第1章 8話
この平和な秋葉原で、ただ一人深刻な表情で走り回る少女がいる。
それはかなり違和感を感じる。
他の人も何事かと目線を送ったりするが。
それが精一杯でしょう。
何かイベントが行われるのに、遅刻しそうという風にも見える。
そしれ、残念ながら秋葉原には心当たりがありすぎる。
平日であろうとも、あちこちでミニイベントみたいのは行われている。
何も休日だけやるとは限らない。
でも私はそうは見えない。
もっと一大事な事のように見える。
そして、そこにたどり着けない事に苛立ちを覚えているみたい。
原因は大通りで起きた交通事故。
何が原因かは分からないけれど。
車道はもとより歩行者用通路も通行止めにしている。
おそらく事故の証拠品が飛び散っているせいだろう。
たしか彼女の目的の秋葉原ダイビルはと。
これは。
かなり困った事になっている。
「少しいい?」
「え?」
私は彼女を引き留めた。
「私は山田・クリス・恵子。ちょっと気になって後を付けたんだけど」
「あっ、さっきの人ですね。私は坂本凛です」
「さっき秋葉原ダイビルに行きたいって言っていたわよね?」
頷く。
「残念だけど、しばらくは無理みたいよ」
「何故?」
私は大通りを指さす。
「間の悪い事に、ちょうど目の前で事故が起きているの。少なくともあの事故の処理が終わるまでは入るのは無理ね」
そう。
たまたま事故が起きた場所が、秋葉原ダイビルの目の前。
警察の調査が終わるまでは、正面からは入れない。
そして裏口があるにしても、関係者以外は通行は無理。
つまり彼女があの中に入るには、この事故の処理が終わるまで待たないといけない。
「なんで!?なんでここで事故が起きてるの?」
「それは知らないわ」
運が悪いとしか言いようが無い。
何かもの凄く重要な用事があるみたいだけど。
残念ながら待つしかない。
「そうじゃないの!この時間に事故が起きてる訳がないの!」
え?
この時間に事故が起きている訳がない?
まるでこの事故は本来あり得ないとでも言いたげ。
なんなの、この子?
「どいて!あそこをなんとしても抜けなきゃ!!」
押される。
「待ちなさい!」
咄嗟に腕をつかむ。
「離して!!」
「前を良く見なさい。姿鏡にぶつかる所だったわ」
もっとも、私が引き留めなきゃぶつかる事も無かったかもしれないけれど。
それでも彼女の事が気になってしまった。
そして先ほどの言い回し。
何が起きるって言うの?
「ごめんなさい。通路からはみ出ていた鏡に気づかなかったなんて。危ないからちゃんと直さなきゃ」
やっと冷静になれたみたいね。