきまで隠密にって……」

「そんなのはさっきまでの話だ。これからは翔ぶが如く! 電光石火! 一気に駆け抜けるぜ」

「そ、そんなー!!」


 首根っこ掴まれ、有無を言わさず問題の場所に突入することになり、ゼツはさきほど抱いた想いをほんの少し後悔するのだった。


 そう、ほんの少しだけ……。




 ◆聖なる花園 離宮


「マイさん、あの場所で待機していなくて本当にいいんですか?」

 遠慮がちにマイに質問する、ユジン。


「そうよ、一斗が戻ってくるまで大人しくしてないと」

 ユジンの意見に賛成するかのように、ティスティはマイに進言する。


「バカねぇ、そんなことしていたらアルクエードだけではなく、この場所の謎だって解明できないわよ」

 マイはティスティと連携して気絶させた見張り三人を、どこからか出した縄で縛りつけた。


「どういうこと?」

 ティスティは周囲を警戒しながら、マイに言葉の意味を尋ねた。


「なんでこの場所は外界とは切り離されていると思う?」

「なんでって……それは人目の付かないようにしているからじゃないの?」

「そうね。じゃあなんでそんな場所が『聖なる花園(アバルディーン)』だなんて呼ばれていると思う?」

「そ、それは……わからないわ」


 確かにおかしな話である。

 人目に付かないようにしている場所なのに、この場所があることを公開しており、アルクエードが使えない子どもたちばかりを集めているのか。

 現時点では全然情報が足りないが、なにか重要なピースが揃ったらこれまで集めてきた点が線になるかもしれない。


「もしかしたら、あの<魂抜(こんだつ)>がなにか関係しているのでは?」

 ティスティが推測を続けていたら、リンカが徐ろに声を出した。


「そう! いいところに気が付いたわね、リンカ。あの結晶を見てから、マイはこれまでにも同じような光景を見たことがあったことを思い出したの。エルピスで」


「エルピスで……まさか、<栄光の涙>?」

 マイはティスティに向き合って力強く頷いた。


「あの相手のエネルギーを奪っていく感じ、そっくりじゃない? それに奪ったエネルギーを何かに活用する仕組みとか」

「……その謎がこの先に行けば解き明かせる、と?」

「なんらかの情報は持って帰れるはずよ。この先では、あなたたちを実験台にして行われている研究所がある。そうよね、ユジン?」

「えぇ……そうです」

 気分悪そうにユジンが答え、寄り添うようにリンカがユジンを支える。


「大丈夫、ユジン? 嫌なことされた場所に自ら行くのはつらいよね。なんなら元の――」

「いえ、大丈夫です! 詳しい場所はリンカも知りませんし……」

 ユジンはリンカをじっと見つめ、そんなユジンをリンカは不思議そうに見つめ返した。


「そういうことね、ユジン。じゃあ彼女のことはあなたが守ってあげなさい」

「はい、ティスティさん!」

 ユジンとティスティのやりとりがよく分からないリンカとマイは、二人揃って可愛く首を傾げるのだった。



 しばらく離宮内を進んでいくと厳重に結界が張られている薄暗い場所にたどり着いた。

 目の前にある頑丈そうな扉があり、この先に進むことを躊躇させるような気配を感じるが、人の気配は今のところ一切感じられない。


「この先が……研究施設のある部屋になります」

 ユジンは扉の先を指差した。


「ここがそうなのね。感じの良い気配は感じないけれど、探究心は湧き上がってくるわ」

 マイは結界を興味深く眺め、解析を始めた。


「どうするの、マイ?」

 しばらく周囲を警戒をしていたティスティは我慢できなくなり話しかけたところ、途端に部屋全体が明るくなりーー頑丈そうな扉がゆっくりと開いていく。


「「あっ」」

「あれ、もう開いちゃったの?」

 間の抜けた四人の声が部屋中に響きわたる。



 扉の向こうは明るく光っていて、最初は眩しくて目を開けれなかったが、だんだん目が慣れてきた。

 施設と言う割には意外に狭く、施設内にはいろんな道具や台が複数並べられている。所々血の痕跡が残っているのがとても生々しく、ティスティとリンカは顔をしかめた。


「ティス、どう? 誰かいそうな気配ある?」

「ちょ、ちょっと待ってね」

 ユジンの言っていた研究施設が確認できるが、ここに来ても人がいる気配がしないのが逆に妙だとティスティは感じた。


「ううん、この区画には私たち以外には誰もいなそうよ」

「そう……それにしては不思議ね」

「何が、ですか?」

 ユジンはマイが気にしている方向を見てみたが、別に不思議なところは何もないように思った。


「確かに人の気配がないはずなのに、今までに感じたことのない膨大なマナを感じるわ……ユジン、あの先の通路には行ったことある?」


「いいえ、この部屋にしか。あの台に縛り付けられ、まるで雷を打たれたかのような刺激を何度も……」

「ユジン……大丈夫よ」

「ありがとう、リンカ」

 思い出すことを無意識に拒絶して震えているユジンの手をリンカは優しく両手で包み込み、彼に向かって微笑んだ。


「じゃあ、きっとあの先に何かあるわね。マイが一人で確認してくるから、みんなその台の下に隠れててね」

「わかったわ。気をつけてね、マイ」

「ええ。ティス、二人のことをお願いするわ」


 マイは最大限警戒しながら薄暗い通路をさらに進んでいくと、その先には巨大な檻があった。檻の中をよーく見てみると人影が確認できたので、無言でゆっくり近づくが――、

「これ以上近づかないでください!」

 と言って、なぜか檻の中にいる少年から大声で拒絶された。




年末連続投稿4日目♪

昨日のクリスマス当日は

みなさんどのように過ごしましたでしょうか?(*´ω`*)

私は仲良し四人組で

スターウォーズ8を観てきました◎

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