第1章 11話
「お帰りなさいませ!ご主人様」
今日も、ここ秋葉原のぴなふぉあは大盛況である。
普段の自分とは違う自分を見つけたくて挑戦の意味も込めてやってみたこのアルバイト。
割と普段の自分とは違う自分を演じているような感覚もあり、楽しく働いている。
そしてここ「ぴなふぉあ」は昔から営業しているとあって、常連客も多い。
そういう人達に気に入って貰えれば、ある程度稼ぐのも難しくない。
もちろん、節度を守るのが一番なんだけど。
ここに来たご主人様を気持ち良く送らせる事が私の最近の楽しみ。
この空間にいる間だけは、普段の事を忘れてもらいたいし、私も普段を忘れたい。
そんな異空間を醸し出しているのが、メイド喫茶だと思っている。
ふぅ。
お客もだいぶ落ち着いたみたいなので、ちょっと休憩。
「ねぇ。聞いた?」
え?
「何がです?」
同じメイド仲間の藤崎さんが声をかけてくる。
「どうも、売上の数字が合わないみたいなの」
売上が!?
「ちょっと待って、なんで?」
レジを担当している人は決まっている。
長年ここで働いているベテランでもある。
信用のある人に任せているはずだけど。
「それが、彼女も不思議だと言ってるの。そりゃ100円200円間違えたって話なら、ここまで深刻にならないんだけど、どうも万単位で足りないみたい」
万!?
かなりの金額が足りないって事になる。
「店長はこの事は知ってるの?」
「えぇ。もちろん報告済みみたいよ」
そうなると、ますますレジ担当の人って線は薄い。
そんなにお金に困ってるなんて話は聞かないし、万が一そういう事態になっても正直に店長に相談するタイプだから。
陰でこっそりお金を抜くタイプじゃない。
かと言って、他の人がレジを担当する事は無い。
彼女が休憩の時は店長が代わりにやっている。
でも騒ぎになっているという事は実際に起きている事。
変な事も起きるものね。
ここは全員きちんと話し合いをしたい所だけど。
残念ながら、ここは学校ではない。
学校では生徒会長をやっている私だけど。
この店では単なるバイトの一員に過ぎない。
しかも働いてまだ期間も浅い。
あまり出しゃばった事は出来ないでしょう。
それに、何の権限もない私がやる事じゃない。
こういうのは、まず店長が動く事。
その店長がまだ動いていない以上。
ここは黙って見守るしかない。
そして、ちゃんと働く事のみ。
「そうそう。あなた達いい?」
店長が私と藤崎さんを呼ぶ。
「このチラシを配ってお客を呼んでくれる?」
まずは紛失した分を補てんしようって事ね。
しょうがない。
そういう判断をしたなら、アルバイトの私達は従うのみ。
「分かりました。行ってきます」




