第1話出会い
秘密基地とは子供にとっては家庭と学校に並ぶ第三の居場所といえる。
放課後にとりあえず集まる場所、ゲームを持ち寄って一緒に過ごした思い出に思わずとらわれる方々も多いのではないだろうか。
ある日、下校途中の公園の滑り台と一体化した巨大なオブジェの洞穴に小学生がたむろしているのを見た中学二年、柔葉愛華もその一人だった。もともと遊び足りないちょっと背の伸びた子供に無理やり制服を着せてしゃんと立たせた存在である彼女は周りのほかの少女に精神的にも身体的にもいろいろおいてかれた感じを自覚していた。だから過度に問題視して前空きの洋服とかを好んだ。Tシャツ身に着けるガキとは一味違うぜと気取ったりするところが返って子供らしいと気付かない程度には幼さをのこしていた。
そういえば自分が自然と立ち寄らなくなった秘密基地はどうなっているのだろうと思った彼女は一人、ふらりといつもの下校道から離れて山を目指した。
四方を海に囲まれた雲の上から滑るように一隻の浮遊フリゲートは降下する。その先にはぽつんと浮かぶ小さな島があった。
「シャンポリオン、そろそろここで異界に高次元航行できるか?」
「そうですね、三百六十度どこにも港が見えないほど離れている。ここなら失敗したとしても人を巻き込む心配はいらないですな」
シャンポリオンはそういうと船の真ん中に据えられたロゼッタストーンの表面をなでるとロゼッタが緑色の燐光を発し始めた。
「成功です!今から高次元航行始まります」
シャバニャック城主は近くの柱に身を預けて動けなくなってしまった。なぜなら
「船酔いか?」
城主に見えるものはすべてが赤白緑の三色の光に分裂してそれらが勝手に重なっては離れるを繰り返して見えた。
「シャンポリオン、この光景は一体」
「目を閉じてください。今この船は高次元航行を始めました。後はすべてを船に任せてください」
シャンポリオンの言う通りに瞼を下ろすと幾分か楽になった。
ロゼッタを搭載したエルミオンヌ号はそのまま空に消えていった。
突然の出来事であった。雷がばちばちとなったかと思うと、天から船が降ってきた。ちょうど山に分け入ってかつての秘密基地跡を眺めていた時であった。落ちてきた船が目の前の秘密基地に刺さってはぜた。爆風に愛華は飛ばされ真後ろの木に当たって前に倒れた。
顔を上げるとそこには一面が燃え盛るかまどの中の様相を呈していた。
「まじでか」
ふと口から漏れたよだれを袖で拭い去ると後ろに振り向いて急いでふもとの町に戻ろうとしたところでまた天が光瞬いた。空の一部に光ってひび割れると穴が開いた。ネットで見た一昔前の特撮みたいだった。
開いた穴から現れたのは背広姿の翁。降ってきて大地を踏みしめ周りにちり芥舞う。ネットで見た少し前の光の巨人みたいだった。
「ここが女神を産んだ土地、旧世界ですか」
「お爺さん逃げましょう。さっき隕石が降ってきたんですそして山火事が起こっちゃった」
「初めまして旧世界のお嬢さん。私は絶対王が家臣、フラム地方長官。申し訳ないがこれもわが主、絶対王に命じられたことゆえ」
いうが早いか腕の一本を愛華の鼻の先に突き付けると手から炎を噴出した。
何もわからぬ間に頭を燃やされた。
落ちた船の中復旧を急ぐが時間も人も何もかもが足りない。船首が丸ごと潰れ火災を消火するので手一杯。そんな時見張りから緊急連絡。地方長官の一人が突然ここに現れたことが告げられロゼッタストーンが燐光発して船の外へひとりでに出て行った。
崩れ落ちる愛華の頭は吹っ飛んでなくなってしまった。それが翁の出した火力の大きさを物語っていた。
「全ては絶対王の勅ゆえに…」
絶対王とは神から地上の統治権を与えられた存在。彼が出した勅はたといいかに非合理で理不尽なものであっても実行されなければならない妨げてはならない。それが女神によって創造された新世界の常識。
「さてさて、あちらの船でございますな」
翁の足元の坂を少し上った場所には炎上する一隻の船があった。
「む?」
船の一部が盛り上がったと思ったら爆ぜ、光った石碑が飛び出してきたので翁は弾いた。
「シャバニャック城主殿いつまでも未練がましいですぞ。大人しくここらで火にくべられる覚悟をしてください」
翁はすべての手から炎を噴出させるとゆっくりと近づいて一気に手を船に当てて火を噴いた。
「蒸し焼かれるがいい!」
「待って!」
足にまとわりついたのはこぎれいにさっぱりした先ほど頭を焦がしつくしたはずの少女であった。
「父さんが昔言っていました。自由とは他者を害しないすべての行動ができることだって」
「あなたはさっきの…頭を消し飛ばしたと思っておりました。がまぁいいでしょう何回でも燃やして差し上げましょう」
少女を蹴飛ばして腕で狙って手から火を放射した。
『内務省!』
音を放ち、炎を被った少女を救ったのはつい先ほど翁が弾いた片手に収まるくらいの板状の石板だった。
不思議な光の球状空間が少女を覆って外からのすべての害意を遮断する。
白い光が球状空間に満ち満ちて頂点から花弁のようにひらひらと崩れ落ちた底には、絢爛豪華目にも彩に着飾った満艦飾の衣装をまとった少女が現れた。よく見れば先程翁に襲われた少女がおのが秘める魅力を磨きだされた様子が分かった
「わしの炎を無効化した!?馬鹿な!」
「このちょうど私の真ん前に浮かんでるケイタイ?スマホ?何ですかこれ!」
「女神よ!われらを救いたまえ!」
そう叫んだ船の残骸から出てきた小動物は跳躍、そして少女によじ登り肩に乗った。
「女神様!われの名はシャンポリオン。しがない学士が一人であります!その石板は我々がロゼッタストーンと呼称しているかつての女神が世界を創造したときに使った世界を書き換える触媒でございます!女神様!われわれ小獣人はこんなに巨人族の横暴に耐え忍んでいるのでございます!どうか!どうか!われわれ小獣人をあの絶対王が手先からお救いくださいませ!」
「ええい!小獣人の分際でうるさいぞ!女神?新世界を作り出した大いなる創造主がこんなささやかな少女であるはずがないであろう!わが炎で貴様らの一縷の希望を灰に変えてくれる!」
「女神様!ロゼッタをこのシャンポリオンめに預けてくださいまし!」
「ロゼッタ…この石の板のことね。はい!」
ロゼッタをシャンポリオンを名乗る肩の上に立つ毛むくじゃらな小さい獣に渡すと石の発光する表面をいじくる。
「根拠法を示し、権力を執行!女神様!新たな力です!」
『陸軍省!消防旅団!』
頭上に天使のような光のわっかが浮かび上がる。光は円柱状の膜となって足元まで少女を包み不意を突いた翁の連なった炎の攻撃を無効化した。
光の円柱が上から崩れ去るとそこには銀色の和風甲冑を思わせる消防服をまとい、もろ手にはさすまたを装備した少女?がいた。?が付くのは顔が仮面で隠れているから判別つかないためである。
「!?」
「目の前にいる爺、絶対王を守る騎士、地方長官がうちの一人を倒してほしい!」
「え、なにそれ野蛮…」
「茶番はここまでだ!お嬢さん!ぽっと出のあなたが女神を名乗るなんて!我が王以外に王はなし!ここでくたばってもらう!いねやああああああああああああ!」
両手から炎を放射し翁は跳躍!後ろへ下がる。噴き出す大火は愛華を上から襲う!
「腰のこいつはなんじゃろな!」
さすまたを足元に落とし腰に下げている刀を抜いた。抜いた刀は刀身が水流だった。迫る火を一刀両断した。
そのまま水はしなって弧を描き距離を取って、たたずんでいた翁に鞭のごとくたたきつけた。
ちょうどその時だ。上空に一機のヘリコプターを翁は認めた
「増援か。引き上げ時だな絶対王様のお叱りを受けるだろうがそれも仕方ない。自称女神よ!命拾いしたな。これまで!」
そう告げると翁はまた空を割ってその中に入っていって消えてしまった。
「不思議だなこの腰から抜いた刀の持ち手から水が勢いよく噴き出し続けてる。どこから水が出ているのだろう?」
「女神の力とはそういうものです。地方長官が逃げてしまう!追うんだ!」
シャンポリオンがせかす。
「この火災を抑えるのが先よ」
愛華は盛る炎に水をかけるも何分量が多すぎて意味がなくさえ思える。
何とか船の周りの火を消し止めた。
「燃えてる地域の周りを引き倒し空白地帯で囲んだ方が良くない?これ。ねぇ、ちゃんぽんだっけ。何かない?」
「シャンポリオンです。何かとは何ですか?」
「まだ燃えてない木を引き倒してこれ以上火が燃え広がらないようにしたいの」
「木を倒すのですか…破壊活動は陸軍省かと思われます」
「さっきから内務省とか陸軍省とか聞きなれない省庁ばっかね」
「我々の国の行政組織に権能が対応してるためです」
シャンポリオンはロゼッタをまたいじくった。
『陸軍省!』
日本では吹奏楽で見慣れているフランス革命時代の兵士の服装を女性向けに可愛らしく変更された姿になった。
背負っていた小銃を愛華は手にとっていろいろいじくった
まず銃口をのぞいたり引き金に指をかけたままうろうろしたり銃床を背負って小銃をふざけて撃った。途端銃の反動で後ろ向きに転がり落ちた。
周りを探すも炎はすでに盛りを過ぎてだんだん弱くなってきていた。向こうに見えるのはすでに切り倒された木の山だ。
思った規模の数十倍多く倒されていた。いや、倒した。
「あちら側はもうすることも残っていないか…よし、船について、ていうか船でいいんですよねこれ」
愛華は地面に前から突き刺さっている船の前に立った。
「シャンポリオンさん、もう一度消防にしてくださいな」
シャンポリオンは何度かいじった
『陸軍省!』
『消防旅団!』
腰の水の刀をぬくと水を船に当てて汚れを落とした。
「ええと、ユキカゼ。兄さんの船だ!」
「女神さま何年前のアニメの話してるんですか」
「まさかあなただけ出てこれるなんてことはないでしょう?中の人!出てきなさい」
愛華が船をこずくと中から一人、片手に収まる哺乳類が出てきた
「私はこの船の船長であり、こことは違う異世界にあるシャバニャック城の主であります」
「ほかの皆さんも出てきてほしいのだけど、まぁいきなり現れた女神なんて信頼できないでしょうからいいや。ところでもうすぐモノホンの消防の人が来る。それで質問だけど、あなたたちの存在、伝えた方がいい?それとも隠したほうがいい?」
「個人的にあまり事態を大掛かりにしたくないのだが、船にいる私たちとしてはぜひ何らかの組織の人と会いたい」
「そう、分かった」
愛華は見上げると赤い、愛華曰くモノホンの消防ヘリが下りてきた。この出会いが二つの世界に大きな変革をもたらすことになるのだがそれはまた別の話であろう。