◆黄泉の国へ
◆黄泉の国へ
木花ちゃん。 わたしは、あなたをこれから黄泉の国へ連れて行かなければなりません。
怖い思いや辛い思いをたくさんさせてしまうでしょう。
でもこれしか方法はない。
ウヅメの方も、しっかりやってくれれば、必ずや現世に戻れるでしょう。
「サクヤさま。 もうだいぶ歩いているんですけど、あとどのくらいかかるの?」
「サクヤでいいですよ。 少し休みましょうか?」
「なら、サクヤ。 あたし、おなかすいちゃった」
「それなら、少ししかないけど、これをお食べなさい」
わたしは木花ちゃんに、持っていた木の実の袋を渡してあげた。
黄泉の国に入って、そこで煮炊きしたものを食べると、もう現世に戻ることはできないから・・
パリポリ
「うん。 これ凄くおいしい♪ ねえ、どこで買ったの?」
「あぁ、それは、友達(オホゲツ比売)からもらったの」
「なんだ、売ってないのか。 ざんね~ん」
ここから先は、何がでるかわからないから、そろそろ木花ちゃんにアレを渡しておいたほうがいいわね。
わたしは用意してきた、衣と太刀を取り出した。
「木花ちゃん、ちょっといいかしら」
「なあに、サクヤ」
「はい。 まずは、これに着替えて。 あっ、それから神力が弱まるから下着は付けてはダメよ」
「なになに、これを着るとサクヤみたいに光るの?」
「うふふ、ざんねんでした。 光りませ~ん」
「うん ちょっと格好いいかも♪」
着替え終えた木花ちゃんは、両手を広げクルクルと回って、まるで天宇受売命が天之石屋戸の前で踊るかのように舞っている。
「それと、これね」
わたしは、木花ちゃんが扱えそうな刃長が2尺の太刀とそれを腰から吊るすための太刀紐を渡す。
「えっ・・これって」
「使い方は、あとで説明するから、まずは装備して」
「サクヤ・・これって、刀だよね。 なんでこんなものが必要なの。 あっ、分かった。 もしかして、この奥にコスプレ会場とかあったり・・して・・」
わたしの真剣な顔を見て、木花ちゃんは黙り込む。
「ねぇ、つけ方わからいんですけどぉ」
しばらく考え込んでいた、木花ちゃんがわたしにヘルプを求める。
「ここをこうして。 こっちをこうするの。 けがをしないようにね」
「うん・・」
「それじゃ、簡単に使い方とか注意することを説明するわね」
わたしは、木花ちゃんにわかりやすいように順番に説明した。
壱:衣は、たいそう丈夫で、火や水、暑さや寒さを凌げ、また刀や矢からの攻撃も防ぐことができる。
弐:衣を着ることで、パワーアップし、うまくコントロールできれば、1回のジャンプで数百メートルは飛べる。
参:衣からほぼ1メートルの範囲に風の流れを起こすことができ、防御と攻撃(かまいたち的な)ができる。
四:太刀は神力を宿しており、切り裂くことのほかにも、振るうことで衝撃波がだせる。
伍:太刀に名を授けることで、その名を呼べば手元に戻って来る。
「基本は、こんなところだけど分かったかしら?」
「うん、なんとなくは」
「慣れるまでは、操るのが難しいから気を付けてね」
「サクヤ、分かったわ。 任せなさい!」
木花ちゃんは親指を立てて、にぃと笑ったが、わたしは正直不安を隠せなかった。
「で、サクヤ。 なんで刀が必要なの?」
「あらあら、わたしったら、肝心なことを話すの忘れてたわ」
「なに、そのテヘペロ。 神様もそんなの使うの?」
「それでは、ちょっと長くなるけど、本題の方を説明するわね」
わたしは、少しオコになった木花ちゃんを宥めながら、肝心な話しをし始めたのだった。