第4章 8話
着々と準備が始まる。
あと30分ほどで実験が始まる。
失敗は目に見えている。
「ねぇ。今のうちに妨害出来ないかしら?」
「それは無理だと思う。下手に見つかったらどこかへ閉じ込められると思うけど、こっちは二人しかいないのに研究員は大勢いるみたいだし」
確かに。
しかも、どこが急所なのかも分からない。
適当な所を破壊しても、すぐに復旧するようでは意味が無い。
確実に止めれる所を狙うしか無い。
でも、そこはおそらく一番中央にある操作盤。
あそこへの道のりは遠い。
まず、間違いなくたどり着く前に見つかる。
今、こうして見つかっていないのが奇跡なくらい。
それほど、みんな実験に集中している。
もちろんそうだろう。
これからブラックホールを生み出し。
それをコントロールしてタイムトラベルを行う実験をするんだから。
ほんの少しのミスが、大きな失敗を生む。
あれ?
そういえば。
「今気づいたんだけど、なんで実験で失敗したのかしら?普通コンピューターでのシミュレーションを繰り返し、失敗しないようにするはずだけど」
内容が内容だから、慎重に事を進めないといけない。
なのに、失敗した。
「そこまでは分からないわ。いくらコンピューター上でいくつもの想定はするでしょうけど、実際には想定していない出来事というのは発生する。何か実際には起きてはいけない事が起きたとしか言いようがないわ」
ついに起動音が響き渡る。
いよいよ実験開始が近づいて来たわ。
「しかし、ダイビルに地下があるってのも知らなかったけど、日本にも大型ハドロン衝突型加速器があるとは思わなかったわ」
え?
「大型?」
「大型ハドロン衝突型加速器。私が所属している欧州原子核研究機関にもある装置の一つで、主に素粒子観測実験に使うの。分かりやすく言うと二つの陽子を光に限りなく近いほどのスピードで衝突させてその際に発生する素粒子を観測するのが目的」
へぇー。
「あれ?これはブラックホールを作る為の機械じゃないの?」
「ええ、本来は。ただ素粒子を衝突させる際にブラックホールが生成される可能性は危惧されていたし、実際、ほんの一瞬とは言えブラックホールは発生していたわ」
えぇ!?
「それで無事だったんですか?」
「ええ。ブラックホールを維持するってもの凄いエネルギーが必要なの。それこそ太陽ほどの大きさが圧縮されて月くらいの体積になった時のエネルギーくらいあれば出来ると言われてるわ。でも地球上でそんなエネルギーを作る事はまず無理だし、ブラックホールは出来たとしてももすぐに消滅しちゃうの」
「だったら、なんでここではブラックホールが出来ちゃったんですか?しかもこの研究施設だけでなく秋葉原すらも飲み込もうとしていました」
「それは分からないわ。理論上は維持するための物質はあれこれ考えられているけど、どれも実際には存在は確認されていない物ばかり。だからタイムトラベルは事実上不可能とされていたの」
つまり、その何かがあるって訳?
「だから、ここの研究機関はその何かを見つけたから、こんな実験を行っているって訳よ。しかも極秘で」
確かに。
私もお父さんから聞かされ無ければ、そんな実験をしているなんて知らなかった。
「あっ、そろそろ始まるみたいよ」
中央のガラスの向こうにある機械も、本格的に動き始めた。
私も一度見た事のある光景。
いよいよ始まるんだわ。




