◆だから大丈夫かっていったじゃない!
◆だから大丈夫かっていったじゃない!
あの日、僕たちは、こんなことに巻き込まれるなんて思ってもみなかった。
本当に・・・
「おにいちゃん、絶対に大丈夫だよね?」
そう不安そうに俺を見ながら、妹の木花が聞いてくる。
「木花、さっきから何度おなじことを聞くんだよ。 安心しろ。 少なくてもあの洞窟ができてから、何百万年もの間、崩れてないんだから絶対に大丈夫だ」
「そういう事じゃなくて。 あたし、お化けとかほんとうにダメだから・・」
木花は僕のTシャツの裾を握りしめて、涙目で後をついてくる。
「だから、家で待ってろって言ったじゃないか!」
どうしてこういう状況になっているかと言えば、ついさっき見た自分の夢せいだった。
どんな夢かというと、うちの裏山にあるこの洞窟の中から助けを求める女の子の声が聞こえてきて、助けに行く途中で目が覚めたのだ。
その夢が、あまりにリアル(花や森の匂いもすれば、風も感じたし、すべてのものに色がついていた)だったので、実際に確かめてみたくなったのだ。
で、着替えたり、懐中電灯など必要なものを準備したりしていたら、木花を起こしてしまった。
「おにいちゃん。 こんな時間にどこに行くの?」
木花は目をこすりながら、寝ぼけ声で訊いてきた。
「大丈夫、すぐに戻ってくるから、おとなしく寝てろって」
「だって、今日はママもパパも町内会の旅行でいないのに。 あたしひとりになっちゃうじゃん」
「窓は鍵がかかってるし、俺が出たら玄関の鍵をかけておけば問題ないだろ」
「やだよ。 どうしても行くならあたしも一緒に行く」
「え~。 面倒くせぇな。 おまえパジャマなんだからおとなしく留守番してろって」
「なら、すぐに着替える~」
そう言うなり、木花はパジャマのボタンを上から外し始めた。
「わわっ、 おいっ。 そこで脱ぐなよ!」
木花は中学2年の俺の妹だ。 小さいころから、俺の後をついて来たが、未だに兄離れしないって問題だろ。
てな訳で、現在に至るんだが、辺りは真っ暗闇で風も強くなって来たし、なんだかさっきから顔に冷たいものがあたり始めた。
「おい、木花。 もう少しで高天原の洞窟だ。 雨が強くなる前につけるよう、少し急ぐぞ」
高天原っていうのは、その洞窟が日本神話に登場する天岩戸に似ているので、俺が勝手に呼んでいるだけだ。
洞窟の入口の横に、蓋ができそうな大きな岩があるからそう呼んでいる。
おそらく、山の上の方にあった岩が偶然、洞窟の入口の横に落ちたのだろう。
「あっ、おにい。 待ってよ~」
そう、木花が慌てて俺を追い始めた時、突然の稲光とともに、近くの大木が真っ二つに割れる。
「キャー お兄ちゃん。 助けてーーー」
そう叫びながら、木花は猛ダッシュで俺を追い抜くと、一直線に洞窟へとかけていった。
ちなみに、木花は陸上部だ。
「おいおい、試合のときにそのくらいの本気だせよ~」
結構小さく見えるまでになった妹に向かて俺は思わずそう呟いていた。
「しょうがない、俺も急ぐか!」
そう思った瞬間。
ピシャッ
またしても強烈な稲光に続き、ドドォーンという地響きがした。
あまりの眩しさに一瞬、目が見えなくなる。
「おいっ う、うそだろ・・」
目が暗闇に慣れ、俺が見たものは空いているハズの洞窟の入口を塞いでいるあの大岩だった。
急いで洞窟に駆け寄り、入口だった部分のどこかに中に入れる隙間が無いかを探し回った。
「コノハー おおーい! 聞こえるかーー」
ありったけの大声で、妹を呼ぶが、懐中電灯の明かりは、むなしく入口をピタリと塞いだ大岩をうつしだすばかりだった。