春風の奇跡。
恋愛ものです。
誤字脱字等があるかもしれません。
僕は君を忘れていた。
君と過ごした日のこと、君と別れた時のことを。
8月15日、夏休み。
僕は君と出会った。
高校生の僕はこの出会いが何なのかは良く解らなかったけれど確かに解ることがあった。
それは、この出会いは僕にとって忘れることのできない出会いになるだろうということだ。
黄金色の夕日が輝く公園のベンチ、そこに君はいた。
黒髪のロングヘアーが夕日を反射し、輝いている。
僕は君の隣に座った。
君は驚いたようにこちらを向く。
僕は目をそらし、ポケットにしまっていた音楽プレイヤーを取り出しそこから伸びたイヤホンを耳につけ、曲を流す。
しばらくして、辺りが暗くなり始めていた頃、君が僕の肩を叩いた。
僕は君の方へと向きイヤホンを片耳だけ外す。
そして君はこう僕に質問した。
「私のこと、覚えてる?」
僕は何も言えなかった。
質問の意味がわからなかったからだ。
そして僕は問い返す。
「貴方は、誰ですか?」
と。
君は困ったように考え、やがて何かを思いついたように僕の方へと向きなおる。
そして、こう言うのだった。
「夏休み、あの日も今日みたいに夕日が綺麗な日だったね。」
なんだ?
何を言ってるんだ?
あの日?
いつだ?
僕は君と何処かであっているのか?
夏休み、夕日......
僕の頭の中に3年前の記憶が蘇る。
そうだ、あの日もこんな夕日が綺麗な日だった。
君、そうだ、思い出した。
君は......
「君は、皐月なのか?」
君は薄く笑いこう言うのだった。
「思い出してくれた?成宮くん。」
そうだ。
3年前、皐月は僕との待ち合わせでこの公園に1人でいた。
僕はその日、用事が予想外に長くて皐月との待ち合わせの時間を大幅に遅刻してしまった。
僕は公園に着き皐月を探したが何処にも見当たらなかった。
僕は帰ったのだと思い僕も帰ることにした。
帰路の途中、消防車と救急車のサイレンが聞こえ、大通りで止まっていた。
周りには野次馬が消防車と救急車を取り囲むように沢山いた。
後から警察もきて大騒ぎになっており、僕も少しだけ気になっとのでその野次馬たちに紛れどうしたのか確かめることにした。
どうやらトラックのタイヤがパンクして人を引いたらしい。
人身事故だ。
僕はそこで嫌な予感がした。
僕は野次馬の間をすり抜けるように先頭へ向かった。
先頭に着き僕の目に映ったのは、赤い絵の具を潰して、そこに黒い絵の具を上からこすりつけたかのような光景が広がっていた。
そしてその赤い絵の具は十字路の真ん中で止まっていた大型トラックへと伸びていた。
僕はそっと、身を左に寄せ、停まっていた救急車の後ろの、赤い絵の具の源が見える位置にきた。
そこの横には皐月がいつも持ち歩いていたカバンが落ちていた。
刹那。
僕の時間が止まる。
周りの野次馬や消防車、救急車などの音が全てただの絵であるかのような錯覚に陥った。
何故か。
理由はもうわかるだろう。
そう、赤い絵の具の源とは、皐月だったのだ。
僕は何が起こっているのかを理解できなかった。
そして、黄色く貼られた立ち入り禁止のテープを乗り越え、警察官を突き飛ばし皐月の元へと走る。
被せられたブルーシートを剥がして僕は見た。
冷たい手、白い顔。
そして夕日に輝く君の黒く長い髪。
僕は叫ぶように泣いた。
そして僕は僕自身を恨んだ。
何故予定に遅刻した?
何故遅れると連絡しなかった?
何故今日に限って君は大通りから帰った?
何故トラックのタイヤがパンクした?
何故皐月は死んだ?
何故だ、何故だ、何故だ!!
僕は声にならない叫び声を心の中で何度も繰り返し叫んだ。
そしてそれから一年が過ぎ、僕は高校生になった。
その頃の僕はもうその事件があったことすら覚えていなかった。
いや、覚えていたのかもしれないが思い出すのが怖かったのだ。
そして僕は君を忘れた。
だが、その君が今隣にいる。
あの日伝えたかったこと、言わなきゃいけなかったことを、今なら言える。
君が僕の前に現れたのも何か理由があるのだろう。
僕は君に言う。
「皐月、あの日遅れてごめん。」
皐月は少し微笑み。
その後頷く。
そしてこう言った。
「成宮くん、私、あなたのことが好き。」
それを聞いた瞬間、僕は目から、どうしようも無かった悲しさを溜め込んだ涙を流した。
そして、僕も続けて君に言うのだった。
「皐月、僕も君が好きだ、あの日もそれを伝えるために君をこの公園に呼んだんだ。」
僕は皐月の方へと顔を向ける。
皐月の目からも大粒の涙が溢れていた。
「成宮くん、私、やっと言えた、あなたの事が好きなんだって。やっと。」
泣き崩れる皐月を僕は抱きしめる。
そして皐月の手を握りしめ、僕も言う。
「皐月、大好きだ。僕は君と出会った時から君のことがずっと好きだった、でもなかなか勇気が出なくて告白できなかったんだ。そしてあの日ようやく決心をして君をこの公園に呼んだ。それがこんなことになるなんて。ごめん、ごめん皐月、僕は君を不幸にした、僕は、僕は。」
「成宮くん、それは違うよ。私は幸せだよ、成宮くんとこうしてまた会えて、私の気持ちを伝えることが出来て。私は本当に幸せ。でも、この幸せも、この悲しさとともに消えちゃうんだ。私は今日、この日の夕日が沈む間だけ、あの世から君の元へと思いを伝えにきたんだ。だから夕日が沈むと私は消える。」
君はそう言うと涙を拭いて、ポケットに手を入れる。
そしてポケットの中から小さな赤い紐を取り出す。
そしてその紐を半分に切り、片方を僕の腕へ、片方を自分の腕へと結んでこういった。
「これは私からのお守り。私と君の、結び。」
皐月の手はもう透け始めていた。
そして僕は溢れ出しそうな悲しみを抑え、こう言うのだった。
「君がどんなに遠くにいても、たとえ君が僕を忘れていようとも、僕は君をもう忘れない。だから安心して行ってくれ。そしてまた巡り逢える日まで僕は君を待つ。君が君で無くても、僕は君を必ず見つける。そしてまた巡り逢ったときはこう言おう、おかえりって。」
夕日が沈む。
君の笑顔とともに。
そして君は夕日とともに消えるのだった。
そして僕は涙を拭い、夕日が消えて行った方角へと叫ぶのだった。
「また逢う日までっ!待ってるからなー!!!」
と。
そして、それから2年後の春。
僕の左腕には赤い紐が結んである。
僕は成人式を終え公園へと向かった。
公園では緑の葉が茂っており、春を感じさせていた。
僕は公園のベンチへと座り、公園の春をスケッチすることにした。
スケッチをしていると、スケッチボードに人影が映る。
僕は前を向く。
そこには1人の女性が立っていた。
「スケッチ上手ですね。隣に座ってもいいですか?」
と聞かれたので、僕は答える。
「いいですよ。」
そして女性は言う。
「ここにはよく来られるんですか?」
「いや、たまに少しだけ見にきます。」
「そうなんですか。私も何故かこの公園が懐かしく思えてつい足を運んでしまうんです。」
「そうなんですか。」
「はい。それと、聞きたいことがあるんですが?」
「なんですか?」
「私たち何処かで会いましたか?」
僕はそこでわかった。
そして泣き出しそうな顔で僕は彼女に言うのだった。
「おかえり。」
と。
彼女の髪の毛を縛っている紐は、僕の左手と同じ赤色の紐だった。
読んでくれてありがとうございます。
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