第1章 2話
バスは順調に走ってはいるが、車内はとんでもない事態になっている。
乗客はバスジャックを除いて6名。
俺と同い年くらいの女性が一人側にいる。
後は後ろの座席に高齢の男性と女性が4人。
確かにこの時間はあまり乗客も来ないし、このルートは秋葉原を回るだけなので高齢の人が多いとはいえ。
後ろの4人は頼りにする事はあり得ないだろう。
そしてこの側にいる女性になんとかして欲しいとは思っていない。
となると、俺しかいない。
だが相手は大の男二人。
一人はじっと運転手を見ている。
そういえばバスにはバスジャック用にSOSを出す為のボタンとかが備えてあるって聞いた。
おそらく、それを阻止する為に、ここに二人いるんだろう。
一人は運転手用に、もう一人は乗客用に。
そして目の前には時限爆弾がある。
幸い、タイマーは作動していない。
つまり、時間で爆発する危険性は無い。
とはいえ、爆弾である事には変わらない。
万が一、強い衝撃を受けた場合には爆発して、みんな死んでしまう恐れがある。
拳銃だけなら、最悪致命傷を避ければなんとかなるかもしれない。
だが、これはどうにもならない。
その為の抑止力って訳か。
しかし問題は、こいつらはバスジャックして何が目的かって事だ。
今の所、普通に走ってるだけで何の要求もしていない。
どこか目的地があるのか?
いや。
外を見る限り秋葉原の街並みを走っているだけだ。
普通に信号も守っている。
しかしこいつら、立ち位置等かなり気にしているな。
外から見ている分には、普通に運転手の側に立っているようにしか見えない。
バスというのは、案外中は見えにくい。
だからこそ、外へSOSを出す仕組みが用意されている。
それを防がれた今、このバスは普通に走っているようにしか見えないだろう。
しかも、目的地を回送に変えている。
これで外からは怪しまれずに済むって訳か。
だが、そんなのはそう長くは続かないだろう。
まずはこいつらの目的を探らないと。
だが、下手に動いたり喋ったりすると危険になる恐れもある。
それもあって、車内は静かだ。
誰も刺激したくない。
そのせいで死にたくないから。
拳銃と爆弾という非日常な物が思考を麻痺させていく。
これは悪夢で、覚めたらいつもの日常が待っていると思いたくなる。
そうじゃない。
これは現実だ。
認めたくないが、一歩間違えば死ぬ瀬戸際の世界にいる。
どうすれば。
「うわっ!」
なに!?
運転手が何かに驚いた。
「なんだ!?」
男たちも驚いている。
うっ!
外から強い光がこっちに届いている。
あまりにも突然で、不意打ちを受けてしまった。
バスの動きが歪む!
慌ててバスの正面を見た時は遅かった。
そこには止まっていたトラックがあった。
トラックにぶつかる!
あっ、と思った時には遅かった。
ぶつかった時の衝撃で爆弾にも衝撃を受け。
轟音と共に爆発する瞬間を目の当たりにした。
バスジャック:和製英語。本来は交通機関を暴力等で奪取する事を全て「ハイジャック」と呼ぶ。