第8話怪異
愛華が意識を取り戻した時にはすでに雲は発達し雨となって大地に恵みを与えていた。シャンポリオンが体調の心配をかけてくれたのに愛華は答えて言った。
「びっくりするほど血をはいちゃったけど失血死しなかったね」
「女神さまですからね」
「そういうものなのね」
「女神さま。国民衛兵隊はバスチーユから出て首都でさらに見物人を増やしてお城に向かいました。彼らを追いましょう」
「国民衛兵隊は何をするつもりだったの」
「最初は単に例の光の武器の二射目が来る前にお城に攻め入る作戦だったのですが、今多数を占める見物人のほとんどがただ単にパンを王にねだるつもりのようです」
「わかった。それじゃ私も旗もって王様にパンをおねだりに行ってくるわ」
いつものようにシャンポリオンはよじ登って愛華の肩に乗った。
ひどくなった雨の中愛華は城に小麦があるぞと唱えながら旗を振り歩いた。
通った町からそれを聞きつけた小獣人が次々と愛華を先頭にした行列に加わった。
そのまま首都の街に入りそれを抜けたとき、先に出発した国民衛兵隊と合流。飢えた小獣人の数は50万を超えた。もはやだれにもどうにもできない巨大なパレードだ。
このパレードの先頭で旗を振ってる愛華は、考えることをやめていた。
しばらく歩き続けるとお城が見えてきた。
50万の群衆はとてもお城に入りきらない。しかし無理やり先頭集団がお城の窓という窓を壊して次々と入っていった。そして内側からお城の正門が開け放たれて愛華を含めた集団が城に堂々と侵入した。
絶対王は群衆がお城に迫っている段階で城で開かれていた国会に助けを求めたが、国会がまともな反応をするよりは約50万の群衆が国会になだれ込み絶対王は群衆に捕まった。
飢えた国民に捕まった絶対王はそのまま国民に担がれたまま首都の中にある古い元お城に強制的に移住させられた。
愛華は旗を近くにいた巨人の国会議員に渡すと国会の中で座り込んでしまった。
「女神さま。具合が悪いのですか?」
「ちょっと酔っぱらっちゃったみたい。休ませて…」
愛華は倒れてしまった。
「このお嬢ちゃんも担いでいくかい?」
「いや、放っておいてあげてください」
シャンポリオンの返答に群衆はしたがった。一部が暴徒と化してお城の部屋や廊下にかけてある絵画などの美術品を勝手に持ち出し始めた。
それを眺めることしかできなかった議員たちは万民平等といっても最低限の分別は必要だと感じたのだった。
シャンポリオンはずっと愛華を心配そうに眺めていた。
突然、愛華は水に沈んだ石のように床に吸われて消えてしまった。それを皮切りに大地が震え始めた。こんな時、建築物に入っていると危ないと旧世界で聞いたことのあったシャンポリオンは伏せる議員たちのそばを抜けて外に出た。
外に出たシャンポリオンが見たのは超巨大生物であった。土や石、礫に埋まっていたその生き物は沸き上がっていった。
山一つが丸ごと乗った甲羅、縄文土器の破片に似た鱗、それに覆われた長い首の先にトカゲのような頭を持つ怪異が宙に浮いた。
体をさらした怪異は甲羅を中心に首が巻き付き円盤状になるとどこかへ去っていった。
この時のシャンポリオンは知る由もないが怪異はそのあと絶対王を襲って丸のみにした後、首都の北東に位置するワーテルローに怪異は住み着いたのだった。