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第0話(読まなくてもいいけど)こうしてこびとは船出した

 一つではおのれを保つことすら危うい実にささやかな命の灯を膨大な数束ねて、無慈悲に風化する森羅万象の定めに逆らいながらひたすらけなげに過去の経験を積み重ね続けた結果。神秘を徹底的に事実と確率に分解し神威すらおのれの駆使する科学技術に取り込んだ集大成こそ空に浮かぶ堅牢な浮遊戦列艦であった。


 事は数か月前に国王が発した残虐で横暴な十七本王令から始まる。税制度の近代化,決闘の禁止及び地方総督制の解体、処刑と地方長官制の設置が主な目的となる。地方をこれまで支配してきた小さな毛むくじゃらな人種、小獣人が務める地方総督をすべて解任して中央集権的な巨大で肌がつるりとしているかつてこの新世界を創造した女神に近い巨人種が務める地方長官を王が地方に派遣する形に改めるものだった。この十七本王令は王が地方貴族に正面から衝突する事態となった。


 実際地方貴族の意志がこもった高等法院は再審理を行おうとした。それを聞いた王はなんと宮殿を飛び出し着の身着のまま高等法院に向かったという。


 高等法院を守るべく空に戦列艦が並んだ。


「国王陛下!宮殿におかえりくださいませ!」


 戦列艦から声が響いた。すると山の果てから夕陽を背に森を踏みしめ堂々と進む赤と黄金でこしらえた巨大な鎧武者の姿があった。


「再度呼びかけます!国王陛下!今すぐ宮殿におかえりくださいませ!国王陛下といえど高等法院の再審理の妨害は許されませぬ!もしその山を越えて防衛線に入ってしまいますと我らは国家のために御身に傷をつける無礼を働かさせていただきます!」


 「国家?それは余の所有物である!所有物を持ち主がどうしようと勝手である」


 兵士の呼びかけもないかのように分け入って進むと王に立ちはだかったいくつか連なる黒い楕円の船の砲口瞬いて膨大な数の鋼と鉛と火薬を投射し大地のことごとくを粉砕、爆裂、土煙がもうもう立ち上がり何も見えなくなった。


 ぶわっと煙が風にまかれて消えたらそこにいたのは四人の巨人。


三人が王の前に立って仁王もかくやと立ちはだかり王と呼ばれた巨人を守った。


 口から炎をたぎらせる礼服をまとう爺、さらに蝙蝠のような翼を背負う近代的なしゃれた軍服の若者の頬には十字の古傷、紅一点の東洋の民族衣装を重ねてまとう妙齢の女性は大量の小さな蛇がその身をくるんでいた。


 若者は大見得を切ると続けて。


「やあやあ、我らこそ!絶対王に真に忠義を示した騎士!地方長官である!」


 彼らが見上げると無数の砲弾が降り注がれてくるのが見えた。


「陛下!失礼!」


 蝙蝠の男は王の背中に回るとわきから手を刺して固定し空に舞い上がった!炎の男は大地を蹴っては超高速で戦列艦の真下にくぐりこみやりを突き刺して戦列艦を地面に引き倒して後に、火を口から噴いてあたり一面暖炉の中のごとく戦列艦を火にくべた。


 蛇の女は衣に隠れた左腕を引き出して現れたサイコガンを構え光条放ち遥か彼方の戦列艦を一方的につるべ撃ちした。


 驚くほどに強力な地方長官たちの超常的異能の力の前に戦列艦は一方的に次々と撃沈せしめられた。



 創造主により定められた統治する超能力巨人と統治される身の丈三寸ばかりの毛むくじゃらな無能力な小獣人の関係は永遠に続くかに思われた。


 地方長官らのいたずらな一撃は徹底的に合理化して堅牢な空浮かぶ船をたやすく砕くほどに重く。


 知恵と技術の膨大な蓄積を結集した浮遊戦列艦の艦隊はささやかな身じろぎ一つ許されずただただ一方的になぶり殺しにされるのを待つばかりであった。


 フロンド会戦と後の歴史に刻まれたこの巨人と艦隊の戦いは小獣人の巨人に屈する隷属のくさびを改めて高らかに世界に示した。


 この戦のあと巨人の王は高等法院へ押し入り十七本王令の再審理のたくらみを砕き、「朕は国家である」と勅を下した。



 この報せをしたためた便りを開いたシャバニャック城主は「下らん!実に下らん」と立ち上がりかけてあったコートを羽織って家族を呼んで共に外に待ってた馬車に飛び乗った。シャバニャック城主は地方総督である。


 「エルミオンヌ号をおいているマルセイユの港まで行ってくれ」


 馬車は屋敷を出て畑の袖をかけ抜けた。というのも屋敷を出てからというもの城主は何度もいない追っ手を気にして従者をせかすのだ。


 「何をそんなに急ぐんです?」


 「いま入った報せでわれら小獣人の未来は隷属か死しかなくなった。だが私は死にたくないし奴隷にもなりたくないのだ!マルセイユにシャンポリオンという女神がここ新世界を創造する前に住んでいた世界の専門家、つまり旧世界研究家がいる。私は彼の旧世界仮説に命を賭ける決意をした」


 馬車が停止したのは街中だ。


 「ここです」


 「マルセイユはまだ先だぞ」


 「シャンポリオン博士ならこの町の貴族のサロンによくいると聞いております」


 「それはまことか!、ありがとう」


 城主は扉を開くと怒号に驚いた。その主こそシャンポリオンだった。


 「なぜ誰も信じてくれない!ミートラヒーナで発見されたこのロゼッタには異世界への道筋が書かれてあるんだ!」


 「シャンポリオン教授!是非ともに旧世界への冒険に乗り出しましょう!」


 「おお誰だ!ああ!シャバニャック城主様ではないですか!噂はかねがね…」


 「今はとにかく急ぎたい。私について来てください」


 「わかりました!ロゼッタの内容はすべてこの書類にまとめてありますこれが古代、創造主と巨人と小

獣人がともに暮らしていた時代で異世界に行き来していた証拠であり我らの未来への澪標となりましょう!」


 周りの人らも人がいいのが港町の特長だ。町の人が囃し立てるなかを城主と教授は潜り抜け馬車に戻った。


 馬車の中に詰め込まれたのはシャバニャック城主とその家族とシャンポリオン教授だけでなく、何とロゼッタそのものも載せていた。


 「内容はすべて書類に写しているのだろう?この石碑は錘にしかならんぞ」


 「いえ、ロゼッタは周囲のいわば活力を吸って女神が神話上で駆使した魔法を実現する触媒なのですこれは旧世界の文明の結晶で私の理論が正しければ我々を無事に旧世界に導いてくれる装置に代わるのです。逆に言えばロゼッタを失うとそもそもこの新世界から脱出すらできないのです」


 「そんな大層なものか」


 「そんな大層なものです」


 馬車が石の道を駆け抜けていくと馬車の渋滞に会った。


 「何があったか分かるか?」


 「大変です旦那様!なんでも王が全ての地方総督を皆ブドウをつぶすがごとくことごとく虐殺しているようなのです。この馬車の装飾の多さではばれてしまいます」


 「これはまずいことになったなぁ」


 「城主様、ここは私シャンポリオンに任せてあなたは森からエルミオンヌ号を目指しましょう」

 兵士が一際豪華な馬車を見つけると馬車の扉をたたいた。


 「地方総督の馬車とお見受けする。そこを出てついてきてくれますね?」


 「地方総督?ただのつまらない一人のごく潰しでございますよわたくしめは」


 馬車の中には一人の男と巨大な石碑が詰め込められていた。


 しばらく中を探るも何も細工がなかったことを確認した兵士は「失礼した」と言葉を残して去っていった。


 「もう出てきて大丈夫ですよ」


 シャンポリオンは席から立ち上がるとそういった。すると座席がふたのように開き中からシャバニャック城主の家族らが現れた。


 その日の夕暮れに一隻の浮遊フリゲート船がマルセイユを発った。



 大広間に四人の巨人がたっていた。


 「絶対王陛下、地方総督の処刑は明日にはひと段落するでありましょう」

 と礼服をまとった老人が告げた。


 「おい、噂によれば一人の地方総督が一族郎党船に詰め込んで旧世界に逃げたらしいぞ。どうする翁」

 軍服をまとった巨人が横やりを入れた


 「その点についてはご心配なく。このわたくしが直接逃亡者を潰してまいりましょう!」


 「旧世界…女神時代の遺物が必要ね。それがないとそもそも旧世界にはたどり着けないわ」


 「どうやって逃亡者が遺物を見つけてきたのかはわからんのか?第二第三の逃亡者が出てはかなわんぞ」


 「彼らは特別でございます。われらの女神時代についての研究集団にかつて所属していたシャンポリオンが彼らについていったらしいと港にはなった諜報員からの報告にありますシャンポリオンなら何かしらの遺物を所持してても何の不思議もありませぬ」


 絶対王が口を開いた。


 「フラム地方長官。そなたに正式に逃亡者の抹殺を命ずる。しかし無理はするな。窮鼠猫を噛む、背水の陣とことわざにあるように必死な人間は何をしでかすか分からんからな。危うくなったらすぐに戻るがよいそして最後に一つもし旧世界で巨人にあったらすべて殺してしまえ決して目撃者が出てくるようにはしないでほしい」


 はっ。と礼服の翁が返事を返すと一瞬で姿が消えた。


 「ショーブスリ地方長官は最近増えてきた小獣人の反乱の対策を、セフトン地方長官は新税制の地方役人への周知に努めてほしい。以上」


 そしてその日の会議は終わった。

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