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06 聖なる花園

「さて……これからどうしたのものかな、一斗?」

 男が周囲を警戒しながら、俺に質問してきた。

「うっ!」


「誰かさんが暴れたせいで、屋敷の周りには門番が大勢いるわ。今出ていっても袋のネズミよ。ねぇ、一斗?」

 ニッコリ微笑みながら、明らかに何か言いたげに睨んでくる、マイ。

「そ、それは……」


「二人とも、もうこれ以上一斗を責めないで」

「ティス……」

 どんなときでも味方はお前だけだよ。


「駄目よ、ティス。一斗をいつも甘やかしたら、つけあがるだけよ」

「つ、つけあがってなんかーー」

 必死に言い訳をしようと試みたが、マイの眼光の鋭さに怖くなりそれ以上声を出せなくなった。


「マイたちの制止を振り切ったのは誰?」

「俺」


「無闇に戦闘を開始したのは誰?」

「……俺」


「じゃあ、イカエルたちの作戦を台無しにしたのは誰?」

「……あぁ、もう! 全部俺だよ! だから、何度も謝っただろ?」


 仕方ねぇじゃねぇーか。

 あいつらは許せなかったんだ。

 こんなガキたちをゴミのような扱いしやがって。

 俺に引っついて離れない少年少女ら三人の頭をなでながら、間違ったことはしていないと自分自身に言いきかせる。



 先ほど最初に一斗に質問してきた男の名はイカエル・オリヴィエといい、聖なる花園(アバディーン)の門番でもあり、クレアシオン王国の元親衛隊長を務めていた男である。

 何でも前国王が崩御した後に、名目上は元国王の命でこの地に派遣されたことになっているが、事実上の何者かに意図された左遷である。


 聖なる花園(アバディーン)と呼ばれるこの地で実際に起きていることを告発しようにも、家族が人質にされているため迂闊には動けないでいた。

 そんな中でも、イカエルは極秘裏に調査を進めていて、非人道的な実験の証拠を集め、機会を慎重に伺っていたところ、一ヶ月ほど前から急に警戒網が薄くなっているエリアを発見。

 見つからずに脱出できる日取りを綿密に確認して、今夜そのプランを決行し、救える限りの子どもたちや無理やり働かされている同僚とともに脱出しようとした、まさにその時ーー。




 ***


「でっかいね……」

「あ、あぁ」

 ティスの呟きに思わず反応してしまったが、キーテジにはなかったはずの建物が目の前に突然現れて、俺はまともに返答することができなかった。


 結界の中に入って、最初に目に飛び込んできたのは巨大な教会だった。

 教会と判断したのは、エルピスの教会と似た造りをしていて、アルクエードのシンボルマークが建物に掲げられた旗に刻まれていたからだ。

 でも、一斗からすると、建物の構成自体がよく見たことのあるものと類似している気がした。


(これじゃあ、まるで学校みたいなもんじゃねぇーか? ただ……この景色はなんか異様な感じがするぜ)


 一斗がそう感じるのも無理がない。

 聖なる花園って言われるだけあって、建物の周りには辺り一面綺麗な花畑が広がっている。

 赤色の花、黄色の花、青の花、ピンクの花、紫の花など。いろんな種類の花が絶妙なコントラストを生みだしていて、花に興味がない一斗でも美しさのあまり目を奪われるくらいである。

 それでも、異様に感じるのが周りの雰囲気。

 花畑を見たら心がリラックスすると思いきや、ピリピリと張り詰めた雰囲気が漂っていて、そのギャップに三人とも混乱した。



 戸惑いながらも見つからないように、一斗を先頭にして草花に身を隠しながら建物に近付くことにした。


「貴様ら、もう逃げられないぞ!」


 ちょうど庭園を通り抜け建物の側面に移動しようとしたところ、男の荒げた声がきこえてきた。


「(な、何!?)」

「(まさか、バレたの?)」


 マイとティスの警戒した声がきこえてきたが、どうやら見つかったのは俺たちではないらしい。


「(いや、見つかったのはどうやらあのガキたちのようだぞ)」

 俺は小声で確認できたことを二人に伝えた。


 暗くてよく見えないが、鞭を持った門番らしき男が一人と、背の低いガキたちが五人いる。


「逃亡者は死刑だと伝えてあるよな、お前たち? ということは、覚悟できているよな!」

「クッ!?」


 バチィーン、バチィーン

 という鋭い音が、50メートルくらい離れている俺の耳にまで何度も響いてきた。

 鞭は四人を庇ったガキ(一番背の高い男)の背中にすべて直撃。その度に、悲鳴のような声が痛いほど伝わってくる。


「!?」

 飛び出そうとしたところ、グッと服を掴まれてその場から動けなかった。


 何すんだよ!


 そう抗議してやろうとして後ろを振り向いたが、二人の表情を見たら言葉を発することができなくなった。



 マイとティスティは先頭にいる一斗がいるから、どんな光景を一斗が見ているのかわからなかった。

 しかし、耳を塞いでも聞こえてくる嫌な感じの音や、一斗から溢れ出ている怒りの気配から「今すぐにでも助けようとするのでは?」と二人して思ったのである。


 自分たちも助けたいとは思うが、アルクエードや連れて行かれた人たちのまだ何も情報を掴んでいない。そんな状況で、下手に騒動に巻き込まれることは避けたい。

 そう考えていたから、二人して同時に一斗のアクションを無意識のうちに封じていた。



「クソッ」

 マイたちの気持ちや考えがわからなくはないが、どうしても納得がいかなかった。

 俺がすぐ近くにいる状況で、理不尽に痛めつけられているガキがいる。


(俺はまた見ているだけなのか?)



 しばらくして、バタッと、みんなを庇っていた少年が力尽きるように倒れた。


「もう死んじゃったか? 本当に使えないな。まぁ、あと四人もいるし……別に構わないか。お前は子どもとはいえ女だから、じっくり可愛がってやーー」

「「汚い手でやめろ!!」」

「な、何するんだお前ら! は、離せ!」

 門番の男が少女の手を握ろうとしたところ、他の少年二人に腕を抱きつかれ、身動きがとれなくなった。


「ゼツ、今だ! こいつのあれを奪い取れ!」

「で、でも……」

 右手に抱きついている少年がもう一人の少年に指示を出したが、ゼツと呼ばれた少年は怯えきっていて動けないでいる。


「な、何をしてる! 早く!?」

 もう一人の少年もゼツに指示を出そうとしたところ、不意をつかれて少年二人は腕を振りほどかれてしまい、倒れている少年とは逆方向に飛ばされた。


「こいつら〜、神に見放された実験体の分際で逆らいおって。身の程をわきまえろ!」

 門番は懐から水晶のような手のひらサイズの球体を取り出し、腕に抱きついてきた少年二人に向かって球体を掲げた。


「やばい!」

「に、にげろ!」


「<魂抜(こんだつ)>よ、呼応するあ奴らの魂を昇華せよ!」

 急に慌てて逃げ出す少年たちを嘲笑するかのように門番が何か呪文を唱えると、球体は眩しく輝き出し、黒い光線が彼らを捉えた。

 すると、その場から逃げようとした二人の動きがピタッと止まった。


「あ、あれ?」

「う、動けない」


 黒い光に包まれて固まったように動けなくなった二人の胸元が光り始め、赤髪の少年の胸元から結晶のようなものが浮き出てきたと思いきやーー


「アァーーーーッ!!」

 突如赤髪の少年の全身から炎が発生し、一瞬にして黒焦げ。


「イヤーーーッ!」

「ト、トッドーーー!」

 少女とゼツが悲鳴を上げたときには、赤髪の少年トッドの体は灰とかしてしまった。


 トッドから取り出したマテリアルは、門番が持っている球体へと吸い寄せられていく。

「おや? 屑から良好な火のマテリアルができたな」

 吸い寄せた結晶を品定めしながら、門番は顔を歪め嬉しそうに嘲笑った。



(な、なんだあれは?)

 俺は目の前で起きている現象が理解できない。一人の少年から何かが飛び出てきたと思いきや、いきなり業火に焼かれたように激しく体内から燃えだし、一瞬にして灰になるなんて……。


「一斗……」

「マイ、お前には何かわかるか?」

 震える手を抑えながら、俺はマイに尋ねた。

 こいつなら何でも知っている気がして。


「ごめん……今回のことはマイにもわからないわ。ただ、おそらくあの子から取り出されたのは、生命の核となるマテリアルよ」

 マイは自分を必死に抑えながら答えてくれたが、恐れているというよりも門番に憤慨している感じが伝わってくる。



「トッド……」

 黒い光に包まれてしまったもう片方の少年バロンは、トッドの死骸と自分たちを庇ってくれた少年ユジンと守りたかった少女リンカを見つめた。

 その瞳は自分の死を恐れているというよりも、何かを決意した瞳をしている。


「まさかここまで耐えるとは……ますます楽しみだ」

 バロンをご満悦な表情で門番は見つめる。


「バロン……ぼ、ぼくは」

 トッドが無残に殺されたことがまだ受け入れられないゼツだったが、恐怖で膝をガクガクさせながらも、ユジンとリンカを守るように立ち上がった。


 いつも泣いてばかりのゼツが自分の意志を示した。そんな彼を見て、バロンは今にも弾けそうな自分の体を抑えてでも、彼のために何かを残したいと強く思った。


「リンカのこと……後は頼んだぜ、ゼツ」

 精一杯の微笑みを浮かべた瞬間ーー結晶が門番の持つ球体に吸い寄せられ、パーンッとバロンの体から破裂音がきこえてきた。

 バロンの体中からは血しぶきが激しく飛び散り、地面に倒れそのままもう動くことはなかった。


「トッド……バロン……」

 リンカは悲しみのあまり、放心しながらただ涙を流すことしかできなくなっていた。


「おぉ、やはり素晴らしく純度の高い結晶が取れましたね。

 さて、あとお前たち三人ですが……こんなにいいものが取れるということは、あの村出身のお前たちもさぞかし……なんだ小僧、背教者(アポスラート)の分際で俺をそんな目で見やがって」

 悲しみに暮れるリンカと残虐な非道を繰り返す門番を見比べ、ゼツは門番を強く睨みつけている。


「そんなに早く死にたいのなら、こいつらと同じようにーー」

 再び球体を掲げ、ゼツに向けようとした刹那に門番は何者かに吹き飛ばされ、ドガ〜ンと大きな音を立てて建物に激突した。


「はぁ〜、ようやくスッキリしたぜ」

 憎むべき対象がいきなり目の前からいなくなり、ゼツとリンカの目が点になっていたところに、見知らぬ青年が悠然と立っていた。




 そうだ、俺が横槍を入れてんだ。

 こいつらを助けるために。


 あの門番をぶっ飛ばしたあと、大きな音を立てすぎたせいか他の門番たちも大勢駆けつけようとする声や警戒音が鳴り響いた。

 急いでまだ生きているガキ三人を連れて、どこかに逃げ出そうとしたところで、いつの間にかマイとティスがまた別の門番に捕まってしまっていた。


「この子達とともに一緒に来てもらおうか」

 ただ、その門番はさっきぶっ飛ばした門番よりも偉そうな服装をしており、表情も焦燥感はあるものの残忍な雰囲気は感じられなかった。だから、俺はまだ意識を取り戻していない少年を背負い、残り二人を連れて大人しく連行されることにした。



 連行された先は牢屋ではなく、屋敷の裏手から建物内部にある一室に連れていかれた。

 その部屋は窓もなければ、家具もなく、ただのだだっ広い空き部屋だった。


「ここで待っていなさい」

「お、おい!」

 俺たちを連行した男は急いで俺たちを部屋に押し込めると、俺の制止も気に留めずに鍵を閉めてどこかに行ってしまった。


「う、うっ」

「「ユジン!」」

 これからどうしようか話そうと思った矢先に、最初に仲間を庇ったユジンと呼ばれる少年がどうやら目を覚ましたようだ。


「こ、ここは? それに、あなたは?」

 ユジンが目を覚ますと、知らない人に背負ってもらっていることに気付いた。


「俺か? 俺の名前は世渡一斗、一斗でいいぜ。こいつはマイに、ティスティだ。

 お前たちの名前もきかせてもらえるか?」

 俺たちの自己紹介をしたところで、ユジンを床にゆっくり下ろす。


「僕の名前は、ユジン……です」

「リンカ」

「……ゼツ」

 さすがにあんなことがあったからか、俺たちに警戒しながら自己紹介をしてくれた。


「大丈夫よ、君たち。このお兄ちゃんは怖そうな目つきをしているかもしれないけど、本当は優しい人だからね」

「って、おい! なんだその紹介は、ティス」

 ティスに気さくに話しかけられて緊張の糸がほぐれたのか、ガキたちはようやく口元が綻んだ。

 ティスの紹介は納得いかないが、彼らの安心した表情が見れたことに俺たちはホッとする。


「マイの言う通りね。そうそう、ユジンの体調はどう? どこか痛くない?」

 自分のすぐ傍まで近づいてきたティスにきかれて、ハッとしたユジンは慌てて自分の全身をくまなく触ってみる。

(あれ? な、なんで?)

 ついさっきまで死にそうになるくらいの痛みがあったはずなのに、今ではまったく痛くない。むしろ、逆に気分は良好だった。


「何も痛く、ないです……なぜ?」

「本当に、ユジン?」

 リンカはユジンが大丈夫だということが信じられなくて、彼の全身をペシペシと叩いてみるが平気そうな様子を見て、安堵のあまり腰が抜けたように床に崩れ落ちた。


「『なぜ?』だって、一斗?」

 ユジンに向けていた温かく見守る眼差しを、俺に向けて当たり前な質問をしてきた。


「なぜかって? そんなのは決まってるだろう」

 俺はユジンの心臓辺りを、少し強めにトントンと右手で叩いてユジンに目線を合わせた。

「大切な人のために自らの体を張って、意地を通した格好いい男が簡単にくたばるかよ! 俺はそんな格好いい男の生きる力を手助けしただけさ」


「ありがとう……ございます、一斗さん」

 これまでこの場所に強制連行されてからというもの、人間以下の屑扱いしか受けていなく、罵声しか浴びたことがなかったユジン。

 その状況はユジンに限らず、みんなそうだ。

 ただ、そんな彼が一人の人間としてだけではなく、一人の男として見てくれた一斗の存在があまりに有難すぎて、一筋の嬉し涙が彼の顔をつたった。




「さて、と。これからどうしたものか?」

 ユジン、リンカ、ゼツから、一通り先ほどの状況に至った経緯についてきかせてもらった。

 三人は極度の緊張感から解放されたからか、一時休憩を入れたタイミングで深い眠りに入ったらしく、今はそれぞれの膝の上でそのまま寝かしている。


「あんな出来事があった後だからこそ、すぐにでもフカフカのベッドで眠らせてあげたいわ」

 ティスの膝の上では、髪を撫でられるながらゼツが気持ち良さそうに眠っている。

 ちなみに、ユジンはマイ、リンカは一斗の膝の上にいる。


「とはいえ、ここでマイたちは何ができるのかな?」

「「それは……」」

 マイの言葉をきき、俺とティスは何も答えることができなかった。



 事の顛末を整理すると、どうやら今夜大体的に子どもたちを外の世界に逃がす計画があったようだ。

 大半の子どもたちはその計画に賛同したが、ユジンたちは大人たちのことが信じられなくて、独自に脱走しようとする。ところが、建物の外に出てすぐのところで運悪く門番に見つかる。

 そこからの話は一斗たちが遭遇した光景の話だった。ユジンは気を失うまでのところを淡々と話していたが、それ以降のことはまともに話せずにいるユジンではなくリンカが代わりに話し始めた。しかし、仲間の二人が殺された話になると怖さのあまり発狂してしまい、話すどころではなかった。


 それと、今回一番謎だったのが、門番が持っていたあの球体だ。

 ユジンの話だと、球体の名前は<魂抜(こんだつ)>と呼ばれていて、マイが推測した通り生命の源でもマテリアルを何らかの手段で抽出するもの。そんな反則的なアイテムではあるが、誰彼構わず抜かれるわけではなく、みぞおち辺りに印が刻まれたものだけ。

 その印は、ここに強制連行されたものが最初に刻まれる、とのことだ。リンカは恥ずかしがって見せてくれなかったが、ユジンとゼツは恐る恐る服を捲り上げて見せてくれた。


 マテリアルを抜かれたものは今の所例外なく死んでいて、その死に様は様々である。

 トッドのように炎に包まれて焼け死ぬものもいれば、一瞬で氷漬けになり砕け散って死ぬものやカマイタチに切り刻まれたかのようにバラバラになって死ぬものもいる。

 ユジンたちも連行された当初はその光景を目にして慄然としたが、次第に他の子どもたちが死んでいくのに慣れてしまう。

 とはいえ、さすがに同郷の大切な友達が殺された時には、気が狂いそうになったようだ。



(そんなの当たり前だろ! 俺だって、もしこいつらがそんな目にあったら……)


 ザザッ……ザザッ


 一瞬アイルクーダに着いた当初よく夢でみていたシーンが、俺の頭の中をよぎった。

(いや、もうあんなことは二度と……って、あれ? 二度と(・・・)ってどういうことだ? まさかあれは俺の過去の光景なのか?)


「急にどうしたの、一斗?」

「あ、いや。何でもねぇよ、マイ(気のせい、だよな?)」

 一瞬夢の中の少女とマイの姿がダブった気がしたが、両者とも雰囲気が真逆だし。夢の中の少女はクールで口数が少ないが、マイはクールとは程遠いくらい元気いっぱい。しかも、一度話し出すと気が済むまで話し続けるタイプだ。


「変な一斗。あ、変なのはいつもか」

「うっせよー。変なのはむしろマイだろ」

 何度お前の変なテンションに俺たちが巻き込まれたか。

 アイルクーダにいた頃に二人っきりで買い物した時も、ハルク親方の工事現場で機材を組み立てている時も。

(まぁ、あの無駄に高いテンションのおかげで、当時の俺は助かったわけだが)


「ムカ〜! 一斗には言われたくないわ」

「俺だってそうだぞ!」

「「ム〜!」」


「あはは。いつもしょうがないな、二人とも」

 少し離れたところで毎度お馴染みの夫婦喧嘩のようなやり取りを、ティスティは眺めている。

 睨み合ってはいるが、表情は二人とも活き活きしていて、毎度楽しそうだ。

 そんなやり取りを見れるとホッとするが、時々胸がズキッとする。そう感じた瞬間になかったことにして、やり過ごしてはきているティスティだったがーー。


「お取り込みのところ悪いんだが、いいか?」

 バッとドアの方を振り返ってみると、先ほどこの部屋まで連れてきた男イカエルが唖然として立っていたの見て、現在自分たちが置かれている状況のことをようやく思い出すのだった。


 ***



 あのときのことを思い出すだけでも吐き気がする。

 実際に、人が目の前で殺されるところを見たのが、今回が初めてだったのもある。


(ん? 今回が初めて……なのか。さっきからなんなんだ、この感覚は)

「まぁ、想定外の出来事はよくあること。私たちと別行動をとったこの子たちのことは、本当は諦めようとおもいましたが……」

 俺が考え事を始めるのを遮る形で、イカエルは当時の状況を語り出す。


「ただ、諦めたところでこの子たちから私たちの計画が露呈しては、元も子もない。だからーー」

「だから、わたしたちも助けてくれたんですね?」

 ティスティが真剣な眼差しで、イカエルに確認をとった。


「そうです」

 間髪入れずにイカエルはティスティの問いに、肯定で答えた。


「成り行きでこの状況になったとはいえ、もう後には引けません。フィダーイーが本格的に動き始める前に、脱出します。手はずは整えていますので、急ぎましょう」


「ちょっと待った!」

 俺は外に出て行こうとするイカエルを慌てて止めた。


「なんですか! もう時間がないのです」

「一つだけ確認させてくれ。その脱出する人たちの中には、マーティカの村人は含まれているか? つい最近連れてこられたばかりのはずだが」


「……いいえ、含まれておりません。この計画自体、一ヶ月前に最終決定したものなので」


「そ、そんなぁ」

「ミレイ……」

 心から申し訳なさそうに答えるイカエルに対して、マイとティスティはその答えに失望した。


 ところが、一斗だけは違った。


(そうか。なら、俺がやるべき事は決まったな。事態が逼迫していることは流石の俺でもなんとなくわかってはいる。

 がしかし、このまま何も掴めないままで引き下がるわけにはいかない。ミレイとの約束もあるしな)


 一斗はミレイと別れ際にした約束を思い出し、気合を入れ直すのだった。





年末連続投稿2日目!

クリスマスらしいイベントをするわけでもなく、

ひたすら執筆( ..)φ

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