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腐男子先生!!!!!  作者: 瀧ことは
先生の言うことにゃ
48/138

48「信じて」

 どこかへ行こうか、と言われて、「はあ、アニメショップですか? それとも同人誌ショップ? コラボカフェですか、聖地巡礼ですか?」と朱葉が真顔で聞き返したら、桐生は真顔でハンドルをきりながら、


「いや、ゆっくり話せるとこ」


 邪魔が入らないところがいいな、と静かに加えた。朱葉は目を丸くして、思わず言葉をなくしてしまった。緊張の糸がきれたと思っていたのに、なんだかまた、緊張をしてしまう。

 止められたカーステレオからはなんの音楽も流れてこなくて。

(…………気まずい)

 気まずいというか、心の置き所が見つからなかった。どんな顔をしていいのかもわからない。

 夕暮れは徐々に夜になりつつある。隣の、顔面だけは綺麗な顔を横目で見て、それからスマホに目をおとし、行き場もなく時計を見て。はっとして朱葉が聞く。

「え、先生仕事は?」

「親でも倒れたことにしよう」

 いや、だめでしょって朱葉がつっこむが、「連絡はしてある、遅れて合流するよ」と返された。そう言われてしまったら、それ以上朱葉は、何もいえなくて。

「少し戻って、海浜公園にでも行こう」

 桐生の静かな声を、半ばうつむき加減に、朱葉は聞いていた。


「直接、話せる時に。言っておきたいことがあるんだ」


 浅い夜がはじまり、二人の車が湾岸道路を走っていく。




 で、これみよがしな夜景スポット。

 まだはやい時間でひとけもなく、暗い車内でぼんやりと照らされている、つきあわせた二人の顔。

 シートベルトはしめずに、身をよせて。


「ああああ!! 先生ちょっと!! 負けたんだけど!!!」

「だから!! そのスキルは今使っちゃだめだっていっただろ! 付加効果のターン数を見極めろ! そんなぬるいプレイでこれからの限定イベントがこなせると思うなよ!?」


 鬼のようなスマホゲーム指南がはじまっていた。教育目標は初心者プレイヤーである朱葉を限定イベント攻略出来るまでもっていくことだった。年度末でなかなか学校でも時間がとれないし、SNSのメッセージではらちがあかないと踏んだらしい。ガチ教師のガチ指導で半泣きになりながら時間が過ぎる。


「スタミナつきたーーー手が痛い!!」

「おつかれさま。あとで復習しておくように」


 集中指導をおえて、朱葉がシートに沈む。

 タブレットから顔を上げずに、桐生が言う。


「あのね、早乙女くん」

「うん?」

 改まった口調に、朱葉が顔をあげると。

「…………俺も別に、ジャンル替えを迫ってるわけでは、ないから」

 どこか意気消沈したような、神妙な顔で言われたので。


「……しらんわ」


 呆れ果てて、すごい顔をして朱葉が言う。

 ずっと、ひっかかっていたことでもあったので。爆発した。

「もーー知らないよ! これでも!! はじめてガッツリ描き始めたカップリングなの!! こちとらいろんな童貞捧げてるの!! まだ全然描ききってないし原作も盛り上がりまくりだし、推しは常に最高だしちょっとやそっとじゃ鞍替えする気はありません!!」

 思いあまってしまった咲もそうだし、教えておいてちょっと責任を感じているであろう桐生だって、馬鹿にしすぎじゃない!? と思うのだ。

「よかった……よかった……」

 両手で顔を手で覆ってさめざめと桐生が言う。ガチで泣いている気がするが、どうでもいい。

 馬鹿馬鹿しい夜景を見ながら、朱葉は頬を膨らませていたが。


「まあ……今回は、ちょっと反省しました」


 ため息をついて、朱葉が言うので、桐生が振り返るのが、暗い車内でもわかった。

「あんまり、自覚なかったんですけど。こんなこというの、おこがましいって本当に思うんですけど」

 顔を見合わせ、朱葉も思い詰めた顔で言った。

「……わたし、痛い信者集める系なんですかね……?」

 あれ、とか、これ、とか。

「いや」

 とっさに桐生が否定の言葉を口にし。


「いや、そんな……そん……な……ことも……なく……はない……かな……」

「先生こっちむいて!! わたしの目を見てはっきり答えて!!」


 自分のことを思い返しながら、だんだん目をそらしていく桐生に、朱葉が言う。


「いや、でも、守りますよ」


 気をとりなおして、振り返った桐生が言う。


「俺が、守るから」


 まっすぐに、朱葉を見て。


「信じて」


 そう、言うので。一応、「……はい……」とは勢い答えてみたものの。

(痛い信者トップに言われてもな……)

 と、思っていたのは、黙っておいた。今回は、まあ、来てくれたし。やっぱり、先生がいなければ、怖かったであろうことも確かだから。

 よくよく思い返してみて、いろいろプラスマイナスはあるけれど、とりあえず、まあ、信じてやるかと朱葉は思う。

 好きな、ものには。

 全力で嘘をつかない人なのだ。それは……知っている。色々、迷惑だけど。


「静ちゃん……咲ちゃんか。どうします?」

「次にやったら吊す」

「そういうことじゃないですよ!? 先生の本性ばれてるけどいいんですかって聞いたんです!!」

 教師だと言ったうえで、桐生はオタクトークを全開してしまった。もっとも、その内容の方が衝撃的すぎて、状況をわかっているようではなかったけれど。

 桐生は眉間に皺をよせて。

「うーん……まぁ……言いふらすかな……」

 半ば諦め気味に呟く。

 だめじゃないですか、と朱葉が言って。

「わたしの方から、黙っておいてくれるよう、言っておきますよ」

 多分、わたしの言うことなら聞いてくれると思うから、と朱葉が言えば、桐生は少し心配げに振り返って。

「そのかわりにリクエストをきくとかは……」

「お前じゃねえんだよ」

 寝ぼけたような台詞に、絶対零度の冷たさで返事をする。

「じゃあ、そういうことで」

 そろそろ、帰りますか、と言い出したのは朱葉の方だった。「ん」と桐生は、気負った風もなく、キーを回した。

 おあつらえむきな夜景だったけれど、これも、生徒がうけた問題のケア、その相談の、一環でしかない。

 そういえば、先生とは、夜景ばっかりを見ている気がする、と朱葉は思う。イルミネーションとか。ライトアップとか。

 綺麗だな、と朱葉は思った。この綺麗な光景が、忘れがたくて、ずっと覚えているような気がした。

 二人とも言葉少なに、カーステレオも沈黙したままで、帰路についた。


「先生、今日はありがとうございました」


 最寄りの駅から少し離れた場所で、車を降りて朱葉が言った。

「先生に、相談をしてよかったです」

 先生は神妙な顔で頷いて、気をつけて、帰るようにと、先生らしい言葉をかけてくれた。それから。


「早乙女くん」


 歩き出そうとした朱葉を呼び止める。振り返る、朱葉に。


「いや……」


 何かを言おうとして、それを遮るように。


「また、四月に」


 はい、また四月に、と別れた。

 それが、高校二年生の朱葉が、桐生に会った、最後になった。

やったーーーー3月!!ようやくおわった!!!

明日もう4月だよ!誰だよもう連続更新はしないっていったやつ!そういうことだよ!

ちょっとするから……よければみてね……。

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