◆胸踊る女神さま
◆胸踊る女神さま
俺の目の前の茂みから、女の人がゆっくりと立ち上がった。
朝日が昇ってきたからか、そのひとの周りだけが、ぼわっと光り輝いている。
「あなたは・・・」
それ以上は声にならなかった。 その人の美しさに、ただ見とれていた。
少しの間をおいて、その人が声を発した。
「わたしは、天宇受売命」
「アマノウズメ? どっかで聞いたような・・」
「時間がおしい。 急ぎましょう。 わたしについて来てください」
「ついて来いって・・」
そこで、俺は我に返った。
「それどころじゃない。 妹がたいへんなことになってて、助けを呼びに戻るところなんです」
「わたしと一緒に来てくれれば、必ず妹さんに合わせてさしあげましょう」
「えっ、何? どうして木花のことを・・」
「その説明は、移動しながらお話ししましょう」
その人は、俺の手を取りつなぐと脱兎のごとく走り出した。
「わたしのことは、ウズメと呼んでください」
ウズメという人を改めてよく見れば、変わった服を着ている。
そして、巨乳なお姉さんだった。
結構な速さで駆けていることもあって、胸が上下に波打っている。
なんだか手をつないで駆けるなんて、小学校の運動会以来で急に恥ずかしくなる。
「あの・・手、手を離してくれませんか」
「手を放すと駆けるのが遅くなってしまいます」
そう言われて気づいたが、いま尋常じゃないスピードで走っている。
足の運びとスピードがぜんぜん合っていない。
ずっと揺れる胸元を見つめていたのか、前方を見れば知らない道を疾走していた。
「いったい、どこへ行くんですか」
「黄泉の国」
「えっ? いまなんて?」
「黄泉の国へ行くためのもう一つの猪目洞窟へ」
「黄泉の国って・・」
もしかしたら、夢の続きを見ているのかも知れない。
そうだ。 あの夢はきっとまだ覚めていないんだ。 だとしたら、目が覚めれば木花にあえるじゃないか。
俺はゆっくりと目を瞑った。