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12 黒星

お陰様でPV数が1500を超えました!

のんびりマイペースで更新していますが、読みに来てくださる方がいるっていうだけでとても嬉しいです。


 エルピスのメイン通りにある広場は、いまだかつてないほどの熱気に包まれている。


 広場の中央では二人の男が対峙しており、二人を囲むように観客がひしめきあっている。

 勇者の像の真下には、男と女それぞれ二人ずついて、なぜか女性のうちの一人は純白のウエディングドレスを着ている……その正体はーー


「一斗〜、マイのために戦いに勝ってー♪」

 と、ぬかすマイに対して、


「させません! マイさんは私が、レオナルドが頂戴いたします!」

 とか、悪ノリしている決起隊副長のレオナルド。


(お前、クールキャラじゃなかったのかよ)


 ノリノリなその他大勢の熱気に反比例して、心の中でツッコミを入れる度にやる気がなくなってくる一斗は、溜息をつきながら事の顛末を振り返ってみる。




 ***


「で……なんでそんな話になったのか、ちゃんと説明してくれるんだろうな、マイ?」

 俺がいない間に、『マイを賭けた戦いを明日俺とレオナルドですることが決まった』という話をいきなりきかされた。

 説明を求めるのは当然だろ?

 もちろん目をピクピクさせながらな。


「てへっ♪」

「……」

 とぼけるマイにはひとまず無言で問答無用のチョップをくらわし、他のやつらに目で助けを求めてみるとーー


「一斗殿もレオナルド殿もお若いですな。私もあと10年若ければ……」

 と、遠くを見つめて『おーほっほっほ』と呑気に言ってやがるヘッケル。


「か、かずとさん! この際ハッキリさせてください」

 と、なぜかやけに本気でつっかかってくるケイン。何をハッキリさせるんだ?


「おっ、ついにおれたちの仲間から婚約者ができるのか! そいつは愛でたいぜ。頑張れや、レオナルド」

 カッカッカッと、上機嫌でレオナルドをはやし立てるライン。


「はっ! もちろんであります! 一斗殿、マイさんのために手加減はいたしませんぞ」

 と、やる気満々で闘気をぶつけてくるレオナルド。


 もう最後の助けの綱であるティスに目を向けてみると、


(ごめんね、一斗)


(お、おい。ティス、お前もか!?)


(私では止めれなかったの! だから……頑張って一斗)


(まじかっ!?)


 と、目でそんなやりとりをして、途方に暮れた。

 会議に出ていないおれに、『断る』という選択肢は残っていなかったことを悟る。



 ーー事件は、会議室で起こっていたのである。


 ***




 一斗とレオナルドの間にヘッケルが正装で現れた。


「え〜、それでは。マイ殿を賭けた男の戦いを始めます!」


 ワー!!

 っと、さらに興奮して叫び出す観客たち。


「おい、あんた。争いごとは嫌いじゃなかったのかよ?」

 と小声でヘッケルにきいてみると、


「暴力は嫌いです。しかし! 一人の愛する女性を賭けた戦い……こんなに心躍る戦いは在るでしょうか?」

 とマジ顔で答え、逆に意味不明な質問をしてくるヘッケル。


(そんなん知るかよ)


「ルールは簡単。相手に参ったと言わせるか、相手を気絶させること。ただし、殺傷力の高い攻撃は即失格とさせていただきます。よろしいですかな?」

「意義あり!」

「おや、早速一斗選手から意義の申し出が。どうされましたか?」


「どうされました……じゃねぇーだろ! こっちは素手。あいつは槍。どっから見てもあいつ殺傷力の高い攻撃する気満々じゃねーのか?」

「あ〜、俺からいいか? ごほんっ。一斗はおれの戦いでも槍を使ったおれの攻撃を全部素手でさばきやがった……ということは、お前の素手は槍と対等ってこった」

 俺からの意義に対しては、なぜかヘッケルの代わりにラインが楽しそうに答えた。


 お〜。

 という声が観客から発せられると、一斗は自分の主張が何を言ってももう受け入れられないことがわかった。


「一斗選手も納得できたようなので……さて、勝つのは見るからにやる気がない放浪人の一斗殿か! それとも、やる気満々の決起隊副長のレオナルド殿か! それでは、レディ〜、ファイト!!」

 カーン、とベルが鳴り響き、一斗にとって不本意な戦いが始まる。




 さすがに副長を名乗るだけあって、レオナルドは隙きがない。


(一撃でさっさと決めたいが……そうはいかないか。マイの悪巧みに付き合っている暇はねぇーのに……!?)


 一斗が考えごとで一瞬マイに気をそらしたーーそのとき、いつの間にか目の前からレオナルドの姿が見えなくなっていることに気付き、


(ヤバイ!)


 無理やり体を捻じ曲げたところ、さっきまでいた箇所に槍が飛び出てきたのが見える。

 一斗は捻じ曲げた勢いで、さらに地面を転がって距離をとった。


「おや? あなたの油断をついた一撃必中の技でしたのに。まさか初手で見破られるとは……さすが一斗殿です」

 イケメンが爽やかな笑顔で話しかけてきた。


「……当たり前だろ(というか、速すぎてまったく見えなかったぞ……こいつは本腰入れないとやばいか)」



 その後もレオナルドの怒涛の突きに、一斗は避けるかさばくだけで精一杯。


「一斗が一対一であんなに追い込まれるなんて……」

 ティスティは一方的に追い詰められている一斗をこれまで見たことがなかったので、驚きが隠せないでいる。


「相性の問題だろ。一斗もスピードはある方だが、レオナルドは完全にスピード特化型だからな。しかも、レオナルドの方が攻撃のリーチは長い。一斗にとっては、天敵のような存在だろうよ(レオナルドにはまだ隠し技もあるしな)」


 ラインはこの戦いは、圧倒的にレオナルドに分があると踏んでいる。もちろん一斗の戦闘スタイルを知りつくしているわけではないので、未知数な点は多いが。


「どうするのよ、マイ! このままじゃあ……!?」

 ティスティは横からマイの顔を見て話しかけようとしたが、マイの表情を見て何も言えなくなってしまった。


「ありがとう、ティス。レオナルドが強いのはわかっていたわ。でもね……一斗が負けることはないのよ」


 一斗にすべてを委ねている。

 絶対の信頼を寄せて。

 その雰囲気にティスティだけではなく、ラインやケインも飲み込まれ、再び一方的な戦いに自然と意識が向いていった。



(くそっ! 俺の方がこいつより全体的に強いはずなのに……なぜこんなに圧倒されるんだ!?)


 槍を必死にさばきながら考えるが、わからない。こちらから技を繰り出そうとしても、その直前で妨げられてしまう。完全にやつのペースのままだ。


(どうすればいい? どうすれば、俺は……)


「(そろそろ頃合いでしょうか)一斗殿、あなたの強さはそこまでですか? それでは何も本領発揮する前に負けてしまいます、よ!」


「痛ッ!」

「一斗!?」


 避けきれず、初めてレオナルドの攻撃を太ももに受けてしまった。

 グサッと刺さられるのはなんとか回避したが、刺されたところから血がにじみ出てきた。


 痛みのあまり片膝をつく。

(まだまだ動けるが……とてもさっきまでと同じような動きはできそうもないか)


「さぁ、あなたの機動力はなくなりました……これで最後にします。心配しないでください、あなたの代わりにマイさんは私が守っていきますから」


 …………………


 …………


 ……


 そうだよな……

 こんな惨めな負け方をするやつに、大切な人は守れないよな……


『本当にそれでよいのか?』


 だってよ……

 何をやってもあいつには通用しないんだぞ……


『それは、お主が己を活かしきれていないからじゃ』


 目の前には、坊主頭で、白の道着に黒帯を締め、空中に浮かび、あぐらをかいてこちらを優しく見つめる老人がいつの間にか現れた。


「あなたは!?」

 思い出せないけど、なぜか邪険に扱うことができず、つい正座になり姿勢を正してしまった。


『ふぉふぉふぉ。苦戦しているようじゃのぅ?』


「はい……相手よりも自分の方が強いはずなのですが……」

 そして、らしくもなく敬語になる。


『だからいつも言っていたろうに。お主は確かに強い……が、力みすぎると周りがまったく見えなくなってしまって、相手の術中にはまりやすくもあるのが欠点じゃよ』


「相手の……術中」


『そうじゃ。つまり、相手の土俵で何かをしようとするかうまくいかないんじゃ。自分の土俵でやってみなさい。そしてーー』


 ……


 …………


 …………………


(ここまでのようですね……)


 構えをとって一斗殿の姿を改めて捉えるーーすると、


(ん!?)


 先ほどまでまったく感じれなくなっていた気力が、突然溢れてくるのを感じた。


「そうだよな。俺が創り出す世界で奏でる、か……やってやろうじゃないか!」

 小声で何かをしゃべっているかと思いきや、急に大きな声を張り上げて立ち上がった。


「レオナルド、お前に一つ宣言してやる!」

「(ほ〜、この状況で……そうこなくてわ)なんでしょうか?」

 いきなり面白いことを言い始めた一斗に興味がわき、一旦構えを解きいて一斗殿に向き合う。

 そして、彼は私の言葉をきき、ニヤッと笑って右の拳を突き出し、指を五本とも広げ、堂々とこう宣言した。


「これから五秒でお前を倒す!」



 …………。


「何言ってるんだ、一斗は?」

「だよな。さっきまで押されまくってたのによ」

「逆に五秒持つのか?」



 そんな観客の心配する声が瞬く間に広がったが、一斗はまったく心を乱すことなくまっすぐレオナルドを見つめる。


(虚勢……ではないようですね。足は満足に動かせない。攻撃は全部防がれている。そんな状況で、どんな結末を見せてくれるのでしょうか?)



「さぁ〜さぁ、みなさん! 一緒にカウントダウンをお願いしま〜す!」

 一斗はそう言って、周りを取り囲む観客達を巻き込み始める。

 

 なぜいきなりカウントダウンをするのか?

 明らかに演出だと誰もが思った。

 そして、レオナルドはこれから来るだろう攻撃が、一斗の奥の手だろうと察した。



 五!

(さぁ、どんな手でくるでしょうか?)


 四!

(この10メートルくらい離れている位置どりなら)

 ここで、一斗は広げていた指を閉じて拳を作りーー


 三!

(遠距離攻撃にさえ気をつければ)


 二!

(まだです……か!?)

 一気に拳を横っ腹まで引き戻したと思ったら、レオナルドの体が一瞬グッと前かがみになる。


 一!

「これで、終わりだー!!」

 一斗は再び拳を突き出すと同時に、ジャンケンでいうパーを出すとーー


 ゼロ!

 カウントダウン終了と同時に、突然レオナルドは宙に舞い、観客席まで飛ばされた。



「………」

「………」

「………」



 誰もが唖然としすぎて、開いた口が開きっぱなしになっている。


 無理もない。

 先ほどまで明らかに優先だったレオナルドが、いきなり飛ばされたのだから。


「ふ〜、成功……だぜ。おい、審判。判定は?」

「あ、はい! ただいま確認いたします!」

 ヘッケルは一斗に声をかけられて初めて意識が戻り、慌ててレオナルドの状態を確認しにいく。


「……脈はあるようですね。しかし、レオナルド選手は気を失っております」

「当たり前だ。気絶させるように仕掛けたんだからな。それよりも……」


「あ、ごほんっ! レオナルド選手気絶により、一斗選手の勝利です!!」

 ヘッケルは一斗の左手をとり、高々と空に向かって掲げて、一斗の勝利宣言をした。




 勝利宣言とともに、会場となった広場には一斗を中心に大興奮の渦が巻き起こる。


「そこ、怪我してていてーよ!」

 観客となっていた街の人たちに揉みくちゃにされ文句を言ってやるが、なぜか悪い気がしない。

 むしろーー


「か〜ず〜とー!」

「うぁあ、とっ、とっ、と。あ、あぶねーじゃねぇーか、マイ!」

 いきなりマイが抱きついてきて、危うく倒れそうになったじゃないか。

 こいつには一言きつくーー


「やっぱりマイのために勝ってくれたのね! ありがとう、一斗♪」


「ヒューヒュー、熱いね〜お二人さん!」

「このまま二人のために結婚式でも上げるか?」

「お、それはいいな! どうよ、お二人さん?」


 一斗とマイの様子に便乗して、盛り上がる野次馬に対して、


「キャー! 結婚式だって、結婚式! どうしよっか? そんなことだったらもっとおめかしをしておくんだったわ」

 マイもノリノリで話に乗っていく。



「おめーら……」

「あ、やっぱり一斗もきちんと正装したい? それならそうとーー」

「おめーら、勝手に話を……すすめるなー!!」

 自分がいてもいなくても、毎回勝手に話を決められていく一斗であった。




 ◆エルピスのまち 広場内テント


 この後も、広場は大変な騒ぎになっていた。


 一斗とマイをはやしたてる観客たちを中心に盛り上がりすぎて、気絶しているレオナルドさんのことがすっかり忘れられていて。


「ティス、こいつの治療頼むわ」

 一斗に頼みだからもちろん快諾して、横たわることのできるテントスペースにラインさんとケインと三人でレオナルドさんを運んだ。

 そして、治療を始めた頃になると、今度は街の人たちが一斗に体術を教えてほしいとねだりはじめ……初めは頑なに拒否していたようだが、小さな子どもたちに頼まれて、渋々承諾。急きょ、一斗の体術教室が始まったの。


「ティス、レオナルドのことありがとう」

 声のした方を振り向いてみると、いつもの服装に着替えたマイが笑顔でテントの中に入ってきた。


「もうあの服はいいの?」

「あれね……今回あれはお芝居のための道具だったから、もういいのよ。どうやらさすがの一斗もマイたちが何かを企んでいたことに気付いたみたいでね……さっき着替えに戻るとき、感謝されたわ。『サンキューな』ってね」

 そう話すマイは、またあの優しく包み込むような雰囲気で、一斗の方を微笑みながら見つめている。


「それにね。一斗は面倒くさそうにしているくせして、とにかく自分一人で全部背負い込む癖があるでしょ。それが一斗たらしめてはいるけれど、相手の想いばかり優先してるといつか自分を見失ってしまうわ。他人の思惑に利用され続けていずれは……でも、今の感じの一斗ならきっと大丈夫だわ」

「そう、だね」

 同性の私でもマイに見惚れてしまう。これが異性なら……一斗なら……。


「お〜い! マイに、ライン! お前らもちょっと手伝えよー! 俺一人じゃあこいつら全員を全然見きれねーよ」

 泣き言をいっている一斗がなんか可愛く感じて、私とマイは顔を合わせてつい笑ってしまった。


「しゃーねーな。一斗、これで貸し借りはチャラだからな! 嬢ちゃん、レオナルドのことを頼むな」

「はい、もちろんです! 一斗のこと、頼みます」

「おぅ、任されたぜ!」

 そう言うと、ラインは私に向かって握りこぶしをつくってみせ、意気揚々と一斗のもとに歩いていった。


 ラインさんは体つきがごついから一見怖そうに見えるけど、さすが大所帯の隊長さんだけあって気配りもでき、とても優しい。

 今回の件も、一斗の状態を察したラインさんからの提案があったからこそ実現したようなものだ。


「本当に一斗は恵まれてるわね……」

「そりゃあ、なんせ私たちのような美女がいつもそばにいるし、ね?」

 慣れないウインクをして、今のような発言を私がするが珍しかったからか、マイは一瞬驚いた顔を見せたが……しだいに喜びに溢れた表情になり、満足そうに頷いて一斗のもとへと駆け足で向かっていった。


「ティスティ殿、それでよかったのですか?」

「……レオナルドさんこそよかったのですか?」

 レオナルドさんがマイと話している途中に目覚めていたのは気付いていた。だから、意地悪な質問には意地悪な質問で返すことにした。


 レオナルドはフッと笑い、フラフラなりながらゆっくり体を起こしていく。


「あ〜。駄目ですよ、レオナルドさん。まだゆっくりしていないと」

「いえ……私はもう大丈夫です。それより……私はやっぱり負けてしまったのですね」

「……それにしては」

 負けたわりには悔しそうにみえないと感じた私に気付いたのか、


「……作戦が成功してなによりです。彼の中で何があったか知りませんが、明らかに何かが変わったと思います。私がどうやって負けたのか、ティスティ殿はわかりましたか?」

 レオナルドさんは話を『あの戦い』に変えた。


「ええ、おそらくは氣功術を使ったんだと思います」

「氣功術……あなたも氣功術の使い手と伺っていますが、氣功術はあんな一瞬で相手に影響を与えることができるのでしょうか?」

 レオナルドからすると、そこが疑問だった。遠距離からの攻撃は警戒できていたはず。

 なのに、それをあざ笑うかのように自分の急所……顎やみぞおち辺りに五連打をくらわされたのである。


「それはーー」


「ちょっとしたトリックを使ったんだよ」

「一斗殿!?」「一斗、どうしてここに?」

 今度は一斗がテントの中に入ってきた。


「あぁ、マイのやつに言われてな。『ずっと治療をすると疲れるでしょ? 代わってあげてね』って、反論できない笑顔で言われてな。まぁ、今回は俺のためにやってくれたことだし……さ」

 頭をポリポリかきながら、バツの悪そう顔で私たちを見つめてきた。


「……かたじけない、一斗殿」

 レオナルドは一斗の心情を察して、一斗の好意を快く受け入れた。


「まぁ、肉体的なダメージはもうほとんどないだろうから、今日一日休めば良くなると思うけどな」

 一斗はそう言いながら私と治療当番を入れ替わってくれた。

 なので、確認しておきたいことを聴いておこうと思う。


「それは、さっきの技と関係しているの?」

「……そうだな。じゃあただ単に種を明かすんじゃつまらんから、二人には今から出すクイズに答えてもらおうか?」

 一斗は一旦治療の手を止めて、右手で三本指を立てる。


「それでは問題です。俺がレオナルドに技を仕掛けたのは、次の三つのタイミングのうちどれでしょう?

 ①戦い開始直後

 ②カウントダウンを開始した直後

 ③カウントダウンが終了する直前

 どれだと思う、レオナルド?」


 話を振られると予想していたレオナルドは、慌てることなく親指と人差し指で顎をはさみながら考えている。


「……①はまずないと。となると、②か③のわけですが……③でしょうか?」

「……その理由は?」


「①ではないのは、最初の時点で仕掛けができているなら、いつでも決行するチャンスはあったはずでから却下です。

 ②ではないのは、攻撃する仕草を見せていなかったから……といっても、こちらはあまり答えに自信がありませんね。結局消去法で③といった感じです」

 ヤレヤレといった仕草をするレオナルド。どれも正解のようで、不正解な気がして納得がいっていない。

 けれど、自分はその仕掛けをくらった張本人である。目に見える攻撃には十分に注意を払っていたはずなのに……。


(んっ!? ということは、目には見えない仕掛けを……)


「おっ、レオナルドは何か気付いたみたいだな。ただ、ティスが答えるまでは待ってな。ティスは何番だと思う?」

 一斗が私を見て回答を求めてくる。

(答える番を待っていたわ、一斗)


 今回考える上で重要なポイントは二つ。

 一つはどんな種類の氣を操ったのか?

 もう一つは、それに応じた技を仕掛けたタイミングだわ。

 一部始終把握できたわけではないけど……一斗が何気なく言ったヒントと、カウントダウン終了間際の一斗の様子。


「(となると、答えはーー)②だわ」


「……(すぐに答えることができる……やはり、ティスティ殿は何か気付いたのですね)」

「ほぉー。即答だなティス(これは答え合わせが楽しそうだな)」

 二人の関心が私のところに集まったのを感じる。急激に鼓動の高まりを感じたので、目を瞑って一度大きく深呼吸して準備を整え、話し始めることにした。


「まず私の推測では、一斗は<黒星>という氣を用いたオリジナルスキルを使ったわ……どう一斗?」

「……続けて(やはり見破っていたか、ティス)」

 一斗の催促に私の推測が合っていることを感じ嬉しくなったが、気を取り直して説明を再開する。


「<黒星>の特徴は、練った氣を相手に飛ばして貼り付け、その貼り付けた的に干渉を加えること。

 ここで問題が二つあって、一つ目は貼り付けた氣はずっと維持しておく必要があること。つまり、それに集中し続ける必要があるわ。だから、①の防戦一方だったときから仕掛けておくのはまず不可能よ。

 もう一つは、<黒星>を仕掛けるにはまず氣を練っておくことが大前提で必要だわ。とすると、氣を練って、それを貼り付ける時間がなかったから、③もなしね」


 あのときのシーンを思い出しながら答えていく。そもそも私が一斗が何か仕掛けたことに気付いたのは、③のときに一斗とレオナルドさんの間に一瞬だけ蒼色の線が見えたからだ。


「……」


「どう、一斗? 私の推測は?」

「……きっとティスの頭の中には、②である仮説が立っているんだろ?」

「ええ、もちろんよ!」

 ここで私のこれまでの修行の成果を発揮してみせるわ。


「よし! じゃあ、ここまででレオナルドから何か質問はあるか?」

「し、質問と言われましても……そもそもその<黒星>を知らない以前に、氣のこともほとんどわかっていませんし(ただ、だからこそ興味はありますね)」

 レオナルドの返答に満足したのか、一斗は立ち上がってティスティの方に体を向ける。


「それじゃあ、ティスにあのときの再現をしてもらおう。ティス、いけるか?」

「もちろんいけるわ! そうくると思ったよ」

 そう、いつも一斗の訓練はこんな感じだから。

 見たことをまずやってみる。感じたことをまず話してみる。

 それは、私だけではなく一斗も同じような感じでやっている。初めの頃は失敗したらどうしようとか、こんなこと言って大丈夫かとか。色々考えてしまっていた。

 だけど、一斗自身が取り組む姿勢をずっと示してくれていたから、私は失敗を恐れることよりも、まずはやってみることの楽しさを感じられるようになってきている。


「そいじゃあ、俺がレオナルド役。ティスが俺の役で。最後の技を放つ寸前までな……いいか、寸前まで……格好だけだぞ!」


 私が不服そうな顔をして焦ったのか、一斗は念を押してきた。

(確かに、私もこの技を受ける側になりたくないけど、ね)


「ごほんっ! じゃあ、まず俺が傷を負って膝をついたところから」

(そう、ここから一斗は氣を練っていたんだ)


「次に、レオナルド(俺)に向かって宣言をすることを表明して、レオナルド(俺)はそれを受け入れた」

(このときに技を仕掛ける状況をつくっておき……)


「その後、ティスは宣言をして……観客を巻き込み……カウントダウンをはじめる」

(この時点で仕込みは完成させて……)


「五……四……」

(ここで全身で練った氣を右手に集める!)


「三……ニ……」

(集めた氣を……)


「一……ゼロ!」

(放つ!)



 レオナルドは一連の流れを客観的に見てみたが、どこで仕掛けられたのかがやっぱりわからなくて、悔しい表情をしめした。


「客観的にみてみても、わかりませんね。むしろ、どこも疑わしく感じてしまって……」

「確かにな(氣のことを知らないんじゃあ仕方ねぇーよな)……じゃあ、ティス。種明かしを頼む!」

 一斗の合図で、私は体内で練っていた氣を外に放出した。


「紅い……線?」

 ティスティの右手の指先から紅い線が伸びていて、一斗の急所まで繋がっている。


「そう、これがあんたに仕掛けたものの正体さ。要するに、俺は宣言をするどさくさに紛れて、練った氣の一部をあんたに向かって的を放つ。

 そして、いかにもカウントダウンの最中に攻撃をすると思わせるために、観客を巻き込む。

 あとは、放った的に対して、物理的にダメージを与える氣を防御不可能のゼロ距離からぶつけたって寸法さ。

 急所である的を射抜く技だから<黒星>、ピッタリのネーミングだろ?」

 レオナルドは楽しそうに語る姿を見て、これまで見てきた一斗のぶっきらぼうな態度と異なることに、また一つ一斗の魅力を感じた。


「そう、ですか。では、私はあの時からあなたの世界の引き込まれていったのですね……完敗です、参りました」

「そんなことはねぇーぜ、レオナルド」

 頭を下げて完敗の意を示したが、一斗はそうではないという。


「あんたと俺とでは、戦ってきた経験値が違いすぎる。全体的な能力は俺にアドバンテージがあったとしてもな。十回戦って、一回俺が勝てるか勝てないか……今回はたまたまその一回だっただけさ」


 本音でそう思って話している一斗を前にして、レオナルドは感じるところがあった。


(なるほど。なぜあなたが隊長やマイさん、ティスティ殿をはじめとしたみなさんに好かれているのか……わかった気がします。だから、今回のようなことを企てたのですね)


 悪戯に成功したときのような表情をしながら、手の内をサラリと全部話してしまった一斗。

 その一斗に髪の毛掻きむしられながら、技を見抜いたことを褒められ極上の喜びを感じているように見えるティスティ。


(隊長が自ら力を貸したくなるわけです。そして、私も……ならば)

「一斗殿、もしよろしければ氣の扱い方の基礎を教えていただけないでしょうか?」

「その言葉待っていたぜ! 実は明日の早朝もティスティとの修行をやるから、一緒にどうだ? なぁ、ティス」

「え!? ええ〜、もちろん! ちょうど一斗以外の人と組み手をしてみたいと思っていたところなの。レオナルドさん、よろしくお願いしますね」


(二人っきりじゃなくなるのは残念だけど……一斗の頼みならしょうがないわね♪)

 という感じがティスティから伝わってきた感じがして、レオナルドは苦笑した。


「えぇ、こちらこそよろしくお願いします」

 この人たちと一緒にいると、これまでにはない流れが起きてくる気がして、レオナルドはそのことに喜びを感じた。


(今まで影で活動するしかなくどこへ行っても煙たがられていた我々が、今では街のみなさんと共に行動している。この変化がどういうことかわかりますか、一斗殿?)


 じゃれあい続けている二人に対して微笑ましさと、広場全体の活気を感じながら、レオナルドは疲れを癒やすために再び眠りにつくのだった。





 第二章 真実のまち編  了

 next contine 『第三章 反逆のまち編』




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