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腐男子先生!!!!!  作者: 瀧ことは
先生の言うことにゃ
50/138

50「どうぞ、よろしく」

 外では桜が満開らしい。

 高校三年生になった早乙女朱葉は、出かける前に、まだ軽い鞄に、「そういえば忘れてたな」と薄い本を一冊詰めた。不測の事態があっても困らないように、中身の見えない袋にいれて。

 先月末のイベントで、桐生から頼まれた同人誌だった。帰り際に色々あったものだから、すっかり渡すのを忘れてしまった。

 朱葉はともかく、桐生の方も忘れていたのだから、彼もよほど慌ただしい気持ちだったのか、動転していたのか。

 いつも通りに家を出て、学校に向かう。電車の中はいつもより、心なしか混んでいる。スーツの人間も多いから、社会のはじまりも予感させた。

 相変わらずゲームのストーリー消化をして電車から降り、学校に向かう。下駄箱から見えるホールには、人だかりが出来ている。


「あげはー!!」


 その人だかりから、手をぴょんとあげて振ってきたのは、友人である河野夏美で、朱葉に飛びつくと喜びを抑えきれないように言った。


「おんなじクラスだよ! 3-3!」

「マジで? やったね」


 朱葉も笑顔で言ったけれど、それほど意外ではなかった。可能性的に、高いのだ。朱葉も夏美も、私立文系大学を希望に出していたから。

 朱葉の学校は、公立高校でも中程で、進学校といえるほどではない。もちろん難関大学を目指す生徒もいるけれど、朱葉は都内でいけるところがあればそれでいいかな、と思っているし、親も強くは言わない方だった。


「それでねそれでねっ」


 夏美はひどく浮かれた気持ちを隠さずに、身体を揺らしている。


「? どうかしたの?」

「もーめっちゃサプライズ! 自分の目で確かめてよ!!」


 掲示板の前まで引きずってこられると、朱葉が名簿をぼんやりと眺めた。自分の名前はちゃんとあるし、あいうえお順でそのいくつか上に、夏美の名前もある。「もーそこじゃなくて! もっと! 上、上!」と促されるままに、視線を上げていけば。



「…………は?」



 朱葉の目が、点になった。




 名簿順に座る、騒がしい教室。クラス替えとはいえ、文系クラスで半分は顔見知りで、それほど新鮮みはない。それでも、沸き立つ心があるのだけれど、朱葉はまだ、混乱から立ち直れていなかった。

 チャイムが鳴り、ほどなく、教室の扉が開く。


「あー、あってるよな」


 教室の番号を確認しながら入ってきたその姿に、ひゅー! と誰からともなく上がる声があった。


「静かに」


 教壇に立つ、その姿を、朱葉は半眼で見詰める。心なしかいつもより整った髪型。きっちりとしたスーツ。そして、相変わらず涼しげな顔つきで。


「今年一年、このクラスの担任となった、生物担当の、桐生和人です」


 どうぞ、よろしく、という言葉に。

(聞いてないんですけど!?)

 と朱葉は、冷たい形相。

 桐生が一瞬朱葉の方を見て、気まずさを隠すように目をそらす。


「昨年まで副担任として2組をもっていましたが、社会の小沢先生が早期退職となり、担任を受け持つことになりました」


 心なしか、挨拶も言い訳がましい。


「これから始業式になるわけだけど、式典のあとのホームルームでは、クラス委員を決めるから……」

「先生それよりクラス会やろ~!」

「親睦深めよーよ!」

 調子のいい生徒の言葉に、「クラス委員がさっさと決まって時間が余ったらな」と返している。

 なんだかんだと、人気なのだ。若くて顔もよくて、授業も上手くて生徒のあしらいも上手いから。女子だけではなくて。本来ならば一年生から担任にもつものだろうが、いきなり受験生である三年生のクラスをもたされたのも、期待をされてのことなのかもしれない。

(そういえば前、部活の顧問もやらないかとか言われてたっけ)

 それは逃げ切ったようであるのに、ここにきて担任。しかも……朱葉の担任になるなんて。

 別に、嫌だと思ったわけではない。桐生の希望してこうなったという結果だとも思っていないけれど。

(言ってくれたらいいのに)

 わかってたくせに。と思った。ほんの数日前も会って、二人で話して。絶対あのときにだってわかってたはずなのに。

 交わした言葉を、思い出す。

(守るから)

 こんなに近くに来て、どうすんだよ、ほんとに。




「……で、会えないし」

 始業式になる前に、担任に盛り上がっている夏美を置いて生物準備室に来たのに、鍵がかかっていた。

「職員室かな……」

 担任ももったわけだから、多分ここだけじゃなくて職員室にも机が出来たのかもしれない。忙しくもなるのだろう。

(もうあんま、会えないのかな)

 担任で毎日教室では会えるのだろうけど。

 そういうことじゃないのだ。

 先生と、生徒だけど。それだけじゃない、はずだったのに。二人の、放課後を、大事にしたいって。言ってくれたと思っていたのに。朱葉も、思っていたはずなのに。

(なんだかなー……)

 ポケットの中でスマホをさわる。

 メッセージなら送れるだろう。でも、そういうことじゃないのだ。

 そういうことじゃない。じゃあ、どういうことかは、わからないけれど。

 どこか肩を落として、戻っていく姿を。


 離れた職員室の窓から、桐生が眺めていた。


波乱の新学期編!!!!!

ずっと展開を考えていたんですが、なんとか、なんとかこの方向で……。

どうなる二人の放課後は!?

しばらく続きますぞ。

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