60「ご褒美、見ます?」
2話連続更新の2話目です。最新話を読みにきている方はお気をつけください。
放課後の学校、日誌を書く朱葉に、相変わらずうっとうしく都築がからんでくる。
「ねー朱葉ちゃん~クラス会しよーよ~」
「何度も言うけどわたしそういうのよくわかんないから。企画してくれたら相談はのるし」
「ちぇ。わかったよー」
放課後の、騒がしい教室でふと顔をあげて、朱葉がきく。
「都築くん、部活なんだっけ? 新入生歓迎しにいかなくていいの? どこにも所属してないの?」
「俺ねぇバスケ部。人数あわせの幽霊部員~」
だから新歓はコンパだけ行くのだよん、とちゃらいポーズをきめていう。
「あっそ。じゃあいいわ。」
朱葉があっさり言うと、
「なになに? 俺に何かお願いでもあった? あれ、朱葉ちゃんって何部だっけ」
「部活は入ってないよ」
「じゃあなに? デートのお誘い?」
「お誘いでもないし」
立ち上がって鞄をつかみながら、朱葉が声をかける。
「あのさぁ、都築くん的にはさ」
振り返った都築に、言う。
「オタクって、どう思う?」
都築はへらっと楽しそうに笑って。
「俺も恋愛オタクだよお」
となめた返事。でもまぁ、そんなもんだよな、と朱葉は思いながら、教室を出た。
何か会議が入っているようで、職員室は閑散としていた。桐生の机に日誌を置くと、「早乙女くんへ」と書かれた封筒があったので、ひきとって職員室をあとにする。
外れの空き教室の鍵をあけ、入っていく。
「そのうち張り紙でもしないとな……」
机と椅子が雑然と置かれている。中心部に並べられた机には、最新式の、トレース台の箱。
「ほんとに、備品予算で買ったんだ」
いいのかねぇ、と思いながら、掃除をしていたら、ノックの音。
「どうぞー」
小さくドアが開いて、おそるおそる、顔を出したのは、静島咲、その人で。
朱葉がふっと笑って言う。
「…………ようこそ。漫画研究同好会へ」
飛び込んできた咲が、朱葉にとびついてくる。
結局まったく甘いよな、とお互い言いながら、朱葉は漫画研究同好会の申請書を出したのだ。とりあえず同好会に必要なのは三人で、夏美には名前だけ入ってもらっている。
つくりたいんだけど、名前を貸してくれない? と聞いたら、夏美は「オッケーよ~。放課後はあんまり残れないけど」と軽い返事だったけれど、顧問の名前を聞いて、さすがに驚いていた。
『なんで????????』
という言葉に、
『頼んだら、別にいいって。なんでも、大学時代は漫研だったみたいなんだよね』
えーめっちゃ意外ー!! と夏美は叫んでいた。
──ばれるの、いいの? と聞いたら。
早乙女くんがいいなら、いいよ、と桐生は言った。
まあ、そういうわけで、顧問は朱葉の、担任、桐生和人その人だった。
まだ同好会なので、新歓のイベントに間に合わなかったし動くつもりはない。これから、秋にある文化祭ででも考えればいいだろう。
咲に連絡をしたら、文字通り泣いて喜んだ。他の部員は、咲が選んできた方がいいのかもな、と思っている。
二人で騒々しく萌えの話をしてたら、ガーガーと鞄の中で振動音。
「咲ちゃん、携帯鳴ってない?」
朱葉に言われて、ぱっと携帯に飛びついた咲が、
「大変!!」
と立ち上がる。
「もう、こんな時間……! わーん、九堂が駅まで迎えにくるんです! すごく怒ってる……!!」
「え、こんな時間って……」
まだ放課後一時間くらいしかたってないよ? という朱葉に。
「うち、門限だけめっちゃ厳しいんです!!」
と咲があわただしく部屋を出て行く。「先輩、明日また!」と言葉を残して。
「はいはい、明日またね~」
騒々しい咲がかえると、しん、と教室が静まりかえる。
「絵でも描くかぁ」
スケッチブックを取り出し、ひとりで黙々と描いていると。
「やってるかー」
ドアが開いて、現れたのは桐生だった。会議を終えたのだろう。窓の外はもう暗くなってしまっている。
「あれ、静島くんは?」
「来たんだけど、30分くらいですぐ帰っちゃいましたよ。門限厳しいんですって。おうち、遠いですしね」
「へー……」
疲れた様子で椅子に座る桐生に、朱葉が笑って。
「ご褒美、見ます?」
スケッチブックを、ひらひらとさせる。
本当にガチで泣かれたのには引いたけれども。
色々あったけど、結局。
二人の秘密の放課後は、これからまだしばらくは、二人のままらしい。
この話をもちまして、ドタバタ新学期編、一応の完結です。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします!(書籍化とコミカライズもネ!)




