◆火雷(ホノイカヅチ)と八上比売(ヤカミヒメ)
◆火雷と八上比売
火雷は、じりじりとあたしとの間合いを詰めてくる。
背中はとっくの昔に、洞窟の壁に張り付いたままだ。 逃げ道は、とっくに絶たれている。
火雷ひとりと戦うなら、黄泉軍100人の方がまだ勝てる気がする。
「どうした? おぬし腰が引けているぞ。 そんなことで火雷さまに勝てとうと思っているのか?」
そうよ、どうやったら勝てる? 追いつめられているのに、なぜか冷静に考えているあたしがいた。
あっ。
ふっと、おととい友達の典ちゃんとやった、ゲームで似たような場面があったのを思い出す。
え~と、あの時は、どうやって敵を倒したんだっけ・・・
確か・・
ヒュンッ
わっ
「どうした。 ぼぉーとしてると、次は心臓を貫くぞ!」
火雷の放った大槍のひと突きが、あたしの首筋をかすめる。
もうダメ・・ どうしても思い出せない。
あたしは、ギュッと目を瞑った。
ザザーーッ
ドォーーン
その時、あたしの前で何かが素早く動いた。
「木花ちゃん、またせてごめんね」
目を開けると、サクヤがあたしの前にいた。
「サクヤ~~~」
あたしは腰が抜けて、その場にへなへなとしゃがみ込んでしまった。
キンッ
ガッ
キン
一瞬の間もおかず、目の前ではサクヤと火雷の激しい戦いが始まった。
二人の力は均衡しており、一進一退だ。
ザッ、ザッ、ザッ
ふと気付けば大勢の者が歩く音が近づいてくる。 そう、残っていた黄泉軍が、こっちに向かって来ている。
あたしは、力を振り絞って立ち上がった。
天羽涼風、頼んだよ! あたしは、祈りを込める。
パァーーッ
すると突然、天羽涼風が輝きだした。
うそっ。 これってもしかしたら、天羽涼風がパワーアップしてる?
次の瞬間。
ガガーーン
もの凄い地煙とともに、サクヤがあたしの横に吹き飛んできた。
ぐっ・・
「サクヤ、大丈夫?」
「つ、強い。 流石に八つはしらの雷神の中で、一二を争うと言われているだけのことはあるわね」
サクヤは、切れた口から流れる血をぬぐいながら、あたしには答えずに、こちらをちらっと見た。
あたしは急に不安になった。 もしかしたら、あたしたち負けちゃう。
そんな思いが伝わったかのように、サクヤが口を動かす。
「大丈夫。 木花ちゃん、心配しないで。 こっちもいま助っ人を呼ぶからね」
サクヤが首から下げていた小さな貝笛を手に取り、ひと吹きするとあたりの景色がゆらゆらと揺れ始めた。
そして、その女神は突然目の前に出現した。
「佐久夜比売、待たせたかしら? 湯浴みをしていたので少し遅くなってしまったわ」
「そうだったの? 八上ちゃん、急にごめんなさい。 でも、すこ~しピンチだったの」
ヤカミと呼ばれた女神は、手に虹色に光り輝く薙刀を持っていた。
こんどは、火雷の槍とヤカミの薙刀の戦いが始まった。
次回、「八上比売」へ続く




