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第4話逃亡兵とプエブロの成長

 ここは薄暗い一室。読者の皆さんには旗と真ん中に地図が乗ってる机、壁には長崎市近辺の地図が貼りついている。特筆すべき部屋の特徴は以上だ。後はこまごまとした小物がいくつもあったことも一応記しておきたい。

 この場には長崎総督をはじめ数人の決して若くないむしろ老人に近い人間が集まって協議していた

 ショーブスリ地方長官の夜間爆撃が確認された時から旧世界において地方長官が自由にできるいわば前線基地の存在が指摘され続けてきた。

 そしてその前線基地の捜索も検討されていたのだが、我らが手勢は婦人子供を入れた総数で200人程度。農地開拓や塹壕の造成ですでに手いっぱいな状態。その上手分けして長距離を捜し歩くなんて危険な行為提案を認めれば反乱の可能性すら浮かんでくる。

 なのでこれまで地方長官の前線基地の存在は先延ばしにされ続けていた。

 この事態が急変したのは昨夜の未明。プエブロに綺麗な士官服をまとった男性をはじめとする小獣人の一団が接触をしてきたことだった。総勢17名。地方長官の前線基地からの脱走兵だった。

 彼らを待っていたのは無期限の拘留だった。

 話は先程説明した薄暗い巨人の元教室の会議室に戻る。

 長崎地方総督と元エルミオンヌ号船長(現陸軍大臣)、シャンポリオン(女神含む旧世界巨人との接触要員)が机についていた。

 報告者が間合いを見計らって報告会が始まった。

 「我々に接触してきたアレクサンドル少尉をはじめとする逃亡軍人から得た情報を皆さんの手元にある報告書の形にまとめました。我々が新世界から旧世界に移った後、やはりというべきか新世界の巨人族の小獣人弾圧は悪化する一方のようです。暴威的な大増税、軍備の拡張、反乱に対しては非人道的なまでに殲滅し近隣諸国に次々と宣戦布告。小獣人は疲弊する一方です。パリシイの治安が劇的に悪化。散発的ながら小獣人の解放を訴えるパルチザンも発生しているようです」

 「新世界本国の状況は大体わかった。ところで旧世界での本国政府の活動の情報は何かわかったか?」

 「はい。実は我々の想定以上に長い期間。本国政府は旧世界に接触していたことが分かりました。これまでわれわれが新世界にいたときに旧世界の存在を隠していた手段も分かりました」

 「そうだ。隠されていたんだ。我々が航海して実際に旧世界に足を踏み入れるまで新世界で手に入る旧世界の情報は建国神話だけであった。いったいどうしてここまで徹底した情報統制が出来たのであろうか?興味深い」

 「その手段は単純です。なぜなら旧世界の要塞に配属される人員はすべて「カゴ」だからです」

 「なるほどたとえ真実を口にしする人間が出てきても人々がそのものを差別し言葉に耳を貸さなかったなら意味はないこうして情報が漏れない構造が出来上がっていたんだな」

 「話が少しそれてしまいましたね。旧世界における本国政府の活動ですがそれは約五百年前から行われています」

 「五百年!」

 「新世界が生まれたころからか」

 「まだ先代の女神が活躍していた神話時代からずっとここ長崎とつながっていたということか」

 「ええ、おそらく」

 「弱ったなぁ。我々は絶対王の手のひらの上で踊っているだけなような気がしてきたぞ」

 「いったいなぜ?」

 「五百年間も接触があるということは旧世界側の人間で新世界の事情を知る人物が必ずいるはずだ。なのにいまだにその人物は黙殺している。それはなぜか。接触しない利益の方が接触したときの利益を超えているからだ。何としてもその人物を探し出して中立化しなくてはならない」

 「中立化でありますか」

 それまで黙っていたシャンポリオンが初めて口を開いた。

 「あくまで中立化だ」

 「募る不安はいったん我慢していただいて、本題に入らせてもらいます」

 正面の壁に投影機が映し出したのは一枚の地図と新緑の山の中真っ赤なレンガ造りの建築物の写真だった

 「こちらがアレクサンドル少尉らが逃げ出した旧世界における新世界政府の情報および軍事的拠点です」


 初めてアレクサンドルらと接触した農民の青年ブリュメールをはじめとして逃亡してきた軍人の拘留を不正な判断と訴えて総督府に対する反対運動が巻き起こった。はじめ総督府はこの拘留の判断の正当性を主張して強硬な姿勢で臨んだが反対運動が軍の内部からも顕在化し激しさが勝ると三日目で脱走兵の拘留を現場の責任で解かれた。

 そして女神がプエブロに来ることになった。

 「いや、なんで?終わったじゃん!このお話。脱走兵の拘留解かれたんでしょ?女神の出る幕ないじゃない。なんで私が出てくるのさ」

 愛華はとりあえず内務省に変身して走ってプエブロに向かっていた。

 「あなたには長崎地方総督を「説得」してもらいたいんですよ。拘留を解いたのはあくまで反乱を恐れた現場がしたこと。拘留を指示した長崎地方総督の命令はまだ効力を発揮しています。そこで、世界を創造する力、学説によっては憲法を含むすべての法に優越する女神様が長崎地方総督を説き伏せることで長崎地方総督はメンツを保ったまま指示を撤回できる」

 「茶番ね」

 「男はメンツと度胸で立つ生き物ですからね。仕方ないです」

 「プエブロに行くたび感じるこの心臓破りの坂っぷりよ」

 プエブロは山の中腹の丘の上に作られている。だからどうしてもプエブロに行くためにはこの急な坂道を駆け上がる必要がある。

 「あまり上下に揺れない走り方が正しい走り方なんだそうですよ」

 「シャンポリオンはいいよね。肩に乗っかってるだけだもんね」

 「のっかってるだけといってもそれ自体難度が高い行動なんですよ普通に乗っかってるだけじゃ女神さまに振り落とされてしまう」

 「そう」

 愛華は足のばねを生かしてできるだけ上下にはねながらプエブロに向かうことにした。

 「女神様。わざと飛び跳ねたでしょ」

 「え?何の話でしょうか」

 ここ最近一日に家と学校とプエブロを何周もする生活が続いている。いつもは変身することなく走っている。おかげで足の脂がしぼんで陸上選手のような細い筋肉質な下半身を手に入れた。

 「身に覚えないならいいです。ちょっと、具合が悪いので、キジを撃ってきまオエッ。おろろろろ」

 「ちょっと!人の肩の上でゲロ吐かないでよ!」

 「待って、これ以上揺れないで。ゆっくり下ろしてくださいね」

 弱ったシャンポリオンの必死の物乞いに愛華は言われたままに両手でやさしく持ってプエブロの元正面玄関口で下ろしてあげた。

 弱りに弱ったシャンポリオンはアスファルトに座りきったまま動かなくなってしまった。

 「正直ごめん」

 「…」

 「じゃ、じゃあ私地方総督にあってくるからシャンポリオンは休んでて!」

 プエブロの入り口はプエブロ側面の中央に位置している。

 しかし階段は端っこにあるので二階に上がるには裏庭が見える廊下を通り抜ける必要がある。

 いつものように滑り歩いて物音たてずに廊下を進む愛華。しかし緑しげる元裏庭に深い紺色のセーラー服の背中を垣間見た。艶やかな癖のないさっぱりした髪を後ろで束ねている。その先がかかる先には何やら長物とそれを覆う緋色の布袋を背負っていた。凛と立っているその背中から愛華と同世代であることは確実だった。

 「迷子かな?」

 聞こえるように言った。

 「はやぶさ!」

 無駄を絞った洗練された動きでセーラー少女は振り向くと愛華を認めて声を発した

 それにこたえて一匹のハヤブサ舞い降りてセーラー少女の右肩に乗った。

 大地を蹴って少女は緋色袋をぬぐう。

 中から出てきた槍を構えて愛華との間にはばかるプエブロの壁面に刃を刺し掻いて切り上げて切り下すと、コンクリート壁に荒く人一人はいる三角の大穴が開いた。

 「首をいただきにまいった」

 唇でつぶやいた。

 「シャンポリ…」

 払う槍の柄で頭をぶたれた愛華は吹っ飛んで無残に廊下に転がった。

 「あなたは女神にふさわしくないだから…打ち取る」

 「くっ。おやじにもぶたれたことないのに!ライダー!ライダー!」

 のたうち回る愛華を冷ややかな視線が突き刺す。

 「そうやってタマノオ千切れるその瞬間までふざけていなさい!」

 槍の刃を振り上げたとき。

 「第一斉射!榴弾!撃てー!」

 騒ぎを聞きつけていたのだろう。裏庭、プエブロ、塹壕と続く配置関係を考慮して小獣人の砲兵隊が塹壕から極めて高い技量で一気に一つの室を丸々大穴に変えた。プエブロごと貫いて砲弾を無理やり目標に着弾させる狙いだ。

 セーラー少女は後ずさり、よけきれないたった一つの弾丸をおのが槍で貫いて小獣人の砲兵隊の一斉射を無効化した。

 「我が名はヴァンデミエール砲兵隊長!侵入者よ!小獣人を侮るなよ!」

 砲兵は小声を知らない。絶対的な体格差を持つ愛華さえ震える声量。それが今は頼もしかった。

 「…旗色が悪い。しっぽ巻いて逃げる」

 「第二斉射対巨人徹甲弾!撃てー!」

 「飛ぶよ!」

 槍にまたがったセーラー少女は天高く舞い上がった。それは同時に砲兵隊の攻撃を避ける働きも持っていた。

 「まさかあの子がショーブスリ…」

 「いいえ、彼女はショーブスリではありませんよ」

 つぶやく愛華に答えたのは暢気に歩いてきたシャンポリオンだった。

 「ショーブスリ地方長官は私の知っている限りやせぎすの若い優秀な人物でした。自らの能力の拡張に余念がなく、無口なのが少々玉に瑕ですが恐ろしい相手といえるでしょう。そんなことよりあの少女は一体?」

 「頭思いっきり槍でたたかれた。変身してなかったらどうなっていたことか!」

 シャンポリオンは慣れない日本語でゆっくり話した。

 「ねぇ、愛華、あの、女の子。知り合い?」

 「ちがーう。…てかなんで日本語?変身してるから通じるでしょ」

 「いや、ちょっと会話がかみ合わなかったようなので」

 「あの子見て殺気立つって言葉の意味を知った気がする」

 「一つ賢くなりましたね。ライダー!ライダー!」

 「聞いてたんならもっと早く来なさいよ!」

 「ま、どうせ女神さまですし変身してたら傷はつかないから安心感があるんですよね」

 「それは緊張感がないというのよ」

 隣でヴァンデミエール砲兵隊長が陣頭指揮を執りつつ対空飛翔体でセーラー少女を狙って激しく攻撃しているそばで、のほほんと談笑する二人であった。

 

 軽く二回扉を叩いた。

 「柔葉です」

 入ってくださいと言われたのでその通りに部屋に入るとそこは他の空き教室と別に差異はない普通の部屋であった。違う点としてはカーテンを閉め切って外からの光を漏らさず遮っている点であろうか。

 中には一つの机がぽつんと孤高に立っておりその上に椅子に座ったシャンポリオンと比べると歳を重ねた方の小獣人がいた。

 「柔葉、愛華君だったよね」

 「あ、はい。そです」

 「さっき侵入者と接触したと聞いたけどその調子じゃコテンパンにやられちゃったみたいだね」

 「えぇ、残念ながら」

 「無事これ名馬ともいうしね。君には沢山負担をかけちゃったんじゃないかと不安だったんだよね今日も元気そうでよかったね」

 「あ、ありがとうございます」

 「あぁ、立場的には逆なんだけどね。こちらこそありがとうございました。それじゃぁ、あ、自己紹介忘れてた。私長崎総督を名乗っている…」

 この後もだらだらと会話を繰り広げていくのだがそれはまた別のお話。

 「さ、本題に入るよ。愛華君。これから出す数枚の紙はとても重要だから取り扱いは慎重によろしくね」

 そういって長崎総督が黒子姿の小獣人の部下に出させたのは数枚の読めない文字で書かれた書類と一枚の写真であった。

 「ショーブスリ地方長官の旧世界の拠点がこれだ」

 写真の中には緑麗しい森山の景色。ただし真ん中に小さくポツンと真っ赤なレンガ造りの古い倉庫のような建築物が写っており写真の上から丸に囲まれ強調されている。

 「君にはここに空から奇襲を仕掛けてもらいたい。一番槍だ」

 この間開発された秋水で空を飛び落下傘でゆったり滑空するのではなく、そのまま爆薬を身にまとい秋水の推進力でそのまま敵基地に突っ込み爆薬を爆破する。

 そしてそれが終わった後巨人の車を改造し小獣人でも扱えるようになった車も敵基地に突っ込み腹の中に蓄えている兵士を吐き出して白兵戦に持ち込む。

 それが作戦の全容だった。

 「私に飛翔体の電脳役をしろという解釈でよろしいでしょうか」

 「話が早くて助かるよ。決行は三日後。最後に何か質問ある?」

 「あ、そういえば私そもそも逃亡兵の件であなたを説得するとかなんとか聞いてきたんですがそれはどうしたんでしょうか?」

 「あぁ!その問題は君がこの部屋に入ったって事実があるだけで十分だよ。このさっき渡した書類の中身が本当に君を呼び出した理由」

 「さいですか」

 「さいですよ」

 「失礼しましたー」

 愛華が部屋を出たころにはすっかり西日に偏っていた。

 三階に上ると秋水がもう三機も製造されていたことに驚いたり、たまたまあったヴァンデミエール砲兵隊長にお礼を言ったりした。

 そして一階でゆっくりと見回ったなら、赤ん坊の多さにびっくりしたり砲兵隊ががれきの山に加工した元教室を見てみたりした。

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