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05 キーテジの謎

本日から年末31日まで

初めて毎日連続投稿を実施したいと思います!

 ◆キーテジ近郊の森


 周りには草木しかない森の林床に、その場には不釣り合いな短剣が一つ刺さっている。

 早朝の森には霧がかかっていて、まだ日光が入らないため周囲はまだ薄暗い。


 すると、突然短剣が眩く光りだし、視界が良好になった頃には周囲の霧がなくなり、代わりに三人の姿が現れた。


「あぁ、ようやく解放された〜」

 腕をグルグル回しながら、やりきった表情で現れた一斗。

 リュックを降ろして、ドタっと地面に座り込んだ。


「あははは。お疲れ様、一斗。一晩中ミレイちゃんの相手をしてたもんね」

「マイたち以上に一斗は好かれちゃったからね。やっぱりミレイちゃんも年頃の女の子かな。どうするのよ、一斗〜?」

 ニヤニヤしながらマイが俺の顔を覗き込んできた。


「どうするってもな、ミレイはまだ幼い子どもだろ? 遊んでくれた大人に懐いてくれただけじゃねぇ〜のか?」

 そういやぁ、エルピスでは街のガキ達に好かれちゃって、散々そこら中連れ回されたし。

 会えなかったけど、あいつら元気しているだろうか。


 一斗が街の子どもたちを思い出しているとき、マイとティスティは顔を見合わせ同時に溜息をついた。


「(ねぇねぇ、マイ?)」

「(なぁに、ティス?)」

 お互い顔を近付けて、コソコソと内緒話を始めた。


「(あのこと、一斗にも知らせた方が……)」

「(……あの子は隠したがっていたようだから、あの子の口から言うまで待ってあげた方が良いかもしれない)」

「(そ、それもそうね)」

 マーティカを離れた後のことを思い出し、あいかわらずの人の気持ちには鈍感な一斗に対して、マイとティスティは再び溜息をついた。


 ***



 マーティカから離れた場所まで四人は逃げてきた。

 ちょうど休憩をしたタイミングでマイとミレイが目を覚まし、これからのことを話すことにした。

 やはり、これからの旅にミレイは連れていけないから、エルピスで保護してもらおうということに。

 エルピスまではマイがとっておきの手段があるから今すぐにでも行けるというが、問題は「一緒についていきたい」と駄々をこねだしたミレイの存在だった。マイとティスティでなんとかエルピスにいてもらおうと提案するが、「イヤダ」と言って一斗の腕を強く抱え込んで離れる気配がまったくしない。

 そこで、一斗が「一緒にエルピスまで行って、夜寝るまですぐ近くにいるから」という案で、しぶしぶ納得。


 エルピスまでは、マイの時空間転移(スペース・シフト)で瞬時にエルピスのキール邸まで戻ってきた。

 マイはもしものために魔力を通すことのできる短剣を二本、ハルクから譲り受けていた。一本をキール邸の庭に目印として刺しておき、いつでもその場所に転移できるように準備しておいた布石が、早速役立ったのである。ちなみに、もう一本は転移元に刺してきたので、また転移する前の場所に戻れるようにしてある。


 出発して一日も経たずに戻ってきた一斗たちを発見し、ラインとレオナルドはなんて言ったらいいかわからなかった。しかし、マイがマーティカの状況を伝えるなり表情が一変して、急きょミレイから事情聴取をすることになる。

 一斗はさすがに疲労困憊(ひろうこんぱい)だったから、ミレイの面倒をティスティに託し、事情聴取が終わるまで休憩室で休むことにした。


 ライン・レオナルド・マイ・ティスティ、そして、ミレイの五人で事情聴取が始まった。

 ミレイの話をまとめると、今朝王国の役人を名乗る三人組が現れ、「背徳者(アポスラート)を差し出せ。さもないと村に災いがやってくる」と一方的に話してきた。

 村長が「背徳者(アポスラート)はこの村にはいない」と告げると、何もしないでその三人組はキーテジ方面に去っていった。

 その後、村人の緊急招集があり、ミレイもその場に母親と行こうとしたところ、突然村の中心部で爆発。

 悲鳴が聞こえてきて、母親がミレイを村の外に逃がしたところでまた戻っていった。ミレイはしばらく待って一人で待つのが怖くなって、村に戻ったところ突然門近くの家で爆発。その余波に巻き込まれたところで意識を失い……


「その後、目が覚めたときにマイさん、ティスティ殿、それに一斗殿と出会ったんだね?」

「はい……怪我をしていたのを一斗お兄ちゃんに治してもらいました」

 深刻そうに話をしているのに、一斗の話になると途端に安心した表情を見せるミレイ。

 そんな彼女を見てホッとしつつも、『またやったな、一斗(殿)』と四人の心の声は一致していた。



「とにかく最初に現れた三人組や、ティスがコテンパンにのした男はともかくとして……この子、ミレイの身寄りの件だけど」

「コテンパンって……」

 マイにそう言われると、ティスティはあの件について深く考え過ぎなくてもいいんだという気になる。


「そうだな。小さい嬢ちゃんのことを考えると、どこに預けるかだが……」

 ラインがミレイの今後のことについて提案しようとしたところ、下を向いていたミレイが徐ろに顔を上げた。


「……わたしのことは心配なさらないでください。もう13歳です。自分のことは自分でやれーーって、みなさんどうしたんですか? そんなに驚いた顔をして?」

「ご、ごめんね。ミレイちゃん、13歳……なんだ」

 ついつい『信じられない』という表情を露骨に出してしまったことをティスティは謝った。


「いえ、こんな身長が低くくて、しかもこんな子どもっぽい服装を着ていたらそう思われても仕方ないよ。ただ、13歳なのは本当です。だから、背徳者(アポスラート)の疑いをかけられたんですから」

 苦笑しながらミレイはフォローした。


「確か、ライン隊長やキール元副長の話によると、11歳になってもアルクエードが使えない子どもたちは背徳者(アポスラート)として……」

「あぁ、強制的に収容所に連れてかれちまう。でも、なんでこの子は連れてかれなかったんだ?」

 レオナルドの言葉を引き継いだラインの頭に、また一つ別の疑問が思い浮かんだ。


「それは……「村のみんなが一団となってわたしのことを庇ってくれているから」だと母がいつも言っていました。だから、わたしはこれまで部外者が村に近付くと、必ず家の中に隠れるようにしていた、ので」

 村のみんなや母親のことを思い出したのか、話しながらミレイの顔が悲しみに暮れた。



 一通り事情聴取が終わった頃、ちょうど一斗が起きてきた。なので、マイとティスティはミレイを一斗に託して、今度は自分たちが仮眠をとることにした。

 夜明け前に出発することに決めて、次の日の夜明け前に一斗たちを見に行ったらーー

 まだミレイは寝ずに起きていた。


 さすがにこれ以上は、と思いティスティが子守唄を歌いだしたら、ようやくスヤスヤと寝息を立ててミレイは眠ってくれたのであった。



 ***


「じゃあ、さっさとキーテジのまちに向かうとするか」

 リュックを背負いながら、ヨッと言いながら一斗はシャキッと立ち上がった。

 さすがに昨日のリュックでは目立ちすぎるという話になり、一泊分用のリュックにまとめ直した。


「ええ、急ぎましょう。ラインたちも先行隊が明日にはキーテジに来てくれるみたいだから、美味しいところを取られないようにね」

 魔法に使った短剣を回収して、マイは一斗の右隣りに移動した。


「もう、マイったら! 早く行ってミレイちゃんの家族や村のみなさんを助けましょう」

 そして、ティスティは一斗の左隣りに移動。準備が揃ったところで、一斗たち一行はキーテジに向かい再出発した。

 今までで最大限の注意を払いながら。




 ◆キーテジのまち 宿屋


 キーテジのまちに着くまで襲われることもなく、無事に街に着いた一斗たち。

 それでも、これまでの経験から警戒態勢で街中を散策したのだが。


「どういうことだ……」

 宿屋に着き、イスに腰掛けるなり一斗はいつになく真面目な表情で呟く。

 宿屋の個室にはシングルベッドが一つ、机とイスがワンセットあるだけのとてもシンプルな部屋。部屋はだだっ広くて、そこに一斗・マイ・ティスティが思い思いの場所に散らばっている。


「どういうことだって……どういうこと、一斗?」

 そんな一斗に、ティスティはベッドに腰掛けながら律儀に反応する。


「だってよ、この街山の中にあるのにめちゃくちゃ活気があるじゃんか! 以前のアイルクーダのように寂れているわけでも、エルピスみたいにアルクエードで街の住民が操られているわけでもなさそうだしよ」

 一斗は頭を掻きむしりながら、完全にお手上げであることを全身をつかって表現した。


 はっきり言って拍子抜けだ。

 警戒している俺たちがバカらしくなるくらい、ある意味普通の街って感じがする。

 そのことは本来なら喜ばしいが。

 普通の街すぎて、逆に全部が怪しく感じてしまう。

 さて、これからどうやって収容所を探すかだな。


「……そのことについて、一つ気になることがあるわ。夜になったらもう一度外に出て確認してもいいかしら?」

「あぁ、もちろんいいぞ」

「ありがと、一斗♪」

 気になるところ……

 俺は気になるところがありすぎて目星すら立てれないけど。


「ところでどこに行くの、マイ?」

 ティスがマイに行き先を尋ねたところ、マイは弾んだ声で答えた。


「それはね、街の中心部にある広場よ♪」

 広場?

 あの何にもないところにか?


 マイの答えに対して首を傾げる俺とティスを見て、マイはクスクス心から嬉しそうに笑うのだった。




 ◆キーテジ 広場


 キーテジの街の規模はアイルクーダ並みだが、古い建物が建ち並んでいて、いかにも田舎っぽい。

 ところが、街の人たちは活気があり、これまでの街のようにアルクエードを使っている感じは一切受けない。

 そして、日中出歩く住人は数多く、おかしい感じはしなかった。


 しかし、マイの気になる場所が広場だと言うのを聴いた上で現場に来てみると、なんでかわからないが俺はそのことに妙に納得してしまった。

(なんでだ? おかしいところはあいかわらずないはずなのに……)


 日中とは違って夜になって広場に来てみると、人通りがまったくなくなり、灯りもなくて真っ暗。

 マイが所持しているアイテムで明かりを照らしているので、一斗たちの周りだけが薄っすらと光の中に包まれている。


「本当に、今夜は真っ暗ね」

 ティスティがマイの後ろにピッタリくっつきながら恐る恐る呟いた。


「そうね、今夜は新月だから」

 ティスティとは対照的に、マイはどこか活き活きしている。

 マイは広場の中心部に到着すると、辺りをキョロキョロしだした。



「何してるんだ?」

 俺は気になってマイに質問した。


「この辺りにね、空間の歪みのようなものがあった、気がするのよ。ティス、これ持ってもらえる?」

 マイはアイテムをティスに託して、手探りで周囲を探索しはじめた。


 俺も何か手伝おうとは思ったが、そもそも何を探したら良いかわからずいる。

 ティスはマイの移動する方にアイテムを移動させる役を果たしていて、しだいに俺の周りから明かりがだんだんなくなり薄暗くなってきた。


 すると、一瞬暗闇の中に1メートルくらいの赤い線が光った気がした。

 すぐに見えなくなったが、その辺りに移動してみると、なぜか赤い線が見えた辺りだけ氣の流れがブツッと途切れていることがわかった。


「一斗!? どこにいるの?」

「ティス、こっちこっち。なんかこの辺りが怪しいぞ。赤い線のようなものが見えたようなーー」


「どこー!?」

「うわぁ!? ビックリさせるなよ、マイ」

 突然目の前に大声を出して現れたマイの存在に、俺は驚きすぎて尻餅をついてしまった。


「そんなことより……どこなの?」

 あぁ、この探求モードのマイは止まらないな。


「この辺り、のはずだが」

 立ち上がって思考を切り替え、俺は赤い線が見えた辺りを指で指し示めす。


「一斗!? そこ!」

「ん!?」

 急にティスが声をあげるからティスが指差した方向を見てみると、さっき一瞬見えた赤い線が今度はくっきり見えた。


「ど、どういうことだ?」

「きっと何かの拍子に結界が緩んでるんだわ。キールの話からすると、おそらくこの先に……どうする、一斗?」

 そんな当たり前のこときくか?

 答えは決まってるだろ?


「もちろん行くさ! なぁ、ティス?」

「えぇ! アルクエードの謎解きとミレイちゃんの大切な人たちを救うために」


 マイは俺たちの賛同を大きく頷くことで受け止めてくれたあと、赤い線が走っている空間に対してマナを流し始めた。

 すると、徐々にパカ〜ッと線の裂け目が開いていき、人が通れるくらいの大きさになったところで、俺たちは三人で顔を見合わせた。そして、意を決して開いた空間の中に足を踏み入れていくのだった。





 ◆マーティカのむら


 一斗たちが村を去って、半日ほど経った夜中。途中から降り続いた雨のおかげで、村中で広がっていた火の手はなくなっていた。

 そんな村で突然、ズドォォオオン、という耳を劈くような爆発音とともに、ある家が内部から炎を巻き上げながら消し飛んだ。


「あの小娘〜、絶対に許さない! 不意打ちだけでは飽き足らず、私バロンにあんなみっともない姿を晒させて……」

 炎の中からゆっくりと現れた。

 現れたのは、先の戦闘でティスティが戦ったバロンという男。

 全身ボロボロな感じだが、瞳には激しい殺意が宿っている。

 普段は笑みを浮かべているが、そうなってしまうのも仕方ない。なぜなら、彼は超が付くほどのナルシストで、みっともないと感じる存在に対する嫌悪感は異様にもっている。

 背徳者(アポスラート)に対して同じ人間だと思っていないのも、惨めな存在になりさがっている彼らへの憤慨もある。何せ、元は彼もアポスラートとして迫害を受けてきたのだから。

 それでも、背徳者(アポスラート)を守ろうとしていないのは、『もう自分はそっち側の人間ではない』と言いきかせているからである。



「確か、キーテジに行くと言ってましたね。今すぐにでも行って、あの小娘とその仲間を皆殺しにしてやりたいですが。街にはユーイ隊長がいますので、下手に手出しは……」

 バロンは炎の中も平然と歩いていく。

 右手の親指の爪をギリギリッと噛み、顔をしかめながら。

(あの人に敵対するのは避けなければ、気付く前に殺されてしまいます。ならば、当然あの小娘も……)


 燃えさかる炎の中で、これからの自分の進退を考えるバロン。下手な手出しは、バスカルへの反逆と見なされる危険性がある。

 が、しかし。バロンはこのまま手をこまねいている気にはなれなかった。


「必ず私の復讐を果たすチャンスがやってくるはずです。そのときまでーー」

 そう自分に言いきかせながらバロンは炎の中に入っていき、ユラリと姿が消えていった。




まずは、年末連続投稿1日目!(^^)!

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