表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腐男子先生!!!!!  作者: 瀧ことは
先生の言うことにゃ
44/138

44「平気じゃなくてもいいけど、大丈夫」

 イベントはいつもより少し早く終わらせ、アフターの誘いも断って、朱葉は会場を出た。あまり多く歩き回ることもしなかったので、持ち込んだ新刊も、買い物とあわせても宅急便で搬出するほどの量にはならなかった。ただ、帰り際会場を横切り桐生のお使いだけはすませたあたり、「何をしているんだ?」と自分で思わなくともなかったが。

 しかも買い物に行ったら流石に、朱葉も好きそうな本で、ぐう、となった。桐生とはこんなところも趣味が合う。

(読ませてもらおう……)

 指定の既刊を買い、足早にそのホールを出ようとした。時間もちょうど、桐生が着くと言っていた時間だった。

 ぱっと、目の前に人影がきて、朱葉は反射でよけた。イベントを歩く若者の嗜みのごとく素早い動きだった。そのまま、人影に顔を上げることもせずに立ち去ろうとして。


「あの」


 その身体が、朱葉の前に立ちはだかるように、慌てて動いた。


「すみません、あの」


 そればかりか、明確に声をかけられた。男の人の声だった。ざわりとした不安とともに顔を上げる。

 スーツだ、と思った。きっちりとしたスーツなのに、顔はどこか疲れたような褪せた表情だった。変だな、と思った。

 目つきがあんまりよくなく、年齢は、若くはないだろう、とだけ思った。ただの印象だ。でも、そんなことより、朱葉の心にひっかかったのは。


(荷物が、少なすぎる)


 このイベント会場、両手を手ぶらで歩いているのは本当に客だろうか。スタッフらしき、しるしもかけてはいない。

 じり、と朱葉が、踵に力をいれる。

 男性はどこか焦ったような顔で、眉間に皺を寄せながら、早口で言った。


「ちょっと、お話を、……見えない、ところで」


 スーツの。男性。心当たりなんてひとつもない。けれど。


「嫌です」


 朱葉はきっぱりと言った。拳に力をいれて、強く睨んで。


「誰ですか」


 そう尋ねたら、男性は露骨に困った顔をした。薄いため息。それから周りを気にする様子を見せて。

「あちらで、ちょっと」

 肩に手を触れようとした。強い力ではなかったけれど、突然触れられて、大きい手が、……それなりに、怖かった。


「嫌です!!」


 振り払って、来た道を戻ろうとする。ホールの地図は完全に頭に入っている。今からなら、宅配搬入の口から外に出られるはずだった。

 きびすを返した朱葉の背に、慌てた声がかかる。


「待って下さい!! あの、……先生……」


 先生、と、言った気がする。何かの聞き間違えだったかもしれない。けど。

(先生)

 朱葉の神経が、過敏に反応した。

 思わず大声で叫ぶ。



「警察を呼びますから!!!!」



 そして、周りのぎょっとした様子を振り切り、人にぶつからないように走りだす。暑いわけでもないのに、じわりと汗がにじんで、だというのに指先は冷たかった。心臓の音がうるさい。でも、足を止めることも、振り返ることも出来なくて、朱葉は待ち合わせの場所に急いだ。

 今、たとえば、会う、ことが、得策だとは思わなかったけれど。

 ひとりでいるのは、ちょっと、耐えられそうになかった。




 指定された会場脇の広場に出ると、朱葉は息を整えることもせずに辺りを見回した。目の前がちかちかとしていた。それが動揺であることも、朱葉にはわからなかった。

 ぱ、と音が鳴った。

 あやふやなステップでも踏むように、朱葉が辺りをぐるりと見渡す。焦点さえも定かではなかったけれど、その傍らに車が停まって、助手席があいた。

 奥から手を伸ばしているのは、──見慣れた、桐生の、きっちりした教師姿だった。オンの姿だ、ということは、何か仕事も入っていたのかもしれない。

 けれど、安心を、した。



「早乙女くん」



 呼ばれた。朱葉が転がりこむように車中に入る。乗ったことのない、助手席に。

「はぁ、は……」

「落ち着いて」

 朱葉の前で桐生が手を数度、開いたり閉じたりしてみせる。その仕草で、ゆっくり、焦点があっていくのがわかった。ものの輪郭がはっきり見えてくる。

「いや、平気……」

「平気じゃなくてもいいけど、大丈夫」

 まだ少し青ざめた顔で、言った朱葉の言葉を桐生が遮るように言う。そうか、平気じゃなくていいんだ、と思った。

 平気じゃなくていい。

 でも、大丈夫。

 その二つはちゃんと、同時に成り立つことなのだと思った。だいぶ、肩の力が抜けた。

「もう、なんなんだよ……」

 うわごとのように朱葉が言う。

「わけわかんない……」

「うん」

 ぽんぽん、と肩を叩かれて。

「よく頑張ったな」

 そう言って、助手席のシートに座る朱葉に、覆い被さった。

(えっ)

 驚きに朱葉が強く目をつむる。抱きすくめられる、と思った。それは、ちょっと。


「先生、だめ……っ」


「だめじゃない」


 ジーっと音がして。軽い、圧迫。目を開いてみれば。


「シートベルト、道路交通法」


 真顔で言われた。


 あ、そう、ですよね、と朱葉は答えた。 

 抱きすくめられるかと思った。言わなかったけれど。

 桐生は自分もシートベルトをつけると、車を発進させる。それまで桐生はどこか落ち着いた顔をしていたけれど、しばらく車を走らせて少し目つきを変えた。


「早乙女くん、頭下げて。振り向かないように」


 静かな声だったけれど、その言葉に朱葉が眉をよせて聞き返す。」

「後ろ。タクシー」

 ついてきてる、と言われ、ぞわりと背筋があわだった。

「せ、先生」

 サイドミラーさえ見られないでいると、桐生は信号で軽くオーディオを触って。


「一度やってみたかったんだよな」


 鳴りだしたのは、有名な刑事ドラマのBGM。年代は違うけれど、朱葉にも聞き覚えがあった。

 高らかな音楽とともにアクセルを踏み込んで、桐生が楽しげに呟く。


「レインボーブリッジを封鎖せよ、ってね」


 おいこら遊びじゃねえんだぞ! と朱葉は思ったけれど。

 軽快な音楽は、なんだかもう、怖くはなくて。

(わたしは小さい名探偵のやつのほうがいいけどな)

 と言おうとしたけれど。

 なんだか、生存率がとたんに下がりそうなので、言うのはやっぱり、やめにした。

この話はどこにいくんだ。

そして年代は大丈夫なのか。(映画のFINALは5年前だよ!)

はやめに!!次ははやめに更新します!もうらちがあかんからな!がんばります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ