第5章 3話
-一条みなみの場合-
私の目の前に坂本凛と名乗る女性が言っていた研究所が現れた。
それは見ただけで、何の装置か分かった。
私は機械装置等の知識は人一倍ある。
だからこそ、それは説明されなくても分かった。
大型ハドロン衝突型加速器、通称LHC。
確かあれは陽子をぶつけて素粒子を観測する為の実験装置だったはず。
それが何故この日本で?
しかも、この秋葉原のダイビルの地下にあるなんて話、聞いた事も無い。
何故なら素粒子実験というのは世界的な実験プロジェクトだから。
この施設を作るというだけで、膨大な金額が生まれるし、注目も浴びる。
それだけの物があるにも関わらず、誰にも知られていない。
あれは!?
思わず物陰に隠れる。
あれは忘れる訳が無い。
私の働いている工場にやって来た、ヤクザの親分と思われる人物。
なんでここに?
もしかして、私が侵入されているって事がバレている?
「どうだ?そっちは」
研究員と思われる方が聞いているみたい。
「意外に上手くいってる。わざと泳がす事で警察の目を逸らす事には成功した」
え!?
どういう事?
「つまり、あなたはあいつらの計画に利用されたのよ」
坂本さんが説明する。
「どういう事!?」
「これまでも秋葉原の事件に巻き込まれた人を知っているけど、全てに共通するのは注意をそっちに逸らしておいて、ここへ不審な人物が出入りしているのを誤魔化そうって事。ここまで秘密裡に動いていたけど、今日は実験を行う日だから、動きが活発になるのはどうしようも無いって訳」
それじゃあ。
「私の借金は?」
「おそらく、本気で取り立てようとは思っていないみたいね。泳がせて騒ぎにさせておいて、ダイビルに注目させないようにしていた」
そうか。
だから、あいつら中央通りの西側を中心に集まっていたのね。
ダイビルから離れた所にいれば、そっちを中心に動かざるを得ない。
そういう事ね。
あっ!
機械が動く音が聞こえる。
そろそろ実験が始まるのね。
「あれは?」
「ブラックホール生成器。それを使ってタイムトラベルを行うのが今回の実験目的」
タイムトラベル!?
「そんな事を本気で!?」
「理論的には可能とされているわ。ただしあくまでも理論的にはね」
そうか。
確か実験は失敗するって言っていたわね。
「見て。あれがブラックホールよ」
あっ。
LHCの陽子が衝突する部分に、黒い靄のようなのが出来ている。
あれがブラックホール。
それが突然大きくなった!
「なんだ!?」
慌てる研究員達。
「失敗ね」




